第21話 妄想新婚生活

「お前……めちゃくちゃ体鍛えてんのな」


「そうでもない。礼二だって腹筋われてるじゃないか」


「まあ、俺は部活にも入ってるしそこで鍛えてるからな。でも、お前は帰宅部だろ?」


「俺にもいろいろあったんだよ。こんな風に鍛えないといけないような深いわけがな」


「そのワケっていうにはその腹にいっぱいある傷跡に関係してるのか?」


「ああ、多大に関係してるな」


 体育の授業のため体操服に着替えていると礼二からそんな話をされる。

 とくに隠すことでもなかったけど、声を大にして話すような事でもないと思った俺は適当に濁して話す。


「結構気になるが……ま、深くは聞かない方がいいんだろうな。お前にもいろんな事情があるんだろうし」


「そうしてくれると助かるよ」


「別に俺はお前と喧嘩したいわけでも弱みを握りたいわけでもないしな。お前と仲良くできればそれでいいんだよ」


「本当にいいやつだな。礼二は」


 こんなに良いやついなんていないのではないだろうかと疑うほどには礼二は好青年だった。

 なんで今のこいつに彼女がいないんだろうか?

 俺にはあまりわからないけど、世の女性は見る目がないのではないのだろうか?


「別にんなことねえよ。誰にだって触れられたくない過去の一つや二つあるもんだ。無理に聞くなんて野暮ってもんだろ」


「その口ぶり、礼二にもそんな過去があるのか?」


「さてな。それは秘密ってやつよ」


「ま、お前が詮索してこないんなら俺も詮索するつもりはない。これからも礼二とは仲良くしていきたいからな」


 こんなに気の良い同性の友人はあまり失いたくない。

 俺は友達が少ないからな。


「それは俺もだな。んじゃ、今日も張り切ってバレーボールしますか!」


「おうよ」


 こうして俺たちは体育館に向かう。

 礼二はとんでもない運動神経でバレーボールで大活躍していた。

 正直、あまりの運動神経についていくので精いっぱいだった。


 ◇


「アキって本当に入院してたの?」


「してたよ! というか、理奈が毎日お見舞いに来てくれていたじゃないか」


「そ、それはそうなんだけどさ。でもアキのテストの点数を見るとどうしても信じられなくて」


 理奈は俺の答案用紙をチラッと見ながらため息をつく。

 ちなみに、今回の俺のテストの点数は平均90点を超えていた。

 三科目くらいは満点を取れていて、学年順位は理奈に次ぐ二位。


「それなりに真剣に勉強したからな。理奈にも教えてもらったしこのくらいの点数が取れるのはもはや当然といった方がいいくらいだ」


「むぅ~確かにアキは凄く勉強頑張ってたけど、だとしても高すぎじゃない?」


「そんなことない。現に理奈には点数で勝てなかったわけだしな」


「普通に三週間くらい入院してて授業聞いてないアキに点数で負けたら私、泣いちゃうかも」


「……泣くことは無いだろうに」


 まあ、理奈って意外とそういう所にプライドはあるだろうし本当に負けていたら泣いていたのかもしれない。

 そうならなくてよかったという思いが半分、次回こそは理奈に勝ちたいと思う気持ちが半分といった胸中だった。


「次も私が勝つからね?」


「それはどうだろうな。俺も負けず嫌いだ。次は理奈から学年一位の称号を奪う事にしよう」


「言うじゃん、まあ二人ともいい点数だったという事でおめでとうだね!」


「だな。理奈にしっかり教えてもらえたからこそ俺はこんなに良い点を取れたんだ。本当にありがとな」


 理奈がいなければここまで良い点数を取ることなんて出来なかっただろう。

 少なくとも100点を取った科目は理奈が特にしっかりと教えてくれた科目だ。

 だから、理奈がいなければ100点は取れなかったと思う。

 そう言う点では本当に感謝しかない。

 それに、理奈は超えないといけない壁だ。


「また次のテストも一緒に頑張ろうね」


「ああ。また勉強を教えてくれ」


「もちろん! 一緒に勉強していい点とって一緒の大学に行こうね!」


「当たり前だ。理奈と同じ大学でキャンパスライフを過ごすのが今の所の俺の目標だからな」


 せっかくこうやって理奈と付き合うことが出来ているのに同じ大学に行けないのなんて考えられない。

 正直、どんな手を使ってでも理奈と同じ大学に行く。

 そのために理奈に志望校のレベルを下げさせることはしたくない。

 だから、理奈と同等かそれ以上の学力を身につけないといけない。

 それくらいの努力はしてみよう。

 そんなの、俺が二年間耐えてきた苦痛に比べれば楽なもんだ。

 ただ、毎日勉強するだけでいいんだからな。


「ふふっ、私もアキと同じ大学に行きたいからぜひとも頑張ってね?」


「任せといてくれ。理奈と離れる気なんて俺は全くないんだからな」


「そっか、ま、変な話してないでそろそろゆっくりしますか。今日は私がコーヒー淹れてあげる」


 理奈は炬燵から出るとキッチンに向かう。

 最近は俺がずっとコーヒーを淹れてたから理奈が淹れてくれるコーヒーを飲むのは結構久しぶりになるのかもしれない。

 楽しみにしつつ、俺は理奈がコーヒーを淹れている姿を眺める。


(なんか、こうして家に二人でいると結婚してるみたいでなんかドキドキするな)


 そんなしょうもない事を考えていた。

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