第14話 幸せな日常を謳歌する第一歩

「俺が鈍感すぎて……?」


「……うん」


「えっと……?」


 俺が鈍感すぎて怒ってた?

 俺何か変な事したっけ?

 ……不味い。心当たりが全くない。

 いや、待てよ……本当にないか?

 深く思い出すんだ。


(……うん。全く思い出せない。どれだけ考えても心当たりが出てこない)


「私、好きな人いるって言ったじゃん?」


「あ、ああ。病室で言ってたな。それと何か関係があるのか?」


「正直に答えて欲しいんだけど、あの話を聞いてアキはどう思ったの?」


 ……俺がどう思ったか。

 そんなの、モヤモヤしたに決まってる。

 理奈が誰の事を好きなのかはわからなかったけど、いつかは俺から離れて行ってしまうというのを意識して悲しくなったに決まってる。

 だけど、それを馬鹿正直に伝えてもいい物だろうか。


「……」


「もう一回言うよ。正直に、アキが思ったことを教えて欲しい」


 綺麗な翡翠色の双眸が真っすぐと俺を射抜く。

 こんな目で見られては嘘をつくことやはぐらかすことなんて出来ない。


「モヤモヤしたよ。理奈がどこか遠いところに行ってしまうような気がしてさ。でも、彼氏でもない俺がこんなことを思うなんて気持ち悪いよな。ごめん」


 そう。俺は理奈の彼氏でも何でもない。

 ただの幼馴染なんだ。

 彼女が誰と付き合っても、俺がそれに対してどうこう言う権利なんてないし、嫉妬する権利なんかもない。


「気持ち悪くなんかないよ。だって、私はアキが誰かと付き合ってるって聞いてすっごく悲しかったもん。嫉妬もしたしモヤモヤした。でも、もう別れてるって聞いて本当に嬉しくなったよ」


「……それって」


「私はアキのことが好きだよ。ずっと昔から」


「……」


 理奈が俺のことを好きだった?

 そんな素振りあったか?

 でも、理奈はこういう所で変な嘘をつくような子じゃない。

 つまり、本当に……


「流石に無言は心に来るから何か言って欲しいんだけど?」


「えっ、あっ、いやごめん。あまりの出来事に思考が追い付かないというか」


「私、結構昔からアキにアピールしてたと思うんだけどな。やっぱりアキは鈍感なんだから」


 少し呆れたように理奈は笑った。

 その顔があまりにも可愛すぎて顔が熱くなる。

 勿論、心臓に鼓動も早くなるわけだが今そのことを気にしてる余裕は俺には無かった。


「ごめん。全く気付かなかった」


「知ってる。というか、そうじゃなきゃ朝、あんなこと言わないでしょ?」


「あ~それは確かにそうかも」


 なんで理奈が朝怒ったのかわかった。

 確かに、自分が凄くアピールしてるのに他に好きな男がいると思われてたら不快かもしれない。

 悪い事しちゃったな。


「でしょ! というか私、凄く恥ずかしいカミングアウトをしちゃった気がする」


「かもね。でも、大丈夫」


「何が?」


「俺も理奈のことが好きだから」


 理奈が気持ちを伝えてくれたのに俺自身が逃げることなんて考えられない。

 俺は理奈のおかげで幸せを掴むことができた。

 あの時、理奈に会う事が出来なかったらこんな風に幸せな日常を送れてはいないと思う。


「……それって」


 理奈は口元を押さえて顔を真っ赤にしている。

 どんな表情をしても、理奈はやっぱり可愛いな。


「清水理奈さん。俺と付き合ってください」


 精一杯の勇気を振り絞って、綺麗な翡翠色の見つめて自分の真っすぐで正直な気持ちを吐露する。

 緊張で心臓がバクバク早鐘を打つ。

 眩暈がしそうなほどにくらくらする。

 理奈はこんなに緊張することを言ってくれたのか。


「……はい。よろこんで」


 理奈は今まで俺が見た中で一番綺麗な笑顔を見せてくれた。

 息を飲むほど美しい理奈の顔を見て、返事を聞いて喜びが止まらなかった。

 こうして、俺の本当に幸せな日常を幕を開けるのだった。

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