FILE 18: 呉越同舟

CIAのSUVは、封鎖されつつある三崎市街を、猛スピードで疾走していた。後部座席には、クロウの部下であるSAD隊員が、アサルトライフルを構えて後方を警戒している。


「一体、どういうことなの!?」

渚は、シートベルトを締めながら叫んだ。

「どういうこともクソもあるか!」クロウは、悪態をつきながらハンドルを切った。「あんたが仕掛けた横浜のクソみたいなショーのおかげで、我々はまんまと中国の猿どもに出し抜かれた! 奴らは、天野だけでなく、"心臓"そのものを奪う気だ!」

「"心臓"…?」

「トリトン・コンプレックスの地下深くにある、研究のコアユニットだ! あれを失えば、我々が数十億ドルと10年を費やした全てが水の泡になる!」


クロウの部隊は、横浜の混乱から離脱し、独自の情報網で中国軍のEMP攻撃を察知。施設の防衛、あるいは破壊のために、三崎市へと向かっている途中だった。そして、市役所が襲撃されているのを見て、咄嗟に目標を「市長の確保」に切り替えたのだ。


「どこへ行くの!?」

「どこでもいい!奴らのいない場所だ!」

だが、その時、車のカーナビ画面が、不気味なノイズを発して砂嵐に変わった。街中の信号が、一斉に明滅を始める。中国軍の電子妨害が、市街全域に拡大していた。


「クソッ!」

行く手にも、後方にも、蛟龍突撃隊の黒いバンが姿を現し始めていた。彼らは、巨大な網で魚を追い込むように、じわじわと包囲網を狭めてきている。


その絶望的な状況の中、渚の暗号化端末が、再びメッセージを受信した。監査官からだった。

内容は、一枚の地図。そして、一文。


『古い城へ向かえ。そこが、唯一の聖域サンクチュアリだ』


地図が示していたのは、三崎市の外れ、小高い丘の上にある、廃墟と化した城跡だった。観光客も寄り付かない、忘れ去られた場所。

「ここへ行って!」渚は、地図をクロウに突きつけた。

「城だと? 正気か!? 美人市長の突飛な思いつきに、部下の命を賭けろと?」

「いいから! 行くのよ!」


渚の気迫に押され、クロウは悪態をつきながらも、車を城跡へと向かわせた。

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