FILE 14: 第四の勢力
横浜港本牧ふ頭。
混乱は、臨界点に達していた。
神奈川県警SITの隊員たちは、突如として上空に現れた米軍ヘリに対し、敵意とも困惑ともつかない表情で銃口を向けている。拡声器からは、日米両言語での警告が怒号のように飛び交い、互いの行動を牽制しあっていた。
CIAのジェイソン・クロウは、ブラックホークの機上から、地上の光景を忌々しげに見下ろしていた。日本の警察ごときに邪魔をされ、まんまとモサドの女狐を取り逃がした。SAD部隊を降下させ、強引にでも"荷物"を奪い取るか。だが、同盟国の警察相手に発砲すれば、外交問題では済まない。その一瞬の躊躇が、命取りとなった。
誰も、気づかなかった。
夜の海に溶け込むように停泊していた、一隻の小型貨物船。その船倉から、闇に紛れて海中にエントリーした、12名の影があったことを。
彼らは、中国人民解放軍海軍陸戦隊、その中でも精鋭中の精鋭で構成される特殊部隊「
「……何だ、あれは?」
SITの若い隊員が、最初に気づいた。船の影から、濡れた黒い戦闘服に身を包んだ男たちが、次々と姿を現したのだ。彼らは、日本の警察にも、上空の米軍ヘリにも目もくれず、一直線にある場所へと向かっていた。
サロメが消えた、D-16コンテナの裏。そこには、彼女たちが離脱用に準備していた、小型の高速ボートが係留されていた。サロメは、意識のない天野をボートに引きずり込み、エンジンを始動させようとしていた。
だが、彼女の背後に、音もなく蛟龍突撃隊の隊員が立っていた。
サロメは、殺気を感じて振り返ると同時に、腰の拳銃を抜いた。だが、それよりも早く、隊員の腕が鞭のようにしなり、彼女の手首を砕いた。悲鳴を上げる間もない。もう一方の手が彼女の口を塞ぎ、首筋に特殊なスタンガンが押し当てられる。サロメは、泡を吹いて崩れ落ちた。
「"荷物"を確保。離脱する」
隊長らしき男が、中国語で短い命令を下す。二人の隊員が天野博士を担ぎ上げ、残りの者たちが周囲を警戒する。その動きは、機械のように冷徹で、一切の無駄がなかった。
「待て!」
SIT本部長の柏木が叫んだ。だが、蛟龍突撃隊は警告を完全に無視し、自分たちのボートで闇の中へと消えていく。
上空のクロウも、何が起きたのかを瞬時に理解した。
「撃て!奴らを逃がすな!」
ブラックホークのドアガンナーが、ミニガンを発射しようとする。だが、その瞬間、彼らのヘリの計器類が、一斉に狂ったような警告音を発した。強力な
「どこからだ!?」
「……海上です! 潜水艦から……!」
クロウは、戦慄した。中国は、この作戦のために、原潜まで持ち込んでいたのだ。本気だ。彼らは、最初から、CIAとモサドが食い合っている隙を突き、全てを奪い去るつもりだったのだ。
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