第38話 次の目的
「この世界から悪を滅する。私が目指すのはそれだよ」
サンドイッチを頬張りながら、隣に座る相棒へと熱弁するフォランは、窓の外で走る回る子供達を幸せそうに眺めていた。
対する相棒はゆで卵にかぶりつき、その話に狼の耳を傾けて呟いた。
「御大層な夢なこッたなァ」
「でも出来るはずだ。今や王国最優期とも言われるほど、騎士団の戦力は上がってる。帝国も、聖樹大国も、みんな強者揃いだ。『へレディック』や『幽嵐』を制することができれば、それは正しく、平和の体現と言えると思わないかい?」
「思わねェ」
「あれ!?」
ゆで卵を食い終え、塩のついた親指を舐めるクレアは、桃色の瞳を細めてフォランと同じものを見た。
元気に走り回る笑顔の子供達とそれを見守る親。それらを一通り見回して、牙を鳴らした。
「平和ってのはなァ、実現なんて出来やッしねェ。馬鹿みてェな夢物語を口にすんな。反吐が出る」
そう吐き捨てて、クレアはつかつかと騎士団長室へと歩いていってしまった。ゆで卵が乗っていた皿を片付けることもせず、即座に背中を向けた彼にフォランは声をかけることもできなかった。
「夢物語、か……昔の親友もそう言っていたな」
フォランの掲げる夢は、今も昔もこれからも変わらない。『勇者』として生まれたからには、世界を平和にするという使命を全うしようと自らに言い聞かせるように口にしてきた。
まだ騎士団に入る前、毎度の如く親友には「馬鹿だな」やら「夢物語だ」やらと言われ続けてきたが、それでもこの夢をフォランが捨てることはなかった。
それはこの親友が言葉とは裏腹に、フォランのことを信じ続けてくれたから───
「──行かなきゃ」
クレアの分の皿まで片付けて、フォランも小走りで相棒の後を追う。
叶うかどうかは別として、心に死ぬまで留めておこうと、自分の夢を抱き抱えながら。
~~~
「アヴァロフ帝国?」
焼かれた雑多の肉を貪りながら、ミトは聞こえてきたフレーズをそのまま疑問符をつけて返した。
対面に座るナナメが「そう」と返事をして、追加の肉を焼いてミトへ差し出してくれる。
「次の目的地はそこなんだってさ。当面の目標として、『へレディック』のやるべきことは分かってる?」
「分かってないです」
「はぁ、そこからか……」
ミトの体たらくに嘆息したナナメが、知るべき『へレディック』の趨向を話してくれる。
「『へレディック』は今、世直しをしようとしてる」
「世直し……『へレディック』を中心に回るように、みたいな?」
「違う。もっと想像を超える、馬鹿馬鹿しい話だよ」
ナナメは隣で焦げたパンを頬張るメロへジト目を向けて、
「この世界から悪者を消し去る。それが『へレディック』の当面の目標だよ」
『へレディック』がすべきこと。それを簡単に一言でまとめるとするならば、世界から悪者を消し去ること、という他ない。
「それが何に繋がるって言うんです?」
「さぁ?メロからのお達しだし、リーダーもそれに賛成してるし、みんな脳死で従うからなぁ」
ナナメが責めるような口調でメロへ会話の主導権を投げつけると、メロは焦げたパンのカスをハンカチで拭き取りながら顔を上げた。
「『正義』を打ち破るため、『幽嵐』を落としたい。そのために仲間にしたい奴らがいる」
「『正義』……それ、僕が『へレディック』に入る時も言ってましたよね?二つ名かなんかですか?」
「『天命』であり、二つ名としても有名だ。俺らがいる限り奴は驚異であり、目的を達するのに必ず邪魔になる」
『正義』は『へレディック』の最大の敵であり、聖樹大国に住まう最強の騎士を表しているのだという。
その力量は何が起因しているのか、メロは知っている様子だった。
「皆、そろそろ行こう。馬車の手配ができたよ」
暖簾を退かし、皆を呼びつけるライラの声に、昼食の時間は終わってメロとナナメが立ち上がり、ミトも残りを口にかきこんで急いでついて行く。
「んわっ!?」
その際、机に足がつっかえて転びそうになるのを、メロが優しく受け止める。フォークを咥えっぱだったミトは、メロが支えていなければ地面に顔を打ち付け、フォークが喉に突き刺さっていた頃だ。
「メロさん……」
「間に合ってよかった。気をつけろよ」
腕にしがみつくミトに、メロは優しく微笑んで、
「行くぞ、『
「はいっ」
白く薄い服、背中側の腰で結われた大きな白いリボン、厚底の黒いブーツ、両手を覆うのはブーツと同じ色の手袋。
そして、リボンの上には弦楽器ウルールがある。
『魅惑』の趣味を盛りに盛った服を着た『詩人』は、軽やかなステップで馬車へと向かうのだった。
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