第28話 伝説の『勇者』
『死に狂ひ』を手にしたとて、ミトの身体能力は変わっていない。
そもそも死んだらクローンを自動的に作成するというだけの能力なので、どうしてもシュガーを追いかけることは難しい。
そう、思っていた。
「いぃぇええーーーい!!」
木々が生い茂る森の中、木の枝へ半透明な鎖を突き刺し、それを体内へと引き戻す力を用いて移動しているのは、呪術による鎖を習得したミトだ。
馬で行くような距離を、ミトの細い足で駆け抜けることはほぼ不可能。体力が無くなった瞬間自殺して完全回復を繰り返す方法も考えたが、それでは効率が悪いということで、
「自殺して一つの命を犠牲に、新たな呪術を獲得!」
参考はもちろんシュガーだ。『済し崩れ』による拘束力を逆手にとったのだ。
鎖を手のひらから生やして木に突き刺し、それを拘束力を用いて引き戻し、自ら破壊。それによって『済し崩れ』の、抵抗されると拘束力が強まるという特性を発動。結果的に移動を繰り返す度に移動速度があがるという仕組みだ。
走るよりも断然効率がいい。ただ欠点ももちろんあって、操作を誤ると木に激突し、肉塊になってしまうことがある。
死に方がかなり壮絶になってしまったが、それよりも早くメロに会いたくて、ミトはこの移動法を選んだ。
が、街までの距離の三分の二を抜けたその時、ミトの体の奥底に、言い様のない不快感が湧いた。
何が起因しているのか、ミトは直ぐにわかった。
「『天命』が、使い、づらい?」
それは『天命』を持つ者なら直ぐに気づく呪いだった。ミトは呪いの才能がある代わりに、呪いの効果も受けやすいからか、余計に意識しやすかった。
この呪術が、ミトの移動に直接的な影響を及ぼすことはなかった。なかったが、『死に狂ひ』が発動しないのだとしたら───
「───死ぬぅぅうう!?!?!?」
その最悪な事実に気付いた瞬間、ミトが鎖の操作を誤って飛び上がってしまった。
宙で回転し、頭が地面の方向を向いていることしか分からず、重力に引っ張られながら落ちていく。
しかし、まずいまずいと思って手を伸ばしたお陰か、木の枝を地面に激突する前に掴むことができた。片手が凄まじく痛んだが、命を失う事にはならなかった。
「危なぁい……死ぬ、ところだった……」
気軽に死ねるようになってからというもの、一時間も経たないうちに死が生活の一部になりつつある。
『天命』を封じるなどそうそうないだろうが、その可能性があるのならば無闇矢鱈に死ぬのはよした方がよさそうだ。
「仕方ない、走っていくかぁ」
幸い、ミトの視界の端には真っ白な炎の一本道がある。それはシュガーを追いかけている『呪神恋歌』の通った痕跡だ。
ミトが消すと思い立たない限り消えない炎は、ミトをアプルーラへ導く道標となっていた。
「よーし!行きますか!たーらららー!!」
楽しげに歌いながら、ミトは愛し人に逢いに行くのだった。
~~~
「おぉぉらァッ!!」
雄叫びをあげ、橙色の炎が『勇魔』に迫る。
「凄まじい火力だね」
「そりゃ、お前を倒すためだからな!」
目に映る位置にいるだけで熱を感じるほどの灼熱が、切れ味の良い刃を振り下ろしてくる。恐ろしい殺戮兵器とも言えるそれは、『勇魔』の剣技を打ち払い、炎を吹き出すことで得られた推進力で威力の上がった蹴りをぶち込んだ。
刀身で受けきったものの、体は耐えきれず吹っ飛んで家々を貫通する。瓦礫や家の床に手を付きながら、上手くバランスをとって戦線へ復帰する『勇魔』に、アルゲータは思わず舌打ちする。
強すぎるのだ。今まで戦ったどの敵よりも、この敵は壁としては雄大すぎる。
「乗り越えられる未来が見えないな」
「そうかい。そりゃどうも」
「だがなぁ、『天命』を封じられてるんだろ?シュガーの呪いの気配があった」
「まぁ、確かに使いずらくはあるけれど」
「なら、俺にも勝機はある!」
「はは、理論としては全く成立してないけれど、君のような真っ直ぐな人間は嫌いじゃない」
光り輝く剣が、空中に大量に出現してその剣先をアルゲータに向けられる。
「さぁ、もっと熱くなろう」
「はッ!火傷すんなよ!」
更に高まる炎の熱。魔術としてではなく、剣技として認識されるほどに極められた炎魔術が吹き出され、『勇魔』はアルゲータの努力の結晶に素直に感服する。
魔術師として、目を見張る練度だ。
「穿ちたまえ」
剣を飛ばし、マシンガンのように刃がアルゲータの命を狙う。その閃光を、炎を纏う剣が両断し、打ち払い、焼き尽くされる。
踏み込むアルゲータは、予兆なしに炎を吹き出して速度をあげる。剣は常に『勇魔』の首へ振るわれ、『勇魔』が距離をとろうが攻撃をしようが、その距離が拡がることはない。
宙の剣を掴み取り、『勇魔』はアルゲータと剣の接近戦を持ちかける。アルゲータは屋根を足場に高速の剣技を叩きつけ、体を動かすにつれて炎の火力をどんどん上げていく。
「君自身が焼けるんじゃないか?」
「構わねぇさ!お前が倒せるならな!」
すくい上げるように振るわれる『勇魔』の剣が、極まった炎の斬撃に両断され、刃折れとなる。
「お返しだ!」
そのまま手を緩めず、アルゲータは『勇魔』の胴体へバツ印の斬撃を放った。初対面に負わされた傷と、同じものを刻みつけようという、アルゲータなりの意趣返し。
「丸分かりだね」
その渾身の一撃を、新たな剣の介入によって完璧に防がれる。しかしアルゲータは怯まない。攻撃を当てられたかどうかでなく、相手を倒せたか倒せていないか、それが確固たる確信へと変わるまでは、攻撃を辞めてはならない。
即座に回し蹴りで剣ごと『勇魔』を吹き飛ばし、天へと伸ばした剣の先から巨大な炎の塊を生み出し、剣を振るってそれを放った。
『勇魔』は手を合わせ、互いを逆方向へとねじると、その手と手の隙間に水流が生み出され、凝縮された水の光線が火球を正面から撃ち抜く。
高温が水流に掻き消され、しかし水も即座に蒸発する。その水蒸気に包まれながら、アルゲータが正面から『勇魔』の顔へ刃を突き出す。
が、『勇魔』が屋根を脚で叩いた瞬間、既のところで体が止まる。それは、『勇魔』が足元から発生させた氷に体を包まれたからだ。
体から染み出る炎の火力を最大限に高め、一瞬で氷をも蒸発させたアルゲータは、口から水蒸気を吐きながら回転して刃を振り回す。
『勇魔』はその攻撃を躱すために空へ飛び上がり、生み出した剣を足場にその場に留まって大量の剣をアルゲータ目掛けて突き落とした。
雨より密度が濃い剣の滝にアルゲータが呑み込まれ、派手に家を破壊して瓦礫に埋もれていく。
直後、炎の龍が昇り上がった。
「む」
剣の滝を飲み込みながら、炎龍はその大口を開けて『勇魔』を噛み砕こうとした。『勇魔』は剣から跳んで牙を躱し、炎龍の中へ飲み込まれた剣が燃え尽きていくのを眺めながら、アルゲータを探そうとした、その時、
「逃がすかッ!」
「ッ」
『勇魔』が乗り捨てた剣を足場に、アルゲータが炎龍の中から飛び上がり、『勇魔』の肩を斬りつけた。
鎖骨が割れる一撃に、『勇魔』は仮面の下で顔を顰めた。その気配を感じ取ったのか、アルゲータはにやりと得意げに笑い、
「まだまだ行くぞ!
炎がアルゲータを中心に巻き起こり、爆弾が爆裂したかのように空が炎に埋め尽くされる。アルゲータの背中には炎の翼が形成され、アルゲータが空を支配する挑戦権を得た。
その姿に目を奪われ、『勇魔』は思わず呟いた。
「君は本当に、努力したんだね」
「でやぁぁああッッ!!」
その呟きも、自らの雄叫びで掻き消したアルゲータ。炎を吹きながら推進力を得て、『勇魔』を斬りつけようと迫る。
『勇魔』は剣を足場として生み出し続け、アルゲータの斬撃を躱して反撃を試みる。
互いに引いては突撃しての高度な戦いを繰り広げ、その度に戦う高度は上がっていく。
天空へ向かう『勇魔』を、炎龍が昇って追いかけていくようだ。
繰り返される攻撃に、足場の生成が間に合わず、『勇魔』が次第に追い込まれて、
「これが、俺の絶技」
アルゲータが目を見開き、剣を構えて炎を吹き出した。
「『懲罰』」
一瞬のうちに二度、十字に放たれた炎の斬撃が『勇魔』を飲み込み、空に輝かしい第二の太陽を作り出した。
「続けて、絶技」
超高温の炎に埋もれる『勇魔』の影へ、『勇魔』を追い越したアルゲータが振り返って流れ星のように落下。『懲罰』の中心へ刃を振り下ろす。
「『殺到』」
空を割るような一撃が、クロスされた炎の斬撃を更に切り裂き、地面へと叩きつけられた。
大爆発を巻き起こし、しかし炎の拡散は一箇所に纏められ、超高温の一極集中によって、壊滅したのは四軒だけだった。
破壊した家の持ち主にはあとで謝るとして、アルゲータは自分の炎で眩む視界に『勇魔』を捉えた。
たった今地面に落ちるまで気合いを込めた一撃を放ったが、その頑張りは決して無駄ではなかったらしい。
「やるね」
『勇魔』の来ていた黒いローブが焼き焦げて、胴には大きな斜めの切り傷。かろうじて致命傷は避けられたらしいが、露出した肌の所々が火傷している。
ダメージが通っている。その列記とした事実にアルゲータは胸の内で歓喜するも、これだけやって死なないのかと、改めて壁の高さに絶望する。
しかしそれは一瞬だけだ。刹那とも言えないほど短い時間だ。立ち直りだけは世界一早いというのが、アルゲータの唯一の自慢なのだ。
「絶技」
大きく踏み込む。反撃の剣が出現しようが関係ない。全てを同時に破壊すればいいのだから。
「『強撃』」
炎を剣先に集め、一つの小さな火球を作り出す。色は真っ白で、剣が溶けかけるほどの超高温。アルゲータさえ火傷しそうなそれを、躊躇なく『勇魔』へ叩きつける。
もっと多くの家が軒並み燃え尽きるが仕方がない。ここら一体には既に住民はいないし、家は失っても立て直せる。
要らぬ心配を振り捨て、アルゲータは王国に認められた実力を遺憾無く発揮しようとした。
絶技『強撃』。鍛え上げられた、真似出来ない最高火力の炎の剣技。それに対し、『勇魔』は細く綺麗な人差し指を合わせて、
「『絶対零度』」
一瞬にて無に帰した。
「んな───」
炎は掻き消され、挙句の果てにアルゲータの全身が氷に包まれた。
「君が正直に炎だけで攻めてくるからありがたい。お陰で、私の炎の魔術の参考になった」
『勇魔』が指を鳴らすと、アルゲータの努力の結晶である『強撃』と同等、否、それ以上の凝縮を施された火球が大量に生み出され、『勇魔』の周りを高速で回転し始める。
「初めての魔術さ。名前はそうだな……『白熱球』とかでいいかな?」
回転する『白熱球』は、その速度を保ったまま凍りついたアルゲータに叩きつけられ、超低温から超高温にまで一気に変化させられたことにより空気が震撼する。
『勇魔』が飛びず去った直後、『殺到』を超える爆発が起こり、そこら中に炎が飛び散った。
争う『へレディック』と兵士達にまでその余波は届き、街に大きな炎の海が出来上がった。
「さて、『番犬』はどれほど喰らいつくかな」
燃ゆる街を見下ろしながら、剣に腰掛ける『勇魔』は頬杖を着く。あの真っ白な灼熱の中から、『番犬』が吠えるのを今か今かと待ち望んで───
「う、ぉぉおおお───!!!」
「それでこそ、アルゲータ・サイドレンだ」
溶ける石の地面を踏みつけて、アルゲータが吠えた。
炎の翼をはためかせ、諦めていないアルゲータが『勇魔』へ刃を向ける。
「よくも、やってくれなぁ!!!」
顔が焼け爛れても、アルゲータは『勇魔』との戦いを諦めず、街が破壊されたことへの怒りを思いっきり炎で表現する。
『白熱球』での攻撃は、『勇魔』の一切の手加減が混じっていない本気の一撃だ。そこから立ち上がるばかりか、まだ戦える力があることに、『勇魔』は大いに感心した。
「流石は『番犬』。君がどれほどの努力をしたか、私は知らないが、知らなくても伝わるほどに、君の修練は素晴らしく、尊ばれるべきものだ」
「はッ!命乞いか!?」
「ははっ、命乞いか。それをするのは君だろう?」
飛ぶアルゲータへ、光の剣が向けられる。
「どれほど君は私に喰らいつける?私を楽しませられる?私を───満足させられる?」
剣に全方位を囲まれ、同時に放たれる刃をアルゲータが炎で打ち払う。
しかし防ぎきれぬ刃がアルゲータに突き刺さり、ついにアルゲータは脇腹に深手を負ってしまった。
その隙を見逃さず、『勇魔』が飛び出してアルゲータの顔面を蹴り飛ばした。
アルゲータは墜落し、燃える家々を突き破りながら地面を転がる。脇腹の深手と、今の一撃で脳が揺れて、意識が一気に遠のいた。
狭まる視界、痛む全身、熱に耐えきれず半ばで折れる剣、魔力の枯渇。アルゲータを取り巻く全てが最悪の状態で、満身創痍もいい所だった。
が、アルゲータは屈しない。折れた剣を傍の家の残った壁に突き刺し、それを掴んで立ち上がる。
ズキズキと頭が痛いが、頭を叩いてそれを治した。治したと思い込むことにした。
「本当に凄いよ。君にはなんの才能も『天命』もない。なのにここまで私に立ち向かい、負けじと未だ剣を振るおうとする。それこそ、私が知る騎士というものだ」
地面に降り立った『勇魔』は悠然と歩み、両手を広げながらそうアルゲータを賞賛する。アルゲータはその賞賛には反応しなかったが、その瞳には戦意が宿っていた。
「ぇれ、でぃ……く……!」
「はは、私は『へレディック』という名前じゃない。私には私の名があるんだ。『魅惑』君が付けてくれた『勇魔』も気に入っているけれど、本当の名前だけは唯一無二の宝物なんだ。私の、名前は───」
そう言いかけた『勇魔』。ふと足を止めて、空を見上げた。それに釣られてアルゲータも顔を上げると、夜空に一つの流星が見えた。
それは大きく嘶く炎の馬とアルゲータの親友、その凱旋だった。
「シュガー!ヒバリ!」
「ようやく来たか」
「ッ」
『勇魔』が零した一言。それによって標的が変わったことをアルゲータは察した。
「待て!」
「待てないんだ。だから、追いかけておくれ」
炎の流星は時計塔へ向かっている。『勇魔』はそれを追いかけて、凄まじい脚力で跳んで行ってしまった。
アルゲータは足を踏み出し、痛みを歯を食いしばって耐えて、再び炎の翼をはためかせる。
もう体も魔力も限界だが、それでも親友が狙われているのを黙って見ていられるわけがない。
「行く、ぞぉおおお!!!」
自らにそう言葉を刻みつけ、炎を吹き出して飛んでいく。
家々を飛び越え、空の流星に追いつきそうなくらいの時、流星とアルゲータが同時に時計塔に到達し、『勇魔』はその上にいた仲間と合流した。
「シュガー!無事か!?」
「アルゲータ、僕は大分やられたよ……て、君も大分深手だな」
時計塔にてようやく合流した二人は、互いに体の傷の状態を確かめあって心配を向けあった。
シュガーは隻腕で耳を除いた五感が瀕死。アルゲータは全身焼け爛れてボロボロ。脇腹は刺されて血が流れている。
対して、対峙する敵は健全そのものであった。
「『魅惑』君、ミト君は上手くやったようだね」
「あぁ。予定通りだ」
二人の真蛇の仮面を持つ者は、アルゲータ側の全力攻撃を意に介さず、疲れた様子もなかった。
「アルゲータ、王都に増援を要請してある。今のうちに逃げた方がいい」
「逃がしてくれると思うか?あの敵達が。それに、メダルの姿が」
そうアルゲータが心配した瞬間、『魅惑』と『勇魔』の背後から人影が飛び上がった。
「『
大量の銃弾が放たれ、それを『勇魔』が剣で全て防ぎ切る。そのまま人影は敵二人を飛び越えて、アルゲータとシュガーの間に着地した。
それは、体の所々に傷を負っているメダルだった。
「お二人共、無事ですか?」
「たった今、そうじゃないことを確認しあったところだよ、メダルさん」
「状況最悪だ。いつものことだな!」
「よく笑ってられますね。主人公かなにかなんですか、アルゲータ様」
時計塔の上での対峙、数ではアルゲータ側に分があるが、実力では確実に『魅惑』側が優勢だ。
どうすべきか、アルゲータが悩んでいるその時、シュガーが口を開いた。
「誰かを切り捨てる必要がある」
「いや、なしだ。全員で逃げ出すぞ」
「ならば、私が足止めしますのでお二人がヒバリと共に」
「いーやなしだ。全員で逃げ出すぞ!」
「本当に馬鹿だな、君は」
シュガーの呆れ言葉にアルゲータは軽快に笑い、「冗談だ」と行って二人よりも一歩先へ歩み出した。
「呼んだのは『勇者』や『流転騎士』だろう?最高階級の仮面の『へレディック』がこれだけ居るなら、要請も通るはずだからな」
「それは、そうだけど……」
「よし、なら、シュガーとメダルが逃げろ。俺が一番ここでは必要性が少ない」
シュガーには『真実』という唯一無二の『天命』と呪術の才能がある。この先王国に絶対必要な人材だ。
メダルには書類仕事の手助けに対する恩と、『武器庫』という『天命』の有用性がある。彼女が使う銃という武器は研究の余地があるし、王国の戦力上昇には欠かせない。
なら、一番いらないのは自分だと、アルゲータは背中で主張した。
「泣かせるね」
「嘘吐け」
敵の会話に『勇魔』が茶々を入れ、『魅惑』が嘆息した。敵がこの茶番に付き合ってくれることに感謝しつつ、アルゲータは二人へ振り返って逃げることを促そうとした。
しかし、二人へ振り返ることはできなかった。何故なら、二人ともアルゲータと同じ場所まで歩み出していたからだ。
「幼馴染を見捨てろって方が、難しいかもね。君だけは、特別だから。ただ、死にかけたらすぐ逃げるよ」
「私はあなたの元の労働条件が良くてここに来たんです。優良な雇用主を失う訳にはいきません」
「お前ら……カッコつけんなよ……せっかく俺が覚悟を決めたのに……」
「本当に見捨てるぞ」
「足撃ちますよ?」
「冗談冗談!嬉しいよ、本当に」
三人それぞれが、各々の獲物を握りしめて『へレディック』へ立ち向かう姿勢を見せる。
『魅惑』は何も反応せず、『勇魔』はわざとらしく泣くような素振りを見せる。
「その覚悟、後悔するなよ」
「しないさ!なんたって俺は、『番犬』、アルゲータ・サイドレンだからな!」
崩壊した理論だっていい。今この場で膝が震えないで立ち向かえるのなら、理想論でも綺麗事でもいいから、自分を鼓舞したい。そう思ったアルゲータが炎を吹き出した。
その様子を見て、『勇魔』が『魅惑』を見つめた。
「ならば、こちらもそれなりの覚悟を見せる必要があるな、『勇魔』───いや、ライラ」
「───はは、そうだね」
『勇魔』───ライラが、足を前に出した。
「私は、努力家も、才能屋も、運任せの奇抜な子も、強いなら尊敬するし、素晴らしいと賞賛する」
ライラが仮面に手をかける。
「積み上げたそれは輝かしくて、天然の宝石は見ていて心地がいいし、奇跡を目の当たりにすれば心が踊る」
仮面を外し、その美しいクリーム色の瞳を、三人の敵へと向ける。
「そんな、美しい戦士の在り方を───その全てを捩じ伏せるのが、私は好きなんだ」
ライラは、嗤って、彼らに絶望を叩きつけた。
「───私は、ライラ・アラスターだ」
「…………………………は?」
その言葉に、『真実』の目が絶望を捉えた。
次の瞬間、アプルーラの街を囲う『神封じ』の呪いが崩壊し、シュガーを追いかけていた『呪神恋歌』も瓦解する。
全ての呪いが、圧倒的な光の前に無に帰して、周りの影を蹂躙する。
その一番手に選ばれたシュガーは、思わず膝を落としてしまった。
「おい、どうした!?シュガー!?何を見たんだ!!アイツの『天命』は!?」
「………アル、ゲータ……王都のフォラン殿は、『勇者』だった、よな……?」
「はぁ?何を、今更───」
シュガーは残った腕を伸ばし、震えながらライラを、ライラ・アラスターを指さす。
「奴の、『天命』は───」
シュガーの声は、アルゲータも聞いた事ないほど震えていた。
「──『勇者』と、『時間遡行』だ」
「…………ぁ?」
それは、この世界で最も有名で、最も古い英雄譚にいる、あの大英雄の───
「さぁ、殺し合いだ」
光に包まれ、どこからともなく現れた白金の鎧を身に纏うライラ。長い髪は美しい花の飾りが施された紐で結われ、その手には輝かしい天の光を宿した剣が握りしめられていた。
「『聖剣』アーデルハイト」
それは、ライラを『勇者』であることを証明する、確固たる証拠であった。
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