キライな幼馴染の距離感がバグっている

@ooriku

第1話 潮風とうざいアイツの予感

俺の名前は海斗。その名の通り、海のそばで育った高校二年生だ。うちの窓からは、きらきら光る**相模湾**が見える。潮の匂いが制服に染みつくほど、海は俺の日常だった。


ただ一つ、その日常に必ずセットでついてくる、とびきりうざい存在がいる。


「かーいーとー!」


登校中の、潮風がやや強めな朝。後ろから甲高い声が飛んできた。振り返らなくてもわかる。心底嫌気がさしながら、俺は歩くペースを緩めた。


駆けてきたのは、幼馴染の汐音(しおね)。


肩までの長さの茶色がかった髪を潮風になびかせ、眩しいくらいの笑顔で俺の隣に並ぶ。俺とは正反対の、太陽みたいなやつだ。しかし、この明るさが俺にはどうにも鼻につく。


「おっはよー!今日も海が綺麗だね!」


「…うるせえ」


俺のそっけない返事にも、汐音は少しも気にしない。むしろ、わざとらしいほど肩をくっつけてきた。


「ちょっと、近い。離れろよ」俺は嫌々、半歩ずれる。


「えー、いいじゃん!海斗ってば相変わらず冷たいんだから。幼馴染の特権ってやつでしょ?」


「特権なんてねぇよ。お前と俺は、ただ家が隣なだけだ」


汐音と俺は、生まれた時からずっと一緒だった。文字通り、幼稚園も小学校も中学校も。そして、通学路の海沿いの道も。


昔は、それなりに仲良くもしていた…はずだ。いつからか、この常に明るく、誰にでも好かれる汐音が、俺にとっては鬱陶しい以外の何物でもなくなった。特に、高校に入ってから、彼女がやたらと俺にくっついてくるようになって、その嫌悪感は最高潮に達している。


「あ、海斗。そういえばさ、今日体育館シューズ忘れたからさ、また貸してくれる?」


「は?なんで俺が」


「いいじゃん、どうせサイズ一緒なんだから!ね?頼むよ、ダーリン?」


にこりと笑って、汐音は俺の腕に自分の手のひらをそっと乗せてきた。


「…っ、やめろ!朝っぱらから変なこと言うな!」


俺は慌てて腕を振り払う。なんでこんなところで、そんなわざとらしい甘えた声を出すんだ。まるで俺たちが、本当に恋人みたいじゃないか。


「ひどーい。幼馴染をそんな邪険にするなんて。じゃあ、シューズは諦めるけど、放課後、**砂浜**でちょっと話があるから、付き合ってくれる?」


汐音は立ち止まり、朝日に照らされた堤防を指さした。その横顔は、いつものへらへらしたものではなく、少しだけ真剣な表情をしていた。


「…話?」


「うん。大事な話。約束ね」


そう言い残し、汐音は再び笑顔に戻ると、「じゃあ、先行くね!」と軽やかに駆け出した。


遠ざかる汐音の背中を見つめながら、俺は胸のざわつきを感じていた。


大事な話?あいつが俺に?一体なんだって言うんだ。


そして、彼女が急に俺にくっつくようになった理由も、結局のところ、俺はまだ知らずにいる。

潮風が、なんだか不穏な予感を運んできた気がした。

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