第47話

「全部話しちまった……どうして俺は……」

 五本木の背中が煤けていた。

 今度の件で、連中の事故車の中から拉致監禁用の様々な道具と、更に違法薬物がたっぷりと発見された事、そしてその証拠物件が何故か証拠品の保管庫から消えてしまった事。

 そして責任者の追及が行われていない事を全て口にしてしまった。

 我もつい、その証言を動画で撮影してしまった……何時かこいつの力を借りたい時が来たら、遠慮なくお願い出来る様に。


「それだけじゃないですよね?」

「いや、本当に今ので最後だ」

「おかしいですね。警察の中に裏切者が居るはずなんですけど。知らないんだ……仲間だからと思って、根拠もなく信じてるんですね。信じるってそんな簡単なものじゃないので、貴男の信じるって随分と安っぽいんですね」

「何だとっ!」

「信じるというのは、疑って疑ってそれでも何も出て来なくて初めて信じる。そして信じたのならば何があっても命を懸けて信じ抜く。それほど尊い言葉なんですよ。何となく信じたいから信じるとか、そんなちっぽけな覚悟で信じるとは、恥ずかしい人ですね」

「そもそも疑う理由が無いのに、仲間を疑えるか!」

「ああ、随分とおめでたいおつむですね。私は貴方の仲間が裏切っている明確な証拠がありますけど?」

「そんな馬鹿な!」

「そうですか? 私は十勝川温泉郷のホテルで襲撃を掛けられました。運良くその者達がミスをして、慌てて逃げて事故を起こして病院送りになった様ですね」

「何だと?」

「おかしいですね、どうして私が十勝川温泉のホテルに泊まっていたのか分かったのか、何故だか気になりませんか?」

「それは……まさか?!」

「そうですよ。私は貴方との電話の中で、帯広の、ホテルに泊まり、温泉に入ると話しました。一般的に帯広・ホテル・温泉と言えば十勝川温泉郷を想像するでしょう、そして彼等もそう思ったのでしょうね。ちなみにその電話以外で、私がその日停まる場所については誰にも伝えていませんが、貴男は自分のバディーや上司に話した……違いますか?」

「誰にも伝えて無いというのは本当か?」

「……私ボッチなので」

 我はそんな事は思っても伝えて無いですよ。自虐なアドリブはこちらの心臓に悪いので止めて欲しい。

「……そ、そうか済まない」

「済まないとか言う前に、自分の責任を分かっているんですか? 貴男から私の居場所をヒントを得た裏切者が、あの九人の替りに私を拉致する役目の者達に情報を流し、彼等はその情報を頼りに十勝川温泉郷の宿の駐車場の車を確認していた。もしその者達が失敗しなければ、私は拉致監禁され、どんな目に合っていたのか想像出来ますか」

 もう五本木は主に対して反発する気力もなくなっていた。そこに決定的な質問を投げ掛けた。


「結局、貴男は上司に私との電話の内容を伝えたんですか? それはどのタイミングですか?」

「それは……」

「伝えたけど、それは翌日という事ですね」

「……ああ、その通りだ。リークしたのは……俺の部下に違いない。申し訳ねえ、俺の……警察の不祥事だ」

 遂に五本木は完全に屈した。

「それであなたはどうするのですか?」

「高坂さん。あんたにちょっかいを掛けていた渡西組は既に潰れたも同然だが、その準構成員のアクトを摘発する。その過程で警察内部で連中に協力していた職員の罪も洗い出されるだろうが……」

 言い淀む五本木に主が声を掛ける。

「辛いですか?」

「ああ、連中の中には上から命令されて仕方なく協力した奴も多いんだ。警察って組織は階級社会だ。それを無視しては働き続ける事すら出来ない場合もある。俺が今回の件で巻き込まれなかったのは運が良かった……上から命令されたら悪事と分かっていながら協力するか、不正を訴えた挙句警察を辞めさせられるかの二択しかなかったはずだから、他人事と割り切る事なんて出来やしねえのさ」

 何となく被害者面すらしているが、いい加減とどめを刺す。

「その気持ちは分からないでもないのですが、それは警察という組織内の人の理屈であって、警察組織に属さない人にとっては、仕方なく不正に加担した人だけでなく、彼等を庇い立てする貴男も警察の人間であり警察組織の問題に責任が無いとは思いませんよ……多少の同情はあったとしても」

 とうとう黙り込んでしまった五本木。

 そもそも警察組織は身内同士の庇い合いが強いというか酷い。組織内で不正に対する自浄能力である監察官が、酷く嫌われている。しかも世界中の警察組織でというのが救い様の無さを雄弁に語っている。

 要するに警察組織とはただの「正義」ではなく「必要悪」という側面を持ってしまっている。

 別にそれは良いんだ。必要悪を責めたりはしない。むしろ前世では我もそちら側に立っている存在であった。そして今に至っては完全無欠のアウトロー・エゾモモンガだ。

 だがそんな我でも自分達が必要悪だと自覚せず、立派な正義の味方だと勘違いしている奴等は叩き潰したくなる。


「そもそも貴方がたは警察官は任官式で宣誓したはずですよね……私は、日本国憲法及び法律を忠実に擁護し、命令を遵守し、警察職務に優先してその規律に従うべきことを要求する団体又は組織に加入せず、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従い、不偏不党かつ公平中正に警察職務の遂行に当たることを固く誓いますと……どうですか? もう一度この場で宣誓してみますか? そして、自分の心に恥じる事はないと言えますか?」

「……言える筈がねえ」

 ご理解いただけた様だ。

 

 その後、渡西組の下部組織でハングレのアクトに対して断固とした対応を取ると約束させて東警察署を出た。


『主。一つ問題があります』

『何? どうかしたの?』

『このまま家に帰ると、渡西組の下部組織であるアクトという奴等に襲われる可能性があります』

『どうして? 私を狙っていた人達はみんな捕まったんだんだよね?』

 渡西組は完全に無力化されたと思って問題はありませんが、先程五本木がそいつらを摘発すると言っていた通り、まだアクトという組織が壊滅した訳ではありません』

『そういえば言っていた。帯広で私を捜していたのがその人達なの?』

『はい、あの九人がリタイア状態なので、三馬鹿娘の渡西の親が自分の手下であるアクトに実行させようとしたのでしょう。そして奴等が主の部屋を見張っている可能性が高いのです。それで我はアクトという組織の情報を貰った事ですし、ちょっと手土産を持って挨拶してこようかなぁ~と』


『手土産って何!? 可愛く言っても駄目よモモちゃん!』

『でも主。このままだと家にも帰れないどころか、連中がマンション周辺で主の名前を出して迷惑行為を働いたら、管理会社から退去を求められる事態になるかもしれません』

『それは困るよ~』

 そうですよね。そんな理由で今の部屋を退去する事になれば、他でも部屋を借りるのがかなり難しくなる可能性は考えられる。

 そうなったら主は、毎週競馬に通い自分で一戸建ての物件を購入する為に金稼ぎをしなければならなくなる上に来年度も税務署で納税の手続きをする事になるだろう……我は傍にいて主の安全を守るだけなので、割と気にしないというか、そうなって欲しい。競馬でがっつり稼いで、一軒家という財産を得るのでむしろプラスの方が大きいと思っているくらいだ。


『連中は二十代の頭の悪そうな連中で自制心もない。そうあの九人から学力を奪ったような連中です。全員が刑務所にぶち込まれ隔離されないと、逆恨みで主の周囲で騒ぎを起こすでしょう……良いですか。五本木も摘発すると言っていたので、それが一週間後になるか、今日中で終わるかの違いです』

『……でも一週間待とうよ』

『えっ? ちょっと待ってください。あいつらは主のバイト先にも現れますよ。バイト先に凄く迷惑をかける事になりますが良いんですか?』

『それは駄目。凄く困るよモモちゃん』

『つまり奴らが困るのか、主と主に関わる人達が困るのかの二択となります』

 我ながら卑怯な言い方だと思うが、ここで連中に仏心を出して自分と関わりある人達に迷惑が掛かる事となって後悔して傷つくのは主なので、我にはそれ以外の選択肢など無い。


『出来るだけ穏便には?』

『難しいかと』

『どうして?』

『世の中には痛い目に遭わないと分からない人が沢山いるんですよ』

 時々主は痛い目に遭ってなお分からない人になってしまいますけど。


 主もバイト先やご近所さんに迷惑を掛けてまで悪党の事を気遣う事はしなかった……あまり納得はしていない様だけど。

『ところで主、この後はどうします?』

『どうするって、一旦家に帰りたいんだけど?』

『残念ですがそれは無理ですよ』

『……どうして?』

『この警察署には警察官でありながらアクトの協力者でもある奴等がいるんですよ。主が来るまで乗り付けて五本木のおっさんと話をした事はとっくにアクトに流れているので警察署を出たらすぐに尾行が付きますよ』

『いや~~~っ!』


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六月の初めから書き溜めを始めて、九月末から投稿を開始して、騙し騙しストックをもたせてきたけどそろそろ限界w

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