第28話
信号に引っかからなかったので、三分もかからずに駐車場に到着する。
馬鹿共は距離を保ったまま着いて来るが、一人が仲間から離れて走って脇道に入って行った。こちらが車で移動するので、奴は車を取りに行ったと考えるべきだろう。 連中は車で追跡して何かするつもりなのだろうか? また今回の件は、九人の中の四人だけで企てたということだろうか?
残りの五人が気になる。後でもう一台別の車で合流するつもりだろうか? それとも残りの五人は反省し(心が折れて)、今回の件には関与していないなら良いのだが、駄目なら、より人生が辛くなるようにしてやるだけだ。
主が、愛車に乗り込むと駐車場の手前で隣の建物に隠れていた三人だが、その後ろからやって来て停まったトールワゴン(トヨタのルーミーかタンク。こちらからはトヨタのエンブレムが見えるので、そのどちらかだろうが、見ただけで両車の見分けはつかないので、とりあえずタンクという事にしておく)が横付けし、三人が素早く乗り込んでいる。
随分と段取りが良いな?
主のN-BOXが動き始めると、先ほどのタンクとは別にハイエースが駐車場の出口左側の信号のある交差点の手前で停まる。信号は青なのにだ。
ハイエースに乗っているのは、間違いなく残りの五人だろう。これは単に段取りが良いのではなく明らかに手慣れている。
『主……困った事になりました。連中はただの元いじめっ子大学生ではありません。所謂反社の類ですよ』
『ええ!? そんな人が大学に居たの?』
『居たんですよ。連中は二台の車で前後でこの車を挟み込んで移動して、交通の少ない場所で前と後ろで挟み込む様に、この車を停車させ良からぬ事をしようと企んでいるのに違いません。これは馬鹿な大学生の悪戯に毛の生えたものだと甘い対応で済ませる訳にはいかなくなりました』
『そう……よね……』
主の顔が蒼褪め、ハンドルを持つ手が震える。
『ですが我は折角の主との旅行を取り止める気も、予定を変更する気もありませんよ』
我の勝利条件は、第一にこの旅を予定通りに成功させる事。第二に連中が二度と主の前に現れることが出来ないようにする。
第一条件の為には、連中に早い段階で退場して貰う必要がある。
それには都合良く、車に乗って付きまとってくれるのだから、事故と言う形で退場して貰おう。
何も命までは奪わない。運転ミスで雪山に突撃して貰うだけだ……雪山に突撃か、前々世でヤッタな~。
あの時、我はアルコール抜きで飲み会に参加し、酔った友達を車に乗せて移動していて、左折するのにギアを四速、三速と落とし、最後は二速に落とし交差点に入り左折と言う場面で、酔った友人がいきなり股を広げて、シフトレバーを握る我の左手に膝をぶつけて来たために、ギアは二速ではなく四速にはいり、頭の中が真っ白な状態で慌ててブレーキで減速をはかるも、リアが流れて目の前には雪山と言う状況になり、「あぁぁぁあぁぁあぁぁ」と悲しくも情けない悲鳴を上げるしか為す術もなく雪山に突っ込んだのだ。
だから連中にも同じ悲鳴を上げさせて、同じ不幸を分かち合いたい。
幸せも分かち合えるが、不幸を分かち合えば、人は強く理解し合えると我は思うのだ。
第二条件の達成は、連中に堀の中に入って貰う事だ。そして暫くの間シャバとはさよならして貰う。
閃いた。我はこの作戦を「シャバからおシャラバ大作戦」と名付けたよ……これは酷い。是非とも思い付いたダジャレを一度冷静になって整理する事なく口にする病気に効く治療法を開発して欲しい。イグノーベル賞を受賞出来るかもしれないよ。
この作戦で大切なのは、連中が乗っている二台の車のナンバープレートの下段の先頭の文字が「れ」でレンタルカーだという事だ。
ちなみに北海道や沖縄の様に観光業が強い都道府県ではレンタカーの需要が大きく「わ」ナンバーが足りなくなり「れ」ナンバーが使われる比率が多くなる。
『先ずは、挨拶代わりの嫌がらせといきましょう』
『嫌がらせ?』
『駐車場を出て右折して下さい』
『え! 右折なの?』
最初の予定では北に進んで札幌北インターから札樽自動車道に入る予定だったので、右折だと南方向に出る。
『一旦、北十二条通に出て東に向かい東区役所前の道で左折して、環状通で右折して東に向かって豊平川を渡り、米里通を左折して、そのまま札幌インターから道央自動車道に入ります』
『私、ジャンクション近くがゴチャゴチャシテいて分からないから嫌いだよ!』
『大丈夫です左折して米里通を道なりに進むと、嫌でも札幌インターなので間違い様がありません。主が嫌だと思うのは逆に気付いたら札幌インターで高速に乗ってしまうからですよね』
『うん……そうだ。私が間違って高速に乗って混乱している時モモちゃん笑ってたよね!』
おっと藪蛇だ。
『今です右ウィンカーを出して、そのまま右折で出て下さい』
丁度、左右の車の流れが途切れたタイミングで主に指示を出すと、主はアクセルを強く踏み込んでスタートダッシュをきめた。
連中を出し抜くのも、主の怒りをうやむやにするのも作戦成功なのだが、別の問題がある。
『連中が何故、この車が駐車場から左で出る事を前提にしてたと思います?』
『えっ? あっでも、そうだね二台で待ち伏せしてるんだから、普通はどっち方向に出ても追える様に待っているよね』
『つまり、主が左折で出ると確信出来る理由があったはずです。今回の旅の事を誰かに話しましたか?』
『うん、バイト先の店長には休みをもらうのに話したよ。一応二泊三日だけどもう少し伸びるかもしれないって、初日は北見に行くから朝早くに出て高速道路を使って距離を稼ぐつもりだって』
『どこから高速に乗るとか聞かれませんでしたか?』
『そういえば聞かれたけど、そんなの一番近いところから乗るに決まってるから、そのまま話したよ』
それですよ主。貴女の交友関係の狭さからしてリーク元は店長ですよ。
『その店長と連中との繋がりを感じる様な話を聞いた事は?』
『………………』
『すみません。ボッチにはきつい質問でしたね』
そんな話をしていると、後ろから猛然とハイエースが追って来た。
しかし、このタイミングでは仕掛けない。黙ってハイエースが前に出るのを許す。
前に出たハイエースは急ブレーキを踏んだりと煽り運転を開始する。
すれ違う対向車の運転手の驚きに歪む顔が見える。是非ともこのハイエースの事をしっかり覚えていて欲しい。出来ればドライブレコーダーで録画しておいて警察に提出して欲しい。
十二条通の前で主がウィンカーを左に出すと、前を行くハイエースが慌ててウィンカーを出さずにケツを振りながら強引に左折する。
主も左折するが、後ろから来たタンクが減速不足で突っ込んで来るのを【念動】で捕まえて、制動を掛けつつ同時に大きく振り回すように左折させる。
曲がった先で信号待ちをしている対向車の鼻っ面をかすめる様に動かす事で、連中の無謀な運転が周知され、今後の連中にとってのマイナスポイントが積み上がっていく。
そして東区役所前の通りとの交差点が近づく。此処が連中にとっての人生のクロスロードであり、主にとっては連中との決別の分かれ道である。
『主、この先を左折しますが、少し早めにウィンカーを出して下さい』
『良いけど?』
するとハイエースも速度を落としてウィンカーを出しハンドルを切るが、我がそれを許さない。
ハンドルの切れ角とは関係なく【念動】でハイエースを真っすぐ前に押し出され、交差点を真っすぐに通過して行く。
『えっ? え~! どうして』
あっ、主に何も伝えて無かったので驚いている。ちょっとやばいのでN-BOXも掴んで安定させながら左折させる。
そして背後のタンクも【念動】で掴むと、ハイエースを目掛けて押し出す。
先に路肩の雪の壁に突き刺さっているハイエースの後部に、タンクは半回転してこちらも後部から勢い良く突っ込んだのを、【念動】のおまけ能力の視点位置の操作で見届けると『主、これで一件落着ですよ』と告げた。
実際、連中の二台の車の衝突の直後、後ろから更に押し込んで二台とも全損状態にしたのでレンタカーの店からは、車両の代金の以外にも、この時期、中国では春節が始まったばかりで多くの中国人が北海道にやって来る為、レンタカー会社にとって掻き入れ時なので機会損失の補償もたっぷりと請求されるだろう。
更に車両の状態から、実際の事故当時の速度以上に速度超過していたと判断された上に、煽り運転していた事実も出てくるだろうから、保険会社は支払いを拒否するだろうし、これだけの事故を起こした罪も問われるだろう。
まあ、もしも連中がシャバに戻ってきた時に、反省もせずに主に害意を抱いているなら、そっとこの世から退場して貰おう。どんなに可愛い見た目でも我の前世は魔龍王であり敵対者に容赦などしない……と言うか現段階でも連中が生きていること自体が容赦に容赦を重ねた状態だ。
魔龍王の頃の我ならば、連中の存在を認識したその日が奴等の命日だよ。
まあ、やり過ぎたら主が悲しむ……ような気がするから……仕方ない。
『二台とも居なくなったけど?
『ちょっとお仕置しておきましたので気にせず旅を楽しみましょう』
『ちょっと? 絶対にちょっとじゃない気がする』
『大丈夫です。精々重傷までです』
『重傷って大丈夫なものなの?』
『まあ、骨折程度ですよ』
我はしっかりと手加減をしたからそれ以上の骨折以上の怪我はしていない。
ただし、複数個所の骨折や複雑骨折はあるだろうけど。
多分、今回で流石に懲りただろうが、また来るなら次は致死率五十パーセントで応じてやるので死ぬ気で来い。
『骨折……』
主の顔色が青ざめている。クソっ! 奴らめ主を怖がらせやがって絶対に許さんぞ! ……八つ当たり。
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