第12話

 九時半過ぎにチェックアウトしてバイクを北へと走らせる。

 駅前の朝日通から国道237号に右折合流しようと思っていたら、国道が高架になっていて、下を潜ってしまうというミスもあったが、丁度十時には目的地の富田ファームに到着した。

 駐輪場は手前のトイレの前で狭く分り難かったが、予め我が調べておいたので問題なく停められた。


『到着だー!』

 バイクから降りながら魔道具を問題なく使いこなして話しかけてくる。

『何事もなく到着出来て幸いです』

『もしかして、ここに来るまでに事故でも起こすとか心配していたの?』

 我から話しかけても問題なく聞き取りが出来ているようだ。

『いえ、道に迷ったと泣かれなくて良かったと』

『あ~あ~何だか聞こえないよ』

 悪い意味でも使いこなせるようになってしまった。


 上へと広がる斜面の畑を見上げ、目に飛び込んでくる色鮮やかな景色に圧倒される。

『うわぁ~綺麗だけど、綺麗というより凄いが似合うくらいだね!』

 テンションが上がる主に、我もテンションが上がるが、それよりも主に渡すものがあった。

 周囲に人が居ないのを確認してからポケットを出て、主の肩に右肩に上る。

『主、いきなりですが、ここでプレゼント第二弾があります』

 魔道具を使っているので、そんな必要も無いのに耳元で小さな声で囁き【インベントリ】からあるものを取り出す。

「あれ?」

 我の体重が四倍ほど増えた感覚に主は戸惑うが、無視して【念動】を使ってプレゼントを主の顔の前に差し出す。

『どうぞ、これをご笑納下さい』

『ご笑納? え~と、これってカメラ?』

 それはキャノンのコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)PS-SX720HSRE。

 ラストのREDを意味するREに相応しいメタリックな輝きの深みのある赤いフレームは無骨過ぎる黒よりは主に似合うだろう。

 小さなボディは上着のポケットに余裕で入るので、被写体を撮りたいと思えばすぐにポケットから取り出す事が出来る携帯性の良さと、被写体に指先一つで寄る事が出来る光学40倍ズームの組み合わせは、初心者に気軽に撮影するという楽しさを教えてくれる名エントリー機であり、スマホとは別に常に持ち開きたくなるカメラだと断言出来る。

 初心者を卒業すれば物足りなさも感じるだろうが、同時に寂しさも感じる事だろう。

 

 また上位機種のPS-SX740HSもあるが、バッテリーの減りが早いというレビューが気になったのでこちらを選択した。

 やはりバッテリー切れほど撮影中に萎える事は無いと思う。

 

 このカメラに問題があるとするなら、発売が九年前の製品なので新品での購入は無理でなので中古だという事だ。

 しかし外見には傷が無く、確認した範囲で動作に問題はなかったのだが、中古である事の問題点は内臓されているバックアップ電池が既にお亡くなりになっているので、バッテリー交換の際には十秒以内に交換を終わらせる必要がり、もしもモタつけば日時情報等が消えてしまい、設定し直す手間が面倒な事だろう。



『主。この子の操作は、先ずは本体の上の面にON/OFFと書かれているのが電源ボタンなのでボタンを押して下さい。それで電源が入ります。次に背面右腕のダイヤルボタンがあるので、それをAUTOに合わせて下さい。操作や撮影の設定に慣れるまではAUTOで十分です。AUTOでは物足りないと思う頃には、この子から卒業ですよ。後は液晶画面を覗き込んで、電源ボタンの隣のボタンがシャッターで、シャッターボタンの前側にある突起を人差し指で右側に引くとズームアップ。左側に押し出すとズームダウンです。ちなみに最大倍率は40倍なのでかなり被写体に寄った画で撮影することが出来ます。さあ好きなようにシャッターを切って撮影してください。それからバッテリーは予備も含めて充電済みです。メモリは64Gの容量の物を挿入してあるので、この旅の間の撮影するのにメモリの交換は必要ないと思います。更に新品のバッテリー二つをフル充電してい有ります。さあ主、存分に思うがまま存分に撮影してください。さあ、さあ』

『モモちゃん。早口で怖いよ』

『も、申し訳ありません』

 うっかりのめり込み過ぎてしまった。

 

『このカメラが好きなんだね』

 そう言われて、反射的に「はい、この子の一つ前のPS-SX710HSREが我に写真を撮る楽しさ教えてくれました」と危く言いそうになった。あぶねえあぶねえ。


 その後、我は【隠形】で姿を隠した状態で主の右肩に留まり、一緒に行動する。

 次第に主もカメラの使い方に慣れて、好きなようにシャッターを切っては、画像を確認しては、その撮れ具合が良くても悪くても楽しそうで、見ているだけで我も楽しかった。



『主、昼食はどういたしますか?』

『お昼は、う~んと朝食をしっかりとったから軽めが良いかな?』

『近くには有名なそば屋があるようです。良く知りませんが何度かミシュラン特別版でビブグルマン認定され掲載されているそうです』

 正直、ビブグルマンは普通に外れも多いと思うが、それでもミシュランに掲載されたと思うだけで有難く感じ、良い物を食べたのだと満足するという人間らしい反応を否定する気はない。美味しい物を食べたと感じた記憶こそが人生の宝物なのだから。


『流石ミシュラン美味しかったね』

 主が満足してくれたなら何よりであり、我も大満足だ……トッピングの野菜しか食べてないけどね。せめてしょっぱい漬物は食べたかったが、主に止められてしまった。分かってるんだエゾモモンガに漬物は駄目だと。

 だが……ああ、しょっぱい物が食べたい。


『これが美瑛の丘か~綺麗だねモモちゃん』

 バイクを停めて、目の前の美しい景色に向かってシャッターを切りながら主はご満悦の様子だがだが……

『主、ここはまだ上富良野ですよ』

『えっ! だってこんなに綺麗な丘が……』

『美瑛まではまだ結構あります。残念ながら』

 我の言葉に十秒ほど固まって動かなくなったが、突然ポケットにカメラを戻すと、バイクに跨り「さあモモちゃん、美瑛までもうひとっ走りよ」と無かった事にしたようだが、我はふと思い出した事をそのまま口にしてしまった。

 

『あっ、青い池』

『青い池……そんなのあったよね! 綺麗なんだよね』

 主も忘れていた様で、我の言葉に思い出して興味を示す……行く気満々だ。

『そっちも寄りますか」

『寄っていこーう!』

 ノリノリですね。



 道道353号線を通り片道十五㎞以上の寄り道をしてたどり着いた青の池は、寄り道した甲斐があった。

『凄いね。この世のものではないみたい……』

『異世界でも、こんな景色は見た事はありませんが』

 蒼い空の下にセルリアンブルーの水面。それが美し過ぎて、これは生命が存在しない静の領域故の美しさだと自分を納得させようとしていると、ニジマスらしき魚影が見えて頭が混乱してしまう。

『主、魚が泳いでますよ!』

『本当だ。こんな色の水の中でも魚が生きられるんだね』

 そう言いながら写真を撮っている主……いやこれが魚型の水中ドローンである方が我は納得出来ますよ。


 青の池を出て道道966号線、そして道道824号線を通り途中で四季彩の丘に立ち寄り、JR美馬牛駅傍の踏切を渡り、旭川まで続く国道237号に合流する。

『主、この先には所謂何々の木シリーズがありますが、どうしましょう?』

 正直な話、ただの木だから我は全く興味がない。それに今年もなんとかの木が伐採されたはずだけど、まだ何本か残ってるの? と思ってるくらいには無関心だ。

『あまり興味ないかな。昔に何かのCMで使われた木とか言われても全然知らないし。そこまで騒がれるのがよく分からない』

 ばっさり切り捨ててくれた。主サイコー!

『モモちゃん、その代わりに美味しいソフトクリームを食べに行こうよ』

 超サイコーですよ主! ですがお勧めのソフトクリームが食べられる牧場は、3㎞ほど戻りますけど。


『モモちゃんって私の事ばかり優先してるけど、何かおねだりとかはないの?』

 牧場の隅で、牛達を眺めながら主が言い出す。

『我は主にお仕えしているだけで幸せですが?』

 首を捻りながら答えた。

『そういう事じゃなく、モモちゃんにおねだりされたいの』

『……それでは我にもソフトクリームをもう一口お願いします』

 ソフトクリーム美味過ぎですよ。

 そういえば人間だった頃の我は、アイス食べては良くキンキンが来て頭を抱えたが、エゾモモンガには多過ぎる一口を主から頂いたが全くキンキン来なかったな。

『あっごめんね気付かなくて……そうじゃなくて』

『えぇぇぇ~』

 そうじゃないなら、どういうことなのか分かりません。

 これがおじさんには分からない乙女心なのか? 認めたくはないがジェネレーションギャップ?

『難しいこと言ってないから、例えば主、明日一日我の為にくれ! とか』

 我のモノマネをしたのだろうが、おじさん臭が無く可愛過ぎた。

『自分の都合で丸一日、主を拘束するペットなど存在する意味など無いと思います。飼い主の気を惹くのが生きる目的の様な犬猫など保健所送りにして、エゾモモンガを買うべきなのです』

『家のモモちゃん、良い子過ぎるくらい良い子なのに頑固者。そして元ドラゴンなのにエゾモモンガ推し過ぎ』

 主は頭を抱えてしまった。

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