参観日③
ブレザー男は聞いてもいないのに自分はヤコちゃんの幼馴染み兼兄貴分で、家が隣同士という事を得意気に私へ自慢してきた。
本当にうるさいなぁ、もう黙ってよ。私達の前から早く消えて。
「やいこちゃんは無愛想じゃけど、本当はぼっけぇ優しくてええ子じゃけん! これからもやいこちゃんをよろしくな!」
教えてもらわなくてもヤコちゃんが優しくて、かわいくて、強くて、かっこよくて、正しくて、慈しみ深い事は私だって知っている。
まるで自分の方がヤコちゃんと親しいみたいに……。"やいこちゃん"だなんて呼んで……。気に入らない、気にくわない、許せない。
だってヤコちゃんは私の──、──私の? 私のナニ??
「雲堺ちゃん、帰りのHRが始まるから帰ってちょうだい」
「ん? なら校門で待っとくけん!」
ヤコちゃんに言われて、不愉快な男は手をヒラヒラと振って教室を出て行った。
「……大丈夫?」
下がりがちの眉を更に下げて、ヤコちゃんは心配そうな声色で訊ねてくる。
「……え? あ、なんで?」
「顔色が悪いから……。びっくりしたのね、雲堺ちゃんが騒がしいから。本当にごめんなさい」
「ヤコちゃんが、謝る事じゃないよ。……ねぇ、さっきの人さ──」
聞かない方がいい、聞いたら後悔するかもしれない……そう思うのに、聞かずにはいられなかった。
「……カレシ?」
喉がカラカラにかわいて、ドクドクと心臓が嫌な音をたて、冷たい汗が背中を流れる。
ヤコちゃんの口の動きに注視して、耳を澄ます。どうか、どうか私の望む答えであって下さい!
「カレシ? 嫌だわ、やめてちょうだい。雲堺ちゃんは……そうね、年上だけど弟みたいなものね」
カレシ……ではない。
ホッと息をついて、肩の力を抜く。ああ、よかった。ありがとうございます、神様。私の望みを叶えてくださって! でも……。
「子どもみたいな人なのよ、困ってしまうわ」
やれやれといった感じで嘆息するヤコちゃんを見ると、あの男と彼女だけの時間が確かにある事が嫌でも分かる。
胸の内側でチリチリと炎が燃えている、そう──嫉妬の炎が。
"ヤコちゃんは私のモノなのに……"
私の心に芽生えた恋心。
恋をした相手は優しくて、かわいくて、強くて、かっこよくて、正しくて、慈しみ深い、そんな完璧な人。
だけど、それは同性の友達で──自分の事なのにとても正気の沙汰とは思えない。
それでも、芽生えてしまったモノはもう止められない。いずれこの恋心は愛情へと成長するだろう。そう、決して報われない不毛な愛情へと……。
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