参観日②
授業が終わり、保護者は教室を出て行く。先生も職員室へと戻ってしまったそんなタイミングで、例のブレザー男はなんとこちらへ向かって来た。
もしかして心の中でヤコちゃんに劣る
だけど男は私には目もくれず、隣のヤコちゃんの前に立って──
「やいこちゃん、何で全然後ろ見てくれんのん? 無視さりょーるみてーで寂しいんじゃけど!」
にこにこと、まるで太陽や向日葵を思わせる輝かしい笑みを浮かべる。
"やいこちゃん"と呼ばれたヤコちゃんは口を固く閉じたまま、男を一瞥する事なく教科書を机にしまう。
「オレがおばさんの代わりにしっかりとやいこちゃんの勇姿を見届けたけんな! オレが思うに、やいこちゃんは積極的に手ぇ挙げて意見を言った方がええで!」
彼女の冷たい態度にめげる事なく……というかそもそも気にしていない? とにかくブレザー男は馴れ馴れしくヤコちゃんに話しかけている。
一体何なのよ、この男は! ヤコちゃんの事を"やいこちゃん"って呼ばないでよ!
「もうこの後は帰るだけじゃろ? 校門の所で待っとるけん、一緒に帰ろうで!」
一緒に帰る約束まで取りつけようとする図々しさにイラッとして布製の筆箱を握りしめる。
すると、今まで黙っていたヤコちゃんがブレザー男の方を見て大きなため息をつく。
「呆れた。あんなに来ないでちょうだいってお願いしたのに。
「腹ぁにがるって早退した! せっかくの参観日なのに、誰も来んとかやいこちゃんが可哀想じゃけんな!」
「余計なお世話。とにかく早く帰って、貴方声が大きくて目立つのよ」
「そんな邪険にせんでもええがん! やいこちゃん、ぼっけぇ冷てぇ!」
ふたりはどうやら知り合いらしい。それもかなり親しい感じだ。
面白くない、とっても面白くない。イライラもやもやした気持ちでふたりのやりとりを見つめていると、ヤコちゃんがこちらに視線を寄越す。
「ヒメちゃん、ごめんなさいね。うるさいでしょうコレ、直ぐに帰すから」
「コレ?! もっと言い方があるじゃろ! え、というか──」
ブレザー男はキラキラとしたその瞳に私をうつすと、無邪気に楽しげな声を上げる。
「え! やいこちゃんの友達?」
だからこの男はヤコちゃんの何なのよ!
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