入部届③


 先輩達が去り、私は隣に立つヤコちゃんに向かって頭を下げる。


「庇ってくれてありがとう、ヤコちゃん!」


「……頭なんて下げないでちょうだい。お礼を言われる様な事じゃないの、カッとしてつい、」


 いつもより元気のない声に顔を上げると、彼女は落ち込んでいる様に見えた。


「軽率だったわ、これでもし先輩達に目をつけられたら……。ヒメちゃん、」


 ヤコちゃんは私の両手を自分の両手でソッと包み込み、それはそれは真剣な面持ちで言う。


「もし先輩達に何か嫌な事をされたらわたしに言ってね。ヒメちゃんはわたしが守るから」


 守るって、そんなお姫さまじゃあるまいし。それに大きな私がヤコちゃんを守る方が絵面的にしっくりくる。

 なのに、私の心臓は今までにない位ドクドクと早鐘を打ち、顔が火照るのを感じる。

 ずるい、ヤコちゃんはずるい。かわいくて、優しくて、その上かっこいいだなんて……そんなの、そんなの──そんなの、なに?



 私は胸に芽生えかけているこの感情の名前を今はまだ知らない。

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