入部届②
先輩達は私の目の前に立つと、揃って好意的に飾り立てた笑みを浮かべる。
「四葉さん、部活はもう決めた? よかったらバレー部なんてどう?」
「バスケ部もオススメだよ! 見学に来ない?」
「テニス部に興味ある? うちは初心者も大歓迎!」
「サッカー部もいいよ~、青春の汗を流そうよ!」
……あー、やっぱりか。この時期に先輩が高身長の私の元へ来るだなんて部活の勧誘に決まっている。
「す、すみません……私、スポーツは苦手なんです。他の皆さんのご迷惑になるといけないので、遠慮します」
心の中でため息をつきながら、先輩達の気分を害さない様に言葉を選ぶ。しかし、それで大人しく引き下がってくれる様子はなく、アピール合戦が始まってしまった。
呆然としていると、先輩達は机の上に置いてある私の入部届に気がついて……。
「文芸部なんかに入るの?」
「身長高いのに勿体ないよ!」
「小説なんて趣味で書けるじゃん!」
「その身長ならスポーツをした方が絶対にいいって!」
グサグサと言葉の矢が胸に突き刺さり、鼻の奥がツンッと痛くなる。目蓋がじんわりと熱を持ち始め、このままでは泣いてしまう。
ギュッと唇を噛み締め、涙が溢れるのを耐えていると……。
「あ゛ぁ゛?」
……なんか、すごく低い声がしたのだが? 声が聞こえた方を見ると、ヤコちゃんがにこにこと笑っていた。笑っているのだが、怖い。先輩達も笑顔の彼女を見て固まっている。
「ヒメちゃん、早く入部届を出しに行きましょうよ」
ヤコちゃんが私の腕をグイッと引っ張るので、つられて立ち上がる。
「まだ話は終わってないんだけど?!」
先輩のひとりが叫ぶ。それが先輩達の総意らしいが……。
「こちらは先輩達とお話する事はありませんし、聞く耳もありません。四葉さんは文芸部に入ります。それを邪魔しないで下さい」
ヤコちゃんはキッパリと言い放つ。彼女があまりに毅然としているので私や先輩達はポカンとしてしまう。
しかし、我に返った先輩が怒気を孕んだ声を出す。
「邪魔だなんて。私達は四葉さんの為を思って言ってるのよ?」
ギロリと睨まれるヤコちゃんは、スッと笑顔を消して淡々と答えた。
「四葉さんの事は四葉さんが決めるので、先輩達がご心配する必要はありません。お引き取り下さい」
……私の事は私が決める。そうだ、自分の事は私が決めていいんだ!
人に笑われたって小説を書きたい! 身長が高くても運動部には入らない! 他の誰でもない自分がそう決めた!
「せ、先輩! わわ私、文芸部に入りましゅ! だから、その……先輩達の部活には入部出来ません!!」
ぎこちないが、自分の口からハッキリと言った。すると先輩達は気まずそうに顔を見合わせた後、「ごめんね」と口々に言って教室を出て行った。
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