第20話 影の真姿(しんすがた)

闇が渦を巻いて広場を覆(おお)い、月明りさえもかき消していく。

空気は凍りつき、猫族たちのざわめきは恐怖の沈黙へと変わった。


「……出てこい」

柊(しゅう)が一歩、踏み出すと、闇の中から黒い影がゆらりと姿を現した。


その影は人のようでいて、人ではない。

瞳は赤黒く燃え、毛皮は暗黒のように揺らめいている。

背に広がる影の羽は、見る者の心をすくませた。


「柊(しゅう)王子……そして、その人間。」

低い声が地面を震わせる。

「お前たちこそ、この国を縛る鎖……」


俺は息を呑んだ。

影の視線が突き刺さり、心臓が強く脈を打つ。


「……誰だ、お前は」

声は震えていた。


影は嗤(わら)う。

「我こそは、この国が封じたはずの“欲望の残滓(ざんし)”。

 かつて、王の座を求め、血筋を歪(ゆが)めた者の末裔(まつえい)……」


……笑わせるな。

光だと? 正義だと?


俺の祖(おや)は、この国の王座を求めた。

けれど、血筋を歪めた罪として追われ、

名を奪われ、闇へと堕とされた。


お前たちは“正しさ”の名で、俺たちを消した。

その鎖が、いまもこの国を締めつけている。


お前たちこそ、この国を縛る鎖だ。

光の仮面をかぶった支配者ども――。


……俺は、奪われた名を取り戻す。

たとえ、この身が闇に沈もうとも。


柊(しゅう)の顔が険しくなる。

「……やっぱり。影を受け継いだ者か」


「そうだ。お前とその人間……」

影の赤黒い瞳がぎらりと光る。

「我にとっては、最大の脅威(きょうい)だ」



柊(しゅう)の耳がぴんと立ち、尻尾(しっぽ)が鋭く揺れる。

俺の手を強く握り、金色(こんじき)の瞳で影を睨(にら)んだ。


「ご主人さま、ここからが本当の戦いだ!」


影が不気味に笑い、黒煙の翼を広げる。

月が完全に覆(おお)われ、闇の中で試練の第二段階が幕を開けた――。




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