第1章:伝説は隣の席に

 教室のざわめきが、まるで遠い場所の音のように聞こえる。

 早乙女美月。

 晶斗は、転校生の名を脳内で反芻する。同姓同名の別人である可能性。ありえない話ではない。世界に「ミヅキ」という名前の人間がただ一人しか存在しないということはありえない。

 

 しかし、晶斗はそれを一瞬たりとも疑わなかった。

 (あの顔だ。あの佇まい、あの雰囲気……そして、あの眼だ)

 世界を救った魔法使いの瞳は、時に冷酷で、時に慈愛に満ちていた。何千時間も動画を繰り返し観てきた晶斗の網膜に焼き付いた「ミヅキ」のイメージと、今、教壇に立つ彼女は、鏡写しのように完全に一致していた。 

 それは、熱狂的なファンの、いや、異常なまでに詳細な観測者の確信だった。


 担任の安藤先生が、美月の席を指示する。

 「早乙女さんは、篠宮くんの隣の席ね。一年間、よろしくね」 

 晶斗の、窓際最後列から二番目。そこが、まさしく空席だった。


 美月は小さなキャリーバッグを引いて、通路を歩いてくる。その歩き方は、動画で見た、敵の魔術の雨を潜り抜けるときの、微かに重心を低く保った歩き方にそっくりだった。一歩一歩が、まるで無意識のうちに戦闘態勢を維持しているように見える。

 

 そして、彼女が晶斗の隣の席に腰を下ろした瞬間、全てが決定的なものとなった。

彼女は、キャリーバッグを机の脇に置き、右の掌を、机の上の、何も置かれていない空間に、そっと触れるように置いた。


 それは、ほんの一瞬の仕草。誰にも気づかれない、癖のようなもの。

だが、晶斗は知っている。

 『勇者チャンネル』の中で、美月が最大火力の魔法**『銀月の聖断(アルテミス・カノン)』を放つ直前、必ずやっていた仕草だ。巨大なビームを撃ち出すためには、膨大な魔力を収束させ、それを杖の先端へと流し込む必要がある。彼女は、まるでそこに愛用の杖があるかのように、掌と指の腹で、その「杖の握り方」**を確かめたのだ。 

 その握り方には、無意識の、しかし強烈な魔力収束の意志がこもっていた。

 (間違いない。本物だ。早乙女美月が、俺の隣にいる)

 

 英雄が、何の変哲もない日常の中に、文字通り**「転校」**してきた。この理不尽なまでの非日常に、晶斗の胸の奥底で、長い間冷え切っていた炎が、音を立てて燃え上がった。


 授業中、晶斗は美月を盗み見る、というよりは、観測することに集中した。

彼女は黒板を真剣に見つめている。その背中は、何の変哲もない女子高生の制服に包まれている。


 しかし、晶斗の視点からは、その制服の向こう側にあるものが見えていた。

 (身体には、戦闘による古い傷跡はない。完全治癒魔法を受けたのだろう)

 (筆記用具の持ち方は、極めて無駄がない。狙った場所に、正確に力を伝える訓練を積んでいる)

 (そして、魔力だ)

 晶斗には、美月の周囲に、目に見える**「光のオーラ」のようなものが見えるわけではない。だが、世界を救った天才魔法使いの魔力は、あまりにも純粋で、あまりにも強大すぎて、普通の人間であれば決して気づかない、微細な「気配」**として、周囲の空気に残響のように染み付いていた。

 それは、まるで静かな湖面の底に、巨大なエンジンが静かに稼働しているのを感じるようなものだった。

 隣の席の女子高生は、普通の人間には無害な、歩く超兵器だ。


 放課後になり、生徒たちが一斉に帰り支度を始める。親友の健太が、晶斗の席までやってきた。

 「おい晶斗、今日の転校生ヤバくね? ガチの美少女オーラ半端ないって。お前、席が隣とか、今年の運全部使い果たしたんじゃね?」

 興奮気味の健太に、晶斗は平静を装って答える。

 「そうか? まあ、確かに整った顔立ちではあるな」

 「冷静か! お前、本当は内心ドキドキなんだろ。な、ちょっと話しかけてみろよ。何かあったら俺が援護射撃してやるから」

 「余計なお世話だ」


 晶斗は健太の誘いを軽く受け流した。彼は、今、美月に話しかけるべきではない、と直感的に理解していた。

 なぜ、世界的な英雄が、日本の片田舎の高校に**「早乙女美月」として、単なる「転校生」**として現れたのか。

 それは、彼女が「英雄」としての役割を終え、**「普通の人間」**として生きたいと願っているからに他ならない。

 (俺は、彼女の秘密を知っている。この教室の中で、たった一人だけ)

 それは、ファンとして、**最高の「観測者」としての特権であり、同時に、絶対に破ってはならない「秘密」**だった。


 晶斗は、静かに自分のリュックに教科書を詰めた。美月は、カバンの中からノートとペンを取り出し、何かのメモを取っている。これも、普通の女子高生がやる、極めて日常的な行動だ。

 「……じゃあな、晶斗」

 健太が帰っていく。教室には、もう数人しか残っていない。

 「ねえ」

 不意に、美月が顔を上げ、晶斗に声をかけた。

 その声は、動画の中で聞いた、あの凛とした、しかしどこか幼さの残る声とは違い、非常に柔らかな、少女らしいトーンだった。

 

 晶斗は、努めて平静な表情を作り、彼女に向き直った。

 「何か用かな、早乙女さん」

 「あのね、篠宮くん」

 美月は少し困ったように眉を下げた。彼女が、その完璧な美貌でそんな表情をすると、男子であれば誰もが胸を鷲掴みにされるだろう。だが、晶斗は、その顔の下に隠された**「伝説の顔」**を知っている。

 「私、日本に戻ってきたのが久しぶりで……この学校の、購買の場所が分からなくて。パンが、すごく美味しいって聞いたんだけど……どこにあるか、教えてもらえないかな?」


 購買の場所。

 晶斗の頭の中で、壮大な音楽が鳴り響くような、強い違和感が生まれた。

世界を股にかけ、魔王の残党を追い詰め、クレメンスの緻密な戦略を理解し、アッシュの指示に従って動いていた天才魔法使いが、学校の購買の場所を知らない。

 (これは、彼女が「普通」であろうとするための、**最初の演技(アクト)**だ)


 晶斗はそう直感した。彼女は「普通の女子高生」の役を演じるために、今、目の前の高校生に、極めて平凡な質問を投げかけているのだ。


 それは、あまりにも稚拙で、しかしあまりにも必死な「青春の奪還作戦」だった。

晶斗は、彼女の演技を静かに受け止めることにした。


 「ああ。購買なら、職員室を通り過ぎて、すぐ右に曲がったところだ。もう閉まってるかもしれないけどな」

 「ありがとう! 助かったわ」

 美月は、心底嬉しそうに、まるで大魔導師の隠された秘密のダンジョンを教えてもらったかのように、笑顔を見せた。

 「じゃあ、明日、行ってみるね。また明日、篠宮くん」

 「……ああ、また明日」

 美月は、軽やかな足取りで教室を出て行った。その姿は、完全に**「普通の、パン好きの女子高生」**だった。


 晶斗は、誰もいなくなった教室で、自分の心臓の鼓動を聞いた。

 ドクン、ドクン。

 まるで、彼の中に眠っていた「力」が、隣の席に座る「伝説」の魔力に共鳴しているかのように、大きく脈打っていた。

 (俺は、どうするべきだ? 健太のように、ただの美少女として接するべきか)

 (いや。俺は**「観測者」だ。そして、彼女は「英雄」**だ)

 世界は、美月が望む**「日常」を、そのまま許してくれるほど、優しくはない。彼女が葬ったはずの「残響」**は、必ず彼女を追いかけてくる。


 晶斗は、静かに結論を出した。

 (俺は、早乙女美月の**「普通の青春」を、誰よりも近くで観測し、誰よりも完璧に守り通す**。それが、熱狂的なファンである俺にできる、最高の**「仕事」**だ)

 彼は、美月との最初の接触で、既に**「秘密の共犯者」**となることを、心の中で決めていた。


 翌日。晶斗は朝から美月を**「観測」**し続けた。

 彼女は言動の全てで「普通の女子高生」を演じていた。朝のホームルームで担任が前の席の男子生徒に注意を促すと、彼女は驚いたように肩をすくめた。教科書に載っている文学作品の有名な一節を、真面目な顔でノートに書き写す。健太が冗談を言って、クラス中に笑いが起こると、彼女も口元を押さえて控えめに笑った。

 どれもが完璧で、何の違和感もない。

 (演技が、上手すぎる)

 晶斗はそう感じた。世界を救う戦いの中で、彼女がどれほど人を騙し、あるいは騙され、極限の緊張状態を生き抜いてきたのかを思い知らされる。彼女にとって、この**「平凡な日常」こそが、最も達成の難しい「特殊な任務」**なのかもしれない。


 昼休み。美月は、昨日晶斗に教えてもらった購買へ向かったらしい。

 「パン、買えたよ! 篠宮くんのおかげ!」

 戻ってきた美月は、包装されたメロンパンを嬉しそうに掲げた。

 「あのね、メロンパンって、こんなに美味しいんだね。海外にはなかったの」

 「海外?」

 晶斗は美月の口が滑ったことに内心でヒヤリとしたが、美月はすぐに笑ってごまかした。

 「あ、ええと、転校前の学校の話! 私、けっこう変わった学校に通ってたから、こういう普通の……なんていうか、平和なパンが新鮮なの」


 その時、クラスで一番社交的な女子生徒、広瀬玲奈が美月の席にやってきた。

 「早乙女さん、メロンパン、美味しいよね! 私、玲奈っていうの。もしよかったら、授業が終わった後、一緒に学校の周りとか散策しない?海外の生活が長かったの?日本の高校生活、案内するよ!」

 玲奈の、何の裏表もない明るさに、美月の表情がパッと明るくなった。

 「いいの? ありがとう、玲奈ちゃん!」

 その笑顔は、偽りのない、心からの喜びのように見えた。世界を救った彼女が、最も欲していたものは、強力な魔力や地位ではなく、ただ**「友達」**なのだと、晶斗は理解した。


 美月はあっという間にクラスに溶け込み始めた。彼女の清楚な美貌と、カラッとした人柄が、周囲を魅了した。

 (彼女の青春は、ずっと戦場にあったんだ)

 晶斗は、少し離れた場所から、その光景を静かに観測していた。英雄は今、失われた時間を取り戻そうと、必死に手を伸ばしている。


 放課後。玲奈との「散策」から戻ってきた美月は、少し疲れたような顔で自分の席に座った。

 玲奈たちが教室を出て、残ったのは晶斗と美月だけになった。

 美月は、深いため息を一つ吐き、机に突っ伏した。

 「はぁ……普通って、息が詰まるね」

 その言葉は、誰にも聞かれないように、晶斗にだけ向けられた、本音だった。


 晶斗は、ゆっくりと美月の横顔を見つめた。

 「英雄様ともあろうお方が、たかが普通の高校生活で音を上げるなんて」

 彼は、あえて**「英雄様」**という言葉を使った。

 美月の体が、ビクリと震えた。彼女はゆっくりと顔を上げ、晶斗を凝視した。その瞳には、一瞬、動画の最終決戦で見たような、鋭い警戒心が宿っていた。

 「……篠宮くん」

 「篠宮晶斗だ」

 「どうして、あなたが……」

 美月の声が震える。

 「誰も知らないはず、アッシュもクレメンスも、完全な情報封鎖をしたって……」

 晶斗は静かに、自分のリュックから、表紙が擦り切れた一冊の文庫本を取り出した。

 「俺は、**『勇者チャンネル』**の、**最高の観測者(ウォッチャー)**だった。配信された全ての映像を、三周どころか五周はしている。戦闘シーンは千回以上、コマ送りで観た」

 

 晶斗は美月の右手を見た。

 「君が、購買のパンを教えてもらった後、無意識に杖を握る癖を確認したあの瞬間に、俺の熱狂は確信に変わったんだ。君は、紛れもなく魔法使いミヅキだ」

 

 美月は、まるで自分の最も大切な秘密を、無遠慮に暴かれたかのように、唇を噛んだ。しかし、すぐにその警戒心は、諦めと、そして安堵へと変わった。

 「…ふふ。まさか、一発で看破されるなんて。参ったわ」

 美月は、椅子に深く腰掛け、両手で顔を覆った。

 「そうよ。私は、早乙女美月。世界を救った、天才美少女魔法使いミヅキよ。……そして、今はただの転校生」

 

 美月は、声を絞り出すように言った。

 「私はね、篠宮くん。本当は、戦いたくなかったの。日本で普通の学生生活を送っていたのに、突然魔法使いとしてスカウトされて、気がついたら魔王討伐の旅に出ていた。青春なんて、どこにもなかった」

 彼女は窓の外、夕焼けに染まるグラウンドを見つめた。そこでは、男子生徒たちが楽しそうにサッカーボールを追いかけている。

 「私、知らなかったの。友達と他愛もない話をして笑うとか、購買のパンに一喜一憂するとか、そういうことが、こんなにも眩しいって。アッシュたちは、『君の功績は歴史に残る』って言うけど、私はそんなもの、いらない」


 美月は、真剣な眼差しで晶斗に訴えかけた。

 「私はただ、失われた青春を取り戻したい。普通の女の子として、この日本の高校生活を、何一つ欠けることなく満喫したい。」


 そして、彼女は少しだけ表情を緩め、晶斗に懇願した。

 「ねぇ、篠宮くん。お願い。あなただけが、私の正体を知っている。だから、私の**『普通』**を守って。私が、ただの早乙女美月であるための、秘密の共犯者になってくれない?」

 「共犯者……」

 晶斗は、その言葉を反芻した。それは、彼が心の中で決意した「観測者」という役割に、美月自身が与えてくれた、特別な称号だった。

 (最高の観測者が、最高の相棒へと一歩踏み出す瞬間だ)

 晶斗は、まっすぐ美月の瞳を見返した。彼女の瞳には、天才魔法使いとしての強さと、普通の女の子としての切実な弱さが、同時に存在していた。

 「分かったよ、早乙女さん」

 晶斗は、静かに頷いた。

 「俺は、君の秘密を守る**『共犯者』**になろう。だが、条件がある」

 美月が身を乗り出した。

 「条件?」

 「もし、万が一、君の『青春』を脅かすためにこの平和な日常(ノーマル)を破壊しに誰かが来たなら……その時は、俺に君の『観測者』**として、最後まで傍で立ち会わせてもらう。君が『青春』を満喫するために、最大限のサポートをさせてもらいたい」


 美月の表情は、驚きに満ちていた。彼女の口元が、ゆっくりと弧を描いた。

 「ふふ……分かったわ、晶斗くん。観測者として、最高の特等席をあげる」

 それは、二人の間で結ばれた、誰にも知られてはならない、**「青春」と「秘密」**に関する最初の誓約だった。


 **「共犯者」**となったことで、晶斗と美月の関係は、クラスの誰も気づかない、特別なものへと変化した。

 晶斗は、これまで通り冷静に美月を観測する。美月は、晶斗の視線を感じるたびに、まるで**監視されている「任務中」**のように、どこか緊張した面持ちになる。

 

 「ねえ、晶斗くん。今の、どうだった?」

 休み時間、玲奈たちと談笑した後、美月は晶斗に小声で尋ねる。

 「『どうだった』って、何がだ」

 「だから、私の**『普通の子』の演技**よ。変じゃなかった? 玲奈ちゃんが言った、あの『流行りのスイーツ』の話題、私、全然知らなかったから、笑顔で相槌打つのが精一杯で」

 「演技の指導まではしないぞ。ただ、一つだけ言っておく」

 晶斗は、ノートの端に、美月に見えないように小さく文字を書き込んだ。

 『無意識に、右手の指先が動いている。戦闘前の癖だ。気をつけろ』

 美月は、そのメモを見ると、ハッと息を飲んだ。そして、慌てて右手を膝の上に置き直す。

 「ご、ごめん。染み付いちゃってて……」


 彼女の言う通り、天才魔法使いとしての習性は、彼女の身体に深く刻み込まれている。

 そして、最初の「ボロ」は、非常に些細な日常の瞬間に現れた。

 放課後。クラスメイトのほとんどが帰り、美月は玲奈と連れ立って、校門を出ようとしていた。晶斗は、少し離れたところからその姿を観測している。

 玲奈は、校舎の出口にある重い手動の鉄扉に手をかけた。

 その時、美月が何気なくその扉に向かって左手をスッと横に払った。

 カシャン!


 誰も気づかないほど微かな音と共に、鉄扉は自動ドアのように滑らかに、玲奈が引くよりも早く、スルスルと開いた。

 「わあ、玲奈ちゃん力持ちー! 私、この扉重くて苦手なの!」

 美月は満面の笑みで、玲奈を称賛した。玲奈はキョトンとして、自分の腕を見つめた。

 「え? そんなことないよ? いつも通りだよ」

 (今、扉に微細な風の魔力を込めて、開けたな)

 晶斗には全てが見えていた。美月は、異世界で使っていた**「術式による自動扉開放魔法」**を、何の気なしにこの学校の扉にも使ってしまったのだ。彼女にとって、重い扉を手で引くのは「非効率」で「不自然」なことなのだろう。


 美月が校門を出ていくのを見送った後、晶斗は扉に手を触れた。冷たい鉄の感触。重さもいつも通りだ。

 「……彼女にとっての『普通』と、この世界の『普通』は、あまりにもかけ離れている」

 晶斗は、この先、美月がどれほどの**「魔法使いの癖」を、この平和な学園生活に持ち込んでしまうのかを想像し、思わず頭を抱えた。彼の「共犯者」としての仕事**は、どうやら想像以上に忙しくなりそうだった。


 晶斗は、誰もいない教室で、自身のスマホを取り出し、メモアプリを開いた。

 そこには、美月の観察記録が箇条書きで記されている。

 • 1. 杖の握り方(放課後確認): 継続中。人前では膝の上などに置き、視覚から情報を遮断する必要あり。

 • 2. 異常な運動能力(体育): 無意識に力を込める癖あり。身体能力の隠蔽が最重要。

 • 3. 魔法の生活利用(本日発覚): 手動ドアを魔力で開ける。周囲の目を欺くため、今後、**『魔法によるチート行為の禁止』**を徹底させる必要がある。


 (俺の役割は、**彼女の「青春」の監督(ディレクター)**だ)

 晶斗は、美月の正体を暴こうとする者から彼女を守るだけでなく、美月自身が、その超常の力によって「普通の日常」を破壊してしまうことから、彼女を守らなければならないのだと悟った。

 その時、スマホがメッセージの着信を告げた。送信者は美月だった。

 『晶斗くん! 玲奈ちゃんと今から流行りのカフェに行くの! めっちゃ並んでるけど、絶対並ぶ!これが青春だって玲奈ちゃんが! でも、並びすぎてて、ちょっと心が折れそう……』


 晶斗は、そのメッセージを見て、思わずため息をついた。

 (並ぶのが嫌だから、**『虚像の二重身(ドッペルゲンガー)』**で分身を並ばせたりするなよ、英雄様)

 晶斗は、美月がそうした魔法を使いかねないことを知っている。彼女にとって「並ぶ」という行為は、その時間の長さに比例して非効率で無意味なリスクでしかない。

 彼は、美月への返信を打ち始めた。ただ一言、**「我慢して並べ。それが青春だ」と。そして、美月の「青春」が、戦場からの「残響」ではなく、「行列の退屈さ」**という平和な日常によって壊されないよう、遠くから祈った。

 晶斗の、**天才美少女魔法使いの「秘密の共犯者」**としての、刺激的で、そして少し疲れる日々は、始まったばかりだった。

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