第7章:「無関心に見えるその瞳の奥に」

「だからさ、ユウジか知らねえけど!」


ハルがペンをブンブン振る。


「答えは24だろ!」


叫び声が響く。




「やめろよ。」


ユウジはサンドイッチにかじりつく。


鼻で笑う。


「昔のやり方なら96だ。ハル、お前、授業サボっただけだろ!」




「は!? 昭和の遺物はお前の方だろ!」


ハルがユウジにペンを突きつける。


「時代は変わるんだよ、相棒!」




ナギは聞いてなかった。


二人の会話はただの雑音。


遠くで流れるラジオのよう。




突然、空気が変わった。




「ん? ナギ?」


ハルが目を細める。


「いつからそこにいたんだ?」




ユウジが振り返る。


ニカッと笑った。




「お、武田教授の哲学またか?」


ユウジがニヤッと笑う。


「ナギ、お前、見た目より深いな!」




ナギは黙ったまま。


スプーンがケーキの上で止まる。


視線はトレイに釘付け。


まるで周りに誰もいない。




「やめとけよ、ユウジ。」


ハルが口を挟む。


「喋りたくないなら、無理させんなよ。」


目をぐるっと回した。




「チッ」と舌打ち。


ユウジはサンドイッチをガブリ。


それ以上は突っ込まない。




ナギが立ち上がる。


食べかけのケーキを残す。


柚子ソーダもそのまま。


一言も発せず、去った。




階段の踊り場。


足音がポツポツ響く。


廊下は学生のざわめきで騒がしい。


笑い声、話し声、急ぐ足音。




全部、ナギの横をすり抜ける。




講義室は半分埋まってる。


誰かはノートをパラパラ。


誰かはスマホをスクロール。


昨夜のパーティを語る声。




ナギは目を合わせない。


窓際の最後列へ。


群衆に溶けるように進む。




その瞬間――




「ねえ…ナギ?」


誰かがそっと呟く。


ナギは凍りつく。


その声、なぜか聞き覚えがある。




「んー、誰もいねえ。」


「誰が呼んだんだ?」


ナギはそう思った。




窓の外、桜の木が揺れる。


葉っぱの隙間から光が漏れる。


柔らかい陽射しが教室に差し込む。




ナギは席に着く。


机に目を落とした。


「世界が消えちまったって――」


「どうでもいい。」




「ナギくん!」


透き通った声が響く。


ざわめきを切り裂いた。




クラス委員、ミズキ アヤ。


背が高く、優雅な雰囲気。


青い目は夏の空のよう。


前髪が顔を柔らかく縁取る。




「ここ、空いてるよ!」


アヤが明るく言う。




ナギはチラッと見る。


目つきは刃物のように鋭い。


「なんで俺を呼ぶ?」


「何を企んでる?」




口には出さない。


ただ、席に深く沈み込む。


陽の光が顔の半分を照らす。


目の下のクマが目立つ。




アヤは眉を少し上げる。


すぐに笑顔に戻る。


「まただ…ナギくん。」




その瞬間――


ナギの内で何かが動く。


ピクッと、予期せぬ何か。




アヤは慣れてた。


ナギの「変な行動」に。


授業をサボる。講義中に寝る。突然消える。


いつものことだ。


3


でも、心が引っかかる。


解けないパズルみたい。


何か、気になる。




「マジ!?」


シンジが身を乗り出す。


ヒソヒソ声で言う。


「ミズキ、あのナギ、マジで無視したの!?」




「よくそんな度胸あるな!」


シンジの声が響く。


「え、うそ!? ミズキまで!?」


後ろから声がチラホラ。




そばの女子が顔をしかめる。


胸に手を当てる。


「なにあれ? 影かなんかだと思ってる?」


「会長気取り? 自意識過剰じゃん!」




「ミズキの隣に座れる名誉に…」


「ありがとうも言わないなんて、最悪…」


誰かがボソッと呟く。




苛立ちが広がる。


毒がじわじわ染み込む。


教室に緊張が漂う。




みんな、次の言葉を待つ。


ナギを「よそ者」と叩く一言を。




そして――


何か、起こるはずだった。




その瞬間――




バン!


アヤが机を叩く。


教室が凍りつく。




静寂が広がる。




「やめて。」


ミズキの声は静か。


でも、鋭い。


柔らかさに鋼の意志。




ミズキが立ち上がる。


教室を見渡す。


青い目がキラッと光る。




「みんな、ナギくんのことを知らない。」


「何も知らないよね。」




「誰にだって、いろんな面がある。」


笑顔を見せる人もいる。


壁を作る人もいる。


それだけで価値を決めちゃダメ。




ミズキは少し間を置く。


静かに続ける。


「ナギくん、きっと戦ってる。」


「何かと戦ってるのかもしれない。」




「疲れすぎて、笑う気力もない。」


「想像もつかない何かと――」


「今この瞬間、戦ってる。」




その視線がナギへ。


ナギは動かない。


じっと前を見る。




「静けさ、時として言葉より雄弁。」


「ただの人間になる前に、『裁判官』になるな。」




誰も反論できない。


重い静寂が残る。




生徒たちは目を逸らす。


ノートをパラパラめくるふり。


シンジが「チッ」と舌打ち。


椅子にドサッと座る。




ミズキは席に戻る。


膝の上で手を組む。


怒りも失望もない。




ただ、ほのかな不安。


そして、もう一つの感情――


好奇心。




ナギくん、君って何者?


心が桜の花びらみたいに揺れる。


解き明かしたいわけじゃない。


ただ、知りたいだけ。



最後まで読んでくれて、ありがとう!




感想、評価、ブクマ――


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今後の展開にも気合が入るので、


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