第8章:「哲学は、お前の心を暴くためにある」

バン!




教室のドアが勢いよく開いた。


まるで嵐が突っ込んできたみたいだ。




「よおし、みんな! 準備はいいか!?」




ハヤカワ教授が教室に飛び込んできた。


まるで熱血アニメのぶっ飛んだ教師そのもの。


真っ赤なベストが非常信号みたいにギラギラしてる。




脇にはボロボロのブリーフケース。


ポケットからは赤いハンカチが生意気そうに飛び出してる。


白い髪はピシッと整ってる。


目にはバチバチと火花が散ってる。




「哲学ってのはな、科学でも宗教でもねえ!」




ドン!




ブリーフケースが机に叩きつけられた。


みんながビクッと飛び上がった。




「冒険だ! 朝、なんで目を開けたのか、考える旅だ!」




教室がシーンと静まり返った。


さっきまでガヤガヤ喋ってた連中も、ピタッと固まった。




まるで魔法が教室を包んだみたい。


一人、また一人、学生たちがノートを開き始めた。




でも、ただ一人、動かない奴がいた。


ナギだ。




窓の外をぼーっと見てた。


教授の熱血パフォーマンスなんて、まるで眼中になかった。




だが、突然…




教授がガッとナギの方に振り向いた。




「おい、ナギ! だったら教えてくれよ… 今日、なんでお前は目を開けたんだ?」




ナギは答えなかった。




教授はニヤリと笑った。


そのままクラスに話し続けた。




「プラトン? ハッ! あのおじいちゃん、時代遅れもいいとこだ!」




ハヤカワ教授がニヤッと笑う。


「今日の主役は、ほかでもない、お前ら自身だ!」




ナギの眉がピクッと動いた。




(また始まった… いつものサーカスだな…)




それでも、前髪の下からチラッと覗く視線。


教授の言葉に、どこか引っかかった。




「正直に生きるか。幸せに生きるか。どっちが大事だ?」




教授が教室の列の間を歩き始めた。


まるでハンターが獲物を嗅ぎつけるよう。


ゆっくり、堂々と。




「でもよ、もしどっちもできねえとしたら… そもそも、なんのために生きるんだ?」




突然、教授がピタッと立ち止まった。




「ミズキ! さあ、お前の答えを聞かせてみろ!」




教室が一瞬で凍りついた。


空気がビーンと張り詰めた。


まるで弦がピンと張られたようだ。




全員の視線がミズキに集中した。




そして、ナギも…


ほんの少し、首を動かした。




ほんの、ほんの少し。


でも、それに気づいたやつがいた。




ミズキが目を上げた。


青い瞳は、夏の空みたいに澄んでいた。




少し考えて、静かに口を開いた。




「正直であること。それが土台だよ。


でも、もしそれで不幸になるなら…」




一瞬、彼女は視線を落とした。




「それは、間違った真実を選んだってこと。


もしくは、自分自身をまだ知らないだけ。」




教室が静まり返った。


チョークの匂いまで、なぜか鮮明に感じられた。




「幸せって、ゴールじゃない。」




彼女の声は柔らかく、でも力強く響いた。




「それは、正しい一歩を踏み出した先に待ってるもの。


怖くても。一人でも。」




ハヤカワ教授の目がキラリと光った。




「素晴らしい!


哲学ってのは、知識じゃねえ。


自分の真実をドカンとさらけ出す勇気だ!


ミズキ、グッジョブ!」




教室がザワザワと沸いた。


誰かが拍手した。


誰かは呆れて目をぐるりと回した。




でも、ナギだけは動かなかった。




虚空を見つめていた。


ミズキの言葉が何か… あまりにも近いところを突いた気がした。




でも… それは何だったんだ?




教室がザワザワと騒がしくなった。


誰かが感嘆の息を漏らした。




ナギの胸の奥で、何かがチクッと刺さった。




(…綺麗すぎる。眩しすぎる。俺には似合わねえ。)




視線を窓の外に逸らした。


桜の花びらが、ゆらゆらと落ちていく。




講義のざわめき。


ペンのカチカチ。


キーボードの軽い打音。




と、その時――ブブッ!




ポケットの中でスマホが震えた。




ナギは目を細めた。


画面をチラリと見た。




「ご注文の荷物が配送先に到着しました」




一瞬、顔が石のように固まった。




だが、すぐ――カチッ!




心の奥で何かが切れた。




唇がピクッと動いた。


いつもの冷たい仮面じゃなく――


何か、ゾッとするような笑みが浮かんだ。




まるでナギの内側で、爆弾がドカンと炸裂したみたい。




慌てて顔を逸らした。




隠したかった。




でも――




ミズキは全部見てた。




その瞳が、思わず大きく見開かれた。


一年の時から知ってるナギが…


こんな顔?




最後にこんなのを見たの、いつだっけ?




何かあった。


ナギを本気で喜ばせた何か。




でも…


胸の奥が、チクッと嫌な感じに締め付けられた。




「ナギ… それ、なに…?」




小さな、ほとんど聞こえない声。


唇からこぼれた。




好奇心が、彼女の心をギュッと鷲づかみにした。




窓の外で、桜の影がゆらりと揺れた。




その時――シルエット。




ナギの視線が、そっちにスッと流れた。


あまりにも自然に。




まるで…


そこに誰がいるか、知ってるみたいに。



最後まで読んでくれて、ありがとう!




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