第3話 潜入開始
潜入当日。
早朝の国会議事堂に潜入した二人は大川の秘書と世話係が来るのを隠れて待った。
少しして二人が出勤してきたのを発見すると、周囲に誰もいないことを確認して抹殺した。そして速やかに二人に擬態すると大川の到着を待った。
数時間後、大川が現れ、予定通り票と賄賂を受け取りに行くとのことで同行を開始した。
「おはようございます、先生。どうぞ」
世話係に扮したクルミが車のドアを開けて大川を乗車させ、秘書となったナオが車を運転した。
「どいつもこいつも騒ぎたておって。まぁ実権さえ握れてしまえば後はどうとでもなる。なぁ?
秘書の小鳥遊
「その通りでございます。先生が国を治めるとなればものの数ではないでしょう」
口調や仕草、言葉の癖までを完全に模倣したその返答に大川は一切疑問を抱かなかった。大川は車内ではタバコを吸うという情報があったので世話係のクルミ、小林
それから順調に移動は続き、一件二件と巡回もとい回収していく。
「次で最後か。これで俺が当選することは間違い無しだ」
車内には中身が見えないように詰められた賄賂と大量の不正票あり、それを見て大川は大層ご満悦である。
最後の回収を終えると、大川はこのまま直帰するとのことなので自宅まで送り届けた。
「それじゃ、それは頼んだぞ。明日は国会議事堂で開票結果を見る。まぁ、当選しているから見なくてもいいが、国民にこの顔を見せなきゃならんのでな」
笑いながらそう言うと、自宅へ入って行った。
「それじゃ、私達も動こうか」
「はい。明日のため、未来のためにですね」
擬態こそ解かなかったが、予定通り公正党本部へ向かった。そこにはデータにあった通りの
「受け取りにきました」
と言う彼に今日の賄賂と不正票を全て渡した。
「既に本部には我々HNしかおりません。この後も来訪はありませんし、防犯カメラには偽映像を刷り込み済です。ですのでお気になさらずご調査いただいて結構です。必要でしたらお呼びください」
「ありがとう。それじゃ早速だけど、何人か手伝ってほしいかな。あと票とかはお願いね」
かしこまりましたと会釈をする彼の横を通り、二人は車を入口に付けて本部へ侵入した。
それからは過去の資料がある部屋や大川の私室を数人で手分けしてくまなく探す。
数時間が経過し、探すことに集中出来るように二人は擬態を解いていた。
すると、クルミは公正党全体の資金管理が記された帳簿を発見し、またすぐに大川を含む他公正党員の個人帳簿も発見した。そこに記されていたのは、脱税やら出元不明の資金記録を記した汚い情報だった。
「お金以外にも国民に関係する情報はない?」
「そうですね……」
だがもちろんそれは簡単には見つからなかった。
「さすがに人に関するものはないんじゃないんでしょうか?」
「いや、そんなことはないはず。現代においての資産は人、モノ、金、情報とされているから金の情報があるなら他もあるはずなんだよね」
そう言われてクルミと他のHN達も探し続けた。すると、ついにクルミがとんでもないものを見つけた。
「これは……さすがにまずいんじゃ……」
「うん。世間に出ると一発でアウトだね」
大川の私室にあった棚の最奥に隠し戸みたいなものがあり、その鍵をピッキングして開けると、中からは人身売買契約書と書かれた書類と帳簿が出てきたのだ。
記されているだけでも数百人以上。そのほとんどは孤児やホームレスだった。
「こういう人だから消えてもアシがつかない…か。最低ですね」
「クルミさん。これはどうでしょう?」
手伝ってくれているHNからだった。それには幾度にもわたる手術記録と、その経過について記載されていた。そしてそれは全て異なる人だった。
その中の何枚かは大川本人のものだったが、その費用は他とは比べ物にならない額で、且つ大がかりな手術記録だった。
「まるで人体実験みたいですね」
「うん。大川は孤児やホームレスの人身売買と周囲からの賄賂で金を作り、アシの付かない人で人体実験をしていた。加えて、自分も何かしらの病気を患っていたのか、もしくは肉体をいじっているのか。そういったところだろうね」
クルミは少し考え、周囲のHNに指示を出した。
「事件や事故の記録とか公正党の人事関係の書類を探してください。きっと何かあると思いますので」
そして間もなくして、それは見つかった。
「ここ数年の間に離党した人のリストと事故の記録ですね」
「これを見てどうするの?」
「予想ですけど、ホームレスや孤児って極端に若いか年齢が高めの人が多いと思うんですよね。もしも大川が自分にも人体実験の結果を適用させているのであれば、若い人や歳の近い人でも実験すると思うんです。そうなれば、もしかすると党内からも犠牲者が出ているかもと。あとは、私達のお父さんの事故の記録も見つかればと思って」
発見されたそれにはクルミの予想通り、若い世代から大川の年齢に近い世代の不自然な人事異動と、その該当者が一年以内に事故死している記録があった。だだ、二人の父に関する記録は見当たらなかった。
「ナオさん、クルミさん。そろそろ夜が明けます。開票日とはいえ、もし多くの人が来ては全てを追い返すと逆に不審がられます」
時計を見ると、もうすぐ日の出の時間だった。
「分かった。クルミ、片付けて撤収するよ。みんな、ここの資料は
それらは写真や映像で記録を残したものから元通りに戻され、どうにか朝までに撤収することが出来た。
その後二人は準備された武器を確認し、少しの仮眠をとった。
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