第7話 裏にいる人

「ココミ。今日はナイスな仕事だったよ。いいタイミングで来てくれて助かったよ」

「え、何がですか?」


 仕事が終わると、ココミがケンタに報告したいことがあるといいROOMルームを繋げていた。


「体育館裏のあれ。俺が出て行こうと思ったんだけど、二人に目を付けられて今後派手に動けなくなりそうだったから困ってたんだよね。前を通って行った時は驚いたのなんの」

「え、でもあそこには他に木と体育館しかなかったじゃないですか。まさか……」

「そのまさか。木に擬態してたよ」

「そんなことも出来るんですか?」

「うん。擬態出来るのは人間だけなんて言ってないよ? でも練習しないと出来ないけど」

HNヒューマノイドの可能性は無限大じゃないですか」

「そう。HNはどこにでもいるけど、どこにもいない。いると思えばいるし、いないと思えばいない。そんな不可思議な存在だよ。で、本題だけど、何かあったの?」


 画面の向こうで夕飯のカップ麺をすすりながらケンタは問う。


「そうそう。これ聞いてください。今日標的の三人と、学校に来た公正党の人との会話なんですけど」

「公正党? そんな大物が来たんだな。もしかして盗聴したの? やるね」

「はい。頑張りました。今からその音声ファイルを共有しますので聞いてください」


 そこからは応接室での会話の内容が流れた。


「大川さん。まずは先の一件感謝しますわ。おかげで狂った馬鹿が一人自殺したことになりました。これは感謝の極みですわ」

「ちょっと待って。大川だって!」


 その驚きの声にココミはそこで一旦音声が停止させた。


「はい。さきほど言った公正党の大川議員です。私の目でも本人であると確認しました」

「そ、そうか…… ごめん、取り乱した」

「いえ。続きを再生しますね」


 その今までに見たことがなかった様子に引っかかりを覚えるも、再び再生したココミ。


「いやいや。人一人自殺に仕立てるなんて造作もないことだよ。確か、実行したのは君だったかな? 石川君」

「はい私です。こういう役ばかりまわってくるものですから困ってしまいますよ。でも相応の報酬と自らの潔白が証明出来るのですから上手い話です」

「私も手を下しましたのよ。大川さん」

「藤原君。君も大いに働いてくれた。話は聞いてるが、あの女、確か名前は……」

「西野です。西野恭です」

「そうそう。毎日よく追い込んでくれた。他の職員達が口を割らない限りは彼女の死はただの自殺となり、この学校とはなんら関係ないという証明になる。まぁ、ここに口を割る人なんていないと思うがね」

「もちろんです。我が校は年長者を敬い、その言うことは絶対なのです。口外など絶対にあり得ませんわ」


 と、四人の談笑が続いた。


「酷いな。ココミ? 大丈夫?」

「……はい。ケンタさん。聞いてほしいのはこの後なんです」


 そう言われたケンタは引き続き会話に耳を傾けた。


「それで、大川さん。選挙の方は大丈夫なんですの? その、少し前にあんなことがありましたでしょう? 古巣証券の件」

「あぁ。あの社長と部長が死んだ話か。確かに古巣証券も俺が色々と守ってやっていた場所ではあったんだがな。まぁ、昔には過労で自殺した社員の件を揉み消してやったり、色々な。でもな、あれはもう気にしなくていい。あそことの関係も無かったことにしたんだ。いくら俺が警察に捕まらないとはいえ、切り時を見誤れば議員の首の方が怪しくなる。そうなればこの国は新しいことやその概念にまみれることになるだろう。そんなことはあってはならないのだ。全ての年長者のためにもな」

「なんて心強いお言葉なのでしょう。そういうことでしたら安心ですわ」

「そうだ。あなた方は何も心配せずにこの学校で従順な駒を育ててくれれば結構。それが未来の我が国の、我々の幸福に繋がるのだから」

「さらにお心強いお言葉。石川、をお持ちして」

「こちらに」


 がさがさとした音が入り、テーブルに何か重い物が置かれた音が入った。


「これは?」

「念には念をと思いまして。そろそろ選挙の時期でしょう? ですので公正党の大川さんへの票です。それと僅かばかりですが、資金としてお使いいただければと思いまして、近隣住民と生徒から徴収しました」

「ふむ。前に来た時といい今回といいすまないね。これだけの金と票があれば当選確実だろう。確か前回の金は生徒達の修学旅行費からだったね。ここまでしてもらってあれだが、良かったのかな?」

「ええ、もちろんです。若い子達のものは私達のもの。何かあれば上手く丸め込んでしまえばいいだけですので。―して、当選されたら今後はどうするおつもりで?」

「そうだな。今の体制をより強固にする。伝統国家日本。年配者を敬い、崇める精神を若者にさらに強く教育し、我々の安寧の邪魔となる思想と新技術を撤廃しよう。LGBTQが認可されれば将来我々の肥やしになる人は減り、SNSにより若者は我々に不利な情報を広げる。全てが脅威。娯楽もそうだ。遊んでいる時間があるなら少しでも年配者のために動くべきなのだ。それらが全て無くなれば若者には働くことしか残らない。そうなれば年配者の将来は安定するに違いない。年長者は仕事なんてしなくていい。全ては若者にやらせて我々は金をむしればいい。下が苦しもうが全ては年配者のため。だが、そんな国が完成する頃には完全に教育された彼らが疑問に思うことはなく働き続けるだろう」

「でも大丈夫なんですか? 票があるとはいえ新生党も活発に動くのでしょう?」

「だろうな。でも心配には及ばんよ。今回は前みたいに邪魔者はいないし、いてもまた消えてもらうだけだから。に許された邪魔者の排除方法でね」


 とここで音声ファイルが終わった。


「ここまでが手に入れた情報です。一応この先もあったんですけど、あとは雑談ばかりで特に耳寄りなことは言ってませんでした。……ケンタさん?」

「……あ、ごめん。まさにクズ共の会話だね。まさか古巣証券とも繋がっていたとはな」

「はい。さっきROOルーの調査員に調べてもらったんですけど、古巣証券は今回の柳中学校のように献金をすることで守ってもらっていたようです。昨今言われている、大企業の企業献金ってやつです。その金で警察も黙らせていて、そのせいでそれ関係の訴えは全て棄却されます」

「なるほど。この件は思ったよりも根が深そうだ。あと、四人の話を聞く感じだと日程的に厳しいな」


 ケンタは一瞬考え事をしていたような、影のある顔をしていた。


「何がです?」

「衆議院議員選挙の投票日だよ。大川は公正党の衆議院議員だ。日にちがもう一週間もないから、俺達はこれを知っちまった以上は未来のために公正党を、特に大川を当選させちゃ駄目なんだ。となれば早めに動かないといけないんだけど、今は柳中学校の件で動いているわけだし、今日で潜入二日目が終わったところだしな……」


 ケンタはミヤコが言っていた、最低三日は耐えろという言葉を思い出していた。


「こうなった今、重要なのは日数じゃないと思います。日本人はすぐ質よりも量、期間の長さに固執しますけど、それじゃ非合理的だと思います。非効率でもあります。なので、ミヤコさんに一回相談してみませんか?」

「そうだな。ったく。時間の量にこだわるんじゃ、俺も古臭い連中と同じだな」


 そしてココミはミヤコに連絡を入れると、すぐにROOMへ招待した。


「昨日話したばかりじゃないの。どうしたの? 何かあった?」


 ミヤコの後ろの様子からして、アイリスの準備がほぼ完了していた。そして画面の先でミヤコがヤゴへと姿を変えた。


「緊急の報告かい?」

「ヤゴさん。俺達は明日にでも執行しようと考えてる。潜入前にヤゴさんが言ってた日程よりも早いけど、状況が変わったんだ」

「ふむ。焦っているようだね。まずは話を聞こうか」

「ありがとうございます。ではこれを聞いてください。私達は重要な情報を掴みました。手遅れになる前に動きたいんです」


 必死且つ熱心にそう訴えるココミの様子を見るなり、ヤゴはただならぬものを感じて共有された音声ファイルを聞き始めた。それが終わると衆議院議員選挙の日程をケンタが説明した。


「なるほど。事情は分かった。であれば明日の執行を許可する。趣旨としては証拠により三人の執行は確定。それで投票日が近いから公正党の大川を当選させないよう動きたい。そういうことだね?」

「そう。今じゃ大川を止められる人がいない。新生党だって……」


 直後ケンタの声が止まった。だがすぐに続けた。


「かつての有力者はいなくなってしまった。だから自分達が動くしかない。だろ?」

「はい。だから明日三人を執行して、次に動きたいんです。この国が手遅れになる前に」

「分かった。こっちもこっちで色々と準備を進めておくよ。今回の執行の武器は今日中には届くように手配するから、必ず受け取るように。それと、ココミさん」

「はい」

「情報収集、見事だった。熱意も伝わったよ。前に言っていた、執行をやらせてほしいって話だが、個人的には許可したいと思う。これだけの情報を集めておいて何度も気が触れそうになったのは十分に想像出来る。でもまだ三人はちゃんと生きている。必死に耐えたのだろう。よく頑張った。最後のトリガーは現場のケンタに任せる。それじゃ健闘を祈る」


 その言葉の直後ヤゴとの通信が切れた。


「そういうことだから、明日三人には死んでもらうわけだけど、どのタイミングで執行しようか。学校だと放課後は部活があって教員も残業とかでほぼチャンスが無いと思うけど」

「あ、それがですね、さっきの音声ファイルの続きに明日三人が揃って出かける話が入ってたんですよ」

「他に耳寄りな情報は無いって言ってなかったか?」

「ヤゴさんに早く伝えたかったので。いわゆる割愛ってやつですよ」

「なるほど。でも後で詳細情報はヤゴさんに送っとけよ?」

「もちろんです。それでですね、まずはこれを見てください」


 ココミは画面に写真と住所を共有した。


「明日は金曜日です。どうやらあの三人は毎週金曜日にこのホストクラブに行くみたいなんです。お金は教材費とか保護者からの集金から払っているみたいですが。なので、どうにかしてここで執行出来ないかと思ってるんですよね。でも、店を出てからは毎回現地解散みたいで、そこから一人ずつ執行するには時間と手間がかかるかと。どうしましょうか」


 一般人の店で尚且つ他の客の目がある。チャンスらしいチャンスはあるものの詰めの一手が無いという状態だ。


「それはどうにかなると思う。店ごと借り入れるか買収しちまえばいいだけだから」

「そんな都合よく出来るんですか?」

「出来る。こういう時のROOの力は凄いよ。未来と執行のためならなんでもバックアップしてくれるから店の一つや二つ、キャストの十人や二十人どうとでもなる」


 早速ケンタは共有された情報と執行の詳細をRINEルインでヤゴに相談した。すると数分後、


「出来るって。当日のキャストとか客は擬態させたROOの工作員で固めて上手くやるから明日はそのまま店に潜入で大丈夫だと。あと汚したり壊したりしても気にするなってさ」

「凄いですね」

「ということだから、明日は学校が終わったら俺は先に店に行って色々と準備をしておく。だから、ココミは三人の動向を逐一報告だ。執行するからって学校にいる状態でやるなよ?」

「大丈夫です。あの会話を聞いても耐えられましたから、その時までは手を出しません」

「いい子だ。ココミ、最後に聞きたいんだけど、もしあの三人の始末を本当にココミに任せたとして、どうして殺すんだ? いや、どういう気持ちで殺すんだ?」


 真剣に問うケンタに対して真面目に返答するココミ。


「社会の、未来の害悪になる存在だから殺すんです。もちろんあの三人は私の妹を自殺に仕立てた憎き人達です。私個人の感情なら妹の無念を込めて残虐に殺してやりたいですよ。でも今の私はROOでありHNです。個人的に殺すのではなく、未来のために執行するんです。今の私はそう思います」


 そうか。とケンタは安心した様子を見せた。


「それじゃ、今回の執行はココミに任せる。ヤゴさんと俺の許可により、明日三人を執行するんだ。俺はサポートに回るから気にせずにやれ。分かったか?」

「分かりました。私が必ず三人を執行します」


 正式にその任を受けたココミの目には嬉しさと決意の色が表れた。


 そしてROOMが終了し、少しするとそれぞれの部屋に武器が到着した。

 しかしココミはそれらを全てケンタの部屋に持って行った。内心申し訳ないと思いつつも、ココミには最後まで三人の動きを監視する役目があるので部屋に武器を取りに行く時間がないのだ。だから明日はケンタが二人分の武器を持って先に現地入りするのである。


「恭。私、明日は頑張るからね」


 と言って、雲一つ無い夜空を窓から見ていた。

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