Ver1.2 迷えるオートマトン

調査を初めて三〇分


私は呆れていた。


私はジゥに連絡をいれる


「あらクジ。もう嫌になりましたか?」

「ああ、嫌になったわ」

「相変わらず堪え性がないですねぇ」

「ああ、堪え性がねーわ」

「…………何か拾い食いでもしましたか?」

「ああ、そうかもな」


 呆れすぎてテキトーな返答を繰り返していると。

 ジゥも察したようだった。


「………………まさか」

「見つけたわ」


 私の視線の先にそれはいた。


 紫の髪。

 赤い目。

 そして、頭部の損傷を隠すような包帯。


 依頼の内容と合致している。


 ただ――


「なんか色々聞き歩いているみたいなんだけど、あいつ」

「エラーコード九十九起因の異常行動では?」

「いや、そうは見えないな。何かを探してるみてーだ」

「ふーむ……依頼者からは何も聞いていませんね」

「……ここらへんが隠してる中身かもな」

「どうでしょうね」

「違うっていうのか?」

「探しているものが、依頼主の隠していることだとしましょう。だとしたら、なぜ研究所から盗まれたオートマトンが、探しているのですか?」

「……普通は盗んだ実行犯がやる行動だな」

「ええ、それにあなたも言いましたが、CESがオートマトンの追跡ができていないわけがありません」

「ということは、……」


 お互いに沈黙し、瞬時に最悪のシナリオが頭の中によぎった。


 それは、自分たちに降り懸かる火の粉――


「慎重に行きましょうクジ。下手に動くと、銃口がこちらに向きます」

「分かった。とりあえず、あいつが接触した人間を探してみる」

「くれぐれも慎重に」

「はいよ」


 通話を終えた私は、その足でアンダーの裏通りを歩くことにした。


 アンダーの今を知るには、これが一番なのだ。


 アンダーは巨大な村社会である。


 徒党を組み、組織を作り、互いを牽制し合うのが日常。


 そんなことをしていれば、当然いざこざが起きる。


 そのいざこざはケンカに変わり、抗争に変わり、戦争に変わる。


 勝たなければ生き残れない。


 死なないためには、勝たなければならない。


 それがアンダーの絶対的な掟なのだ。


 では、どうやって生き抜くか。


 金?


 武器?


 違う。


 情報だ。


 情報を先に掴んだものが、このアンダーで生き抜くことができる。


 だから――人々は頻繁に噂話をするのだ。


 この路地裏でひっそりと――


『クラスとオロチメ組が近々ぶつかるらしい。ニュートラルにでも避難するかねぇ』

『その引金になったデックスはトナンに逃げたらしいぞ』

『ハハ、よりによってトナンにかよ。ほっとけば勝手に死ぬなこりゃ』

『そういや、最近変なオートマトンをみかけねーか?』

『自分を知っているかって聞いて回ってるオートマトンのことか?』

『ああ、どうやらCES謹製のやばいオートマトンらしいぞ』

『へぇ、とっ捕まえて売り飛ばすか。パーツが高値で売れそうだ』

『やめとけ、関わらねーほうがいい……殺されるぞ』

『大げさだろ』

『いや、現に殺されてんだよ……』

『……マジ?』

『ああ……あの建物で闇医者やってた奴がな……』

『ヤバ……』


 これだ。


 すぐに噂になっていた建物に向かってみると


 そこにはCESセキュリティが到着し、何かをしているようだった。


 これは、CESが隠蔽をする時のお決まりのパターンだ。


 つまり――噂は本当。


 これで1つの仮定が生まれる。


 あのオートマトンには――


 誰にも知られてはいけない秘密が眠っている――





 ―――Ver1.2 迷えるオートマトン 終

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