男だと思われ夜這いされて、女だとバレてしまった件。ちなみに襲ってきたのは男です。

ありま氷炎

第1話 性別がばれてしまった。

 軍隊には男を好む男がいると聞いたことがあった。

 嘘だろうと思ったら本当だった。

 男らしい男が、友情の延長のように男にアプローチしたり、

 また女っぽい男が、男らしい男にアプローチしたり、

 いやはや、なんていうか驚いた。


 私は、もっと気を付けておくべきだった。

 自分がターゲットにならないと、思い込んでいたからだ。


「もう寝ちゃったかしら?」


 ルームメイトが不在のある日、扉が開いて、その人はやってきた。

 声だけで誰かわかった。

 副団長で、顔がめちゃくちゃ綺麗な人だ。

 たまに壇上で挨拶とかして、話し方が女性的だったし、きっとそういう趣味とも知っていた。

 だけど、まさか自分が狙われるとは思ってもいなかった。


「アノンくん」

「エルガート副団長!」


 私は彼の手に触れられる前にベッドから起き上がる。


「あら、恥ずかしがって。優しくしてあげるわよ」

「ああ、あの、私はそういう趣味はありませんので」

「最初はみんなそう言うの」


 エルガ―ト副団長はふふと笑う。

 巻き毛がくるくると顔の周りで巻かれていて、ドレスとか着ても全然似合いそうな方。おそらく私よりドレスが似合いそうだ。

 エルガート副団長と一夜を共にした男は皆骨抜きになるそうだ。

 そのせいで、彼に襲われて訴えたものは誰もいない。


「アルノくん」

「こ、困りますから!」

「随分可哀そうな声を出すのね。そんな高い声、女の子みたいよ。まさか!」


 副団長は素早く私を掴むと、シャツを破く。


「布が巻かれている。あなた、女の子なの?」

「す、すみません!」


 そう私は女なのだ。

 男性しか入れない軍に男と偽って入った。

 私の親は隣国の兵に殺された。だから、軍に入って隣国の奴らを殺してやろうと思った。

 だけど、これじゃあ、私の方が殺される。

 軍法会議で……。


「ちょうどいいわ。あなた、私の役に立って」

「はい?」


 翌日から私はエルガード副団長の謎に包まれた恋人役(女)をすることになってしまった。

 もちろん、普段は兵士として軍に従事する。

 彼がカモフラージュとして女性役が必要な時に、私が恋人の振りをするのだ。やはり彼の趣向が男性に向いていることは、家族にはよく思われていないようで、女の恋人ができたら、安心してもらえる。追及されない。そう思って、彼は私に女恋人役を頼むことにしたらしい。

 彼は貴族様なので、それに相応しいマナーとかを即席で教えてもらう。もちろん、バレないように彼の身内に会うのは超短時間だ。


「困ったわね。あなた、国境に異動よ。私も一緒に行こうかしら」

「エルガード副団長!それはだめですよ!」


 私の異動に彼を付き合わせてはいけないと私は反対する。


「でもあなた、私はいなくてバレない可能性あるの?」


 そう言われると黙るしかない。

 入団してから一か月で、副団長に私の性別がばれてしまった。それから三か月、何度かバレそうになる場面があり、庇ってもらった。ちなみに団内でも私は副団長と付き合っていることになっている。私は否定したのだけど、彼は面倒なのでそう言うことにしましょうと決めてしまった。


「が、頑張ります!」

「だめよ。やっぱり一緒に行く。国境でしょ?激戦地よ。こっちよりも鍛えた体が見れそうだし、行くわ。異動願い出しておくわね」

「も、申し訳ありません。今後も精進して恋人を務めさせていただきます」

「そうね。頑張って」


 エルガード副団長は微笑み、行ってしまわれた。


「お前、本当にエルガード副団長と付き合ってるんだなあ。異動先までついてくるとは。よっぽど、いいのかな」

「どういう意味で?」

「女みたいななりしているし、俺も試してみようかな」

「触るな!」


 どこからか、わらわらと評判の悪い男たちが現れる。

 どれも問題児で、エルガード副団長がこっぴどく叱っている姿を見たことがある。彼らは私と同じで平民だし、お貴族様の副団長に叱られても、歯向かう様子は見せなかったけど。

 やっぱり不満は覚えていたのか。

 私だって、遊んでいたわけではない。

 手を掴もうとした男の腕を捻って、投げ飛ばす。

 恐らく軍の平均より非力だが、非力なりに戦う方法は身に着けたつもりだ。


「この野郎!」

「待ちなさい!」


 もう一人の男が私の胸倉をつかんだところで、副団長が颯爽と現れ、男を殴りつけた。

 男は殴られた勢いで吹き飛ばされ、壁に激突する。


「大丈夫だった?」

「はい」


 彼が暴力を振るうのを初めてみた。

 そしてその力も。

 女性みたいに綺麗なので、私同様非力だと思っていたけど、それは間違いだった。


「もう、嫌になるわね。手が汚れちゃったわ。こいつらはもう駄目ね。処罰決定。異動する前に手続きするわ。だから大丈夫」

「あ、ありがとうございます」


 それから、私に絡んでくる輩は激変した。

 というか、変な噂が広まって、話しかけてくる輩も減ったみたい。


『エルガード副団長の恋人に近づいたら、嫉妬で半殺しにあるから気を付けろ』


 そんな事実でもない噂。

 否定したいけど、わざわざみんなに話すのもあれなので、放置するしかなかった。

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