断罪の前に、ひと呼吸――歴史と現代をつなぐ優しい提案
- ★★★ Excellent!!!
なんて静かで、けれど深い波紋を残すエッセイなのでしょう。
「十月十六日 セーヌ川のほとりで」を読み終えてまず感じたのは、「歴史」というものの、あまりにも流動的で多面的な在り方です。歴史というのは、「正しさ」の服を着替えながら静かに歩いていく仮装行列だったりして、その時代の空気や、“語る者”の都合によって、ひとりの人生が天使にも悪魔にも塗り替えられてしまう。
マリー・アントワネットも、もし現代に生まれていたなら、案外「繊細で芯のある異国プリンセス」としてSNSでバズっていたのかもしれません……なんて、ふと妄想してしまいました。
最近は、ネットでの情報拡散も早く、誰かが一夜でヒーローになったり、魔女狩りのような渦に巻き込まれたり。私自身もニュースやSNSで「これって本当なの?」と考えることが多くなりました。
だからこそ、このエッセイが描く「もう一歩調べてみる」「別の視点で考えてみる」という姿勢は、現代に生きる私たちへの優しい提案なのだと思います。歴史に限らず、何かを「断罪」する前にほんの少しだけ立ち止まってみる。そんな小さな習慣こそが、情報の洪水のなかで自分自身を保つ“ささやかな革命”になるのかもしれません。
そして私もまた、一人の作家として、悲運な歴史の人物たちにそっと寄り添うような、たらればファンタジーを書いてみたくなりました。
素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。