第2話:プロフィールはちゃんと読め
### ボーイミーツマザー 第2話:プロフィールはちゃんと読め
スマホをベッドに放り投げ、天井を仰ぐ。
さゆりさんのオカン。
俺がマッチングしたのは、憧れの同級生の、お母さん。
「終わった…」。俺の恋活は、開始数十分でサービス終了のお知らせだ。いっそこのままアカウントを消して、すべてを夢だったことにしようか。そう思い始めた、その時だった。
ベッドの上で放置していたスマホが、ブルっと震える。画面には、彼女からのメッセージ通知。
『はじめまして、逸美です。いいね、ありがとう😊』
絵文字付き。すごく丁寧で、すごく感じのいいメッセージ。それが逆に、俺の罪悪感を抉る。どうしよう。これ、どうすりゃいいんだよ。
無視は失礼だ。かといって、下心まるだしで「いいね!」したなんて言えるはずもない。
悩んだ末、俺は正直に謝罪することにした。これで気まずくなって、自然消滅するはずだ。
『はじめまして、鈴木健太です。すみません、実は同じ大学に通う壬生さゆりさんの知り合いで…お名前を見て、ご本人かと早とちりしてしまいました。本当に申し訳ありません!』
送信。よし、完璧な謝罪文だ。これで俺の過ちは清算される。
そう思っていた。しかし、数秒後に返ってきたメッセージは、俺の予想を遥かに超えていた。
『あらあら!さゆりの!そうだったのね!』
『びっくりさせちゃったかしら、ごめんなさいね😊』
え?怒ってない…?どころか、なんか楽しそうだ。
そして、決定的な一文が送られてきた。
**『こういうのは実名ださんもんや!ってさゆりに言われててん(笑)だから、ひらがなで「さゆり」って入れといたのよ。まさか娘の知り合いとマッチングするなんてねぇ!』**
…そういうことかよ!
犯人、娘のさゆりさん本人じゃねえか!
というか、「ださんもんや!」って関西弁?あのクールビューティーな壬生さゆりさんが?いや、今はそんなことどうでもいい。俺はまんまと罠にハマったわけだ。
『あはは、そうだったんですね…』
乾いた笑いをメッセージに込める。
すると、逸美さんから思わぬ言葉が飛んできた。
『でも、どうしてさゆりのことだってわかったのかしら?健太くん、さゆりのこと、いいなって思ってくれてるんでしょ?』
図星だった。なんでバレてるんだ!?俺は「知り合い」としか言っていないのに。
『どうして俺がさゆりさんのことを…?』
探るように送ると、即座に返信があった。
**『あら?だって健太くん、プロフィールにそう書いてたじゃない』**
は?
俺のプロフィール?
「趣味は映画鑑賞、特技は特にありません。よろしくお願いします」
あのクソつまらない自己紹介のどこに、そんな要素が?酔っぱらって変なことでも書いたか?
『え、俺、そんなこと書いてましたっけ…?』
俺の混乱を察したのか、逸美さんから追い打ちのメッセージが届く。
**『いや、しっかり娘のプロフィールが記載してあるよ!と(笑)』**
…娘の?
俺じゃない。逸美さんのプロフィールだ。
さっきは名前と年齢と写真しか見ていなかった。俺は恐る恐る、逸美さんのプロフィールページをもう一度開いた。そして、自己紹介文までスクロールする。
---
【自己紹介】
はじめまして、逸美です。
娘に勧められて始めてみました。
普段はアパレルの仕事をしています。
趣味はカフェ巡りと、最近は娘と一緒に美術館に行くこと。
**娘:さゆり(〇〇大学2年)**
好きなタイプ:娘を大事にしてくれる、誠実で面白い人。
大学生の方も大歓迎です。よろしくお願いします😊
---
……。
がっつり書いてある。
娘の名前から大学、学年まで、完璧に。
なんなら「好きなタイプ」まで、どう考えても娘の恋人を探すための項目になっている。
つまり、このアカウントは逸美さん個人のものではなく、「壬生家の婿探し」のためのものだったのだ。
俺は、舞い上がっていた。
「壬生さゆり」という名前らしきものと、その美しい写真に。
それ以外の情報が、全く、これっぽっちも、目に入っていなかったのだ。
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。ベッドに突っ伏して「うわああああ」と声にならない声を上げる。
スマホがブルっと震え、逸美さんからのメッセージを告げる。
『もう、健太くんったら、早とちりさんなんだから😉』
完全に逸美さんの手のひらの上で転がされている。
でも、なぜだろう。こんなに恥ずかしいのに、このやり取りが、少しだけ楽しいと思ってしまっている自分がいた。
すると、逸美さんからとんでもない提案が投げかけられた。
『これも何かの縁だし、もしよかったら今度お茶でもどうかしら?さゆりには内緒でね😉』
…さゆりには、内緒で?
婿探しのアカウントじゃなかったのか?
どういうことだ?
俺の混乱は、新たな謎によって、さらに深まっていくのだった。
(第3話へ続く)
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