マッチング相手は45歳。…って、同級生のオカンやないかい!ふ

志乃原七海

第1話下心まるだしのマッチングア



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### ボーイミーツマザー 第1話:下心まるだしのマッチングアプリ


大学二年の春。友人たちのSNSは、桜と恋人のツーショットで溢れかえっていた。俺、鈴木健太は、ワンルームの薄暗い部屋でスマホの光を浴びながら、ポテチの袋に手を突っ込む。


「ぁ~彼女欲しいな…」


声に出すと、虚しさがコンクリートのように固まって胃に沈んだ。どうせ俺なんか、と卑屈になりかけたその時、脳裏にとんでもないアイデアが閃く。


「そうだ、マッチングアプリで探そう(笑)」


半分は自虐、半分は本気。下心は十割だ。早速、有名どころのアプリをインストールし、当たり障りのないプロフィールをでっち上げる。


【名前】ケンタ

【年齢】20

【自己紹介】都内の大学に通ってます。趣味は映画鑑賞。気軽に話せると嬉しいです!


よし、完璧だ。この無個性こそが、どんな女性にも警戒されない最強の鎧なのだ。

さて、どんな子がいるかな、とスワイプを始めたが、見ず知らずの女性の顔写真が次々と流れていくだけで、どうにも心が動かない。


「こういうのじゃないんだよな…。理想は…そう、壬生さゆりさんみたいな…」


脳裏に浮かんだのは、同じ学部のマドンナ、壬生さゆりさんの姿だった。艶やかな黒髪、知的な眼差し、時折見せる屈託のない笑顔。彼女が食堂の券売機の前にいるだけで、そこだけスポットライトが当たっているように見える。高嶺の花だ。


「うーん、同級生の壬生さゆりさんはいないかな?…んなわけないか(笑)」


ありえないと知りつつも、悪戯心で検索窓に彼女の名前を打ち込んでみた。当然、ヒットゼロ。だよな。ため息をついて画面を戻そうとした、その時だった。


ん?


検索結果に、一件のプロフィールが静かに表示されていた。


【壬生さゆり】


心臓が鷲掴みにされたように跳ねた。嘘だろ。

プロフィール写真には、少し見慣れない角度だが、間違いなく彼女らしき女性が写っている。カフェのテラスだろうか、柔らかな光の中で微笑んでいる。


ステータス:恋人募集中


まじか。


あの壬生さんが?こんなところに?手の届かない存在だと思っていた彼女が、今、俺の指先一つで繋がるかもしれない場所にいる。これは神の啓示か?何かのバグか?


思考は一瞬で沸騰し、理性が蒸発した。他の情報など、もはやどうでもいい。名前と写真、それだけが世界の全てだった。

気づけば、親指が「いいね!」のボタンを力強くタップしていた。


「…ポチー」


やってしまった。後悔と期待が入り混じるカオスな感情。もしスルーされたら立ち直れない。もし、もしマッチングしたら…?


心臓をバクバクさせながら待つこと数分。スマホが軽快な通知音と共に震えた。画面には、祝福のクラッカーが舞うアニメーションが表示されている。


【🎉マッチングが成立しました!おめでとうございます!🎉】


「うぉっしゃああああ!」


思わずガッツポーズが出た。奇跡だ。俺の大学生活、今日から色が変わる。早速メッセージを送ろうと、相手のプロフィールを改めて開いた。さっきは興奮して全く見ていなかった詳細を確認するためだ。名前、写真、そして…年齢。


そこに書かれていた文字を、俺は三度見した。


【壬生逸美(みぶ いつみ) 45歳】


…いつみ?さゆり、じゃない?

よんじゅうごさい…?


脳が理解を拒否する。混乱した頭でプロフィール写真をもう一度、穴が開くほど見つめた。確かに、壬生さゆりさんによく似ている。だが、目元の雰囲気や肌の質感が、決定的に違う。もっと、こう、熟成された大人の女性のそれだ。


そして、俺の記憶の奥底で、入学式の日に見かけた光景がフラッシュバックした。娘の隣で、ひときわ目を引く美しさで微笑んでいた、彼女の母親の姿が。


は?


さゆりさんのオカンやないかい(笑)


スマホをベッドに放り投げ、天井を仰ぐ。軽快だった通知音は、今や俺の愚かさを嘲笑うゴングのように聞こえた。

俺の、下心まるだしで始めたマッチングアプリは、想像の斜め上を行く相手と共に、静かに、しかし確実に、地獄の(あるいは天国の?)幕を開けたのだった。


(第2話へ続く)

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