第3話 山の恵みと魔物肉のごちそう

《山間の村を目指して》


 港町での魚料理を終え、翌朝。

 アキトとポルは、次の目的地として山間の村を目指して歩き出した。


「森より少し険しい道だな……でも、あの村には珍しい食材があるって聞いたんだ」


 ポルは嬉しそうに跳ね、崖の縁で慎重にバランスを取る。

 小さな魔物なのに、足取りは軽く頼もしい。


 道すがら、見たこともないキノコやハーブが生えている。

 アキトはスキルを使い、一つひとつ鑑定していく。


【紅茸】

食用可。スープや煮込み向き。少し苦味あり。


【銀葉草】

食用可。香りが強く、肉料理に合わせると旨味が増す。


「うん、これは絶対に料理に使えるな」



 森の奥に差し掛かると、突然ポルが警戒の姿勢を見せた。

 低く唸る声と共に、大きな猪型魔物が現れる。


「デカい……! でも、ポルなら大丈夫か?」


 ポルは尻尾を立て、前足で地面を叩き威嚇する。

 魔物が突進してくるが、ポルは俊敏にかわし、側面から攻撃。

 ドゴッ!と鈍い音が響き、魔物は倒れ込む。


 アキトは倒れた魔物に手をかざす。

 スキルが文字を浮かばせる。


【山猪】

食用可。脂身多め。煮込み、焼き物に最適。

臭みが強いので、香草と一緒に調理すると良い。


「なるほど、香草とキノコを組み合わせれば、絶品料理になりそうだ」



 焚き火を起こし、山猪肉と紅茸、銀葉草を鍋に投入。

 ゆっくり煮込むと、肉の脂が野草の香りに溶け込み、食欲をそそる匂いが立ち上がる。


「ふぅ……これぞ放浪メシの醍醐味だな」


 ポルは鍋の周りで興奮気味に跳ね、少し焦げた香ばしい匂いにも我慢できずに舌を出す。


 一口食べると、脂の旨味と野草の香りが口いっぱいに広がる。

 野趣あふれる味なのに、どこかほっとする家庭的な味でもあった。


「……これは、町の人にも食べさせたいな」



 山を下ると、小さな山間の村に到着。

 村人は旅人を滅多に見かけないため、最初は警戒していたが、アキトが山猪肉の煮込みを振る舞うと、表情が一変する。


「う、うまい……! これは……山の恵みそのものだ!」

「こんなに魔物肉が美味いなんて……信じられん」


 村人たちは次々におかわりを求め、ポルは尻尾を振って喜ぶ。

 アキトは心の中で笑いながら思った。


「やっぱり、俺のスキルとポルの狩りが合わさると、すごい力になるんだな」



 夜、焚き火を囲んで食後の余韻を楽しむアキトとポル。

 空には満天の星が瞬き、森の香りが漂う。


「港町の魚に、森の野草に、山の魔物肉……。この世界にはまだまだ食材が溢れてる」


 ポルは満足そうに体をくねらせ、アキトの横で丸くなる。

 次の目的地は、砂漠地帯の村だ。珍しい香辛料や保存食が手に入るらしい。


「よし、明日も放浪メシ旅だな、ポル。最高の一皿を求めて、世界を巡ろう」


 ポルは「キュイッ」と鳴き、夜空に向かって小さくジャンプした。

 こうして、異世界放浪ごはん旅は、また一歩、次の土地へと進んでいくのだった。

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