第2話 港町の魚と魔物の冒険

《港町への道》


 森を抜けると、遠くに海が見えた。

 青く広がる水面に、いくつもの帆船が浮かんでいる。

 久々にまともな町らしい町を見た俺は、思わず深呼吸をした。


「やっぱり海って落ち着くな……」


 ポルも俺の横で小さく跳ね、尻尾を振って喜んでいる。

 どうやら港町に着くのを楽しみにしているらしい。


 町に入ると、魚市場の香ばしい匂いや塩の香りが鼻をくすぐる。

 露店ではイカやタコ、真っ赤なカニ、銀色に光る魚がずらり。


「なるほど、ここは食材の宝庫だな」


 俺はスキルを意識して、まずは市場の魚を【食材鑑定】してみた。


【銀鱗タイ】

食用可。身は柔らかく甘味あり。焼き物、蒸し物向き。


【墨イカ】

食用可。煮物や炒め物で旨味増。生食は少量で可。


「……うん、悪くない。今日の晩飯はこれで決まりだな」


 ポルは魚市場に興味津々で、俺の後ろをついて回る。

 通りすがりの人々が不思議そうに俺たちを見ている。魔物と一緒に市場を歩く人間は、そう多くないだろう。



 港町周辺には小型の魚魔物やカニ魔物が多いらしい。

 ポルは早速、波打ち際の小さな岩場へ駆け出した。


「ポル、落ち着けよ! 海に飛び込むなって!」


 しかしポルは聞く耳を持たず、ぴょんぴょん跳ねながら魚魔物を追いかける。

 数分後、ぴょんとジャンプしたポルが小さな魚魔物を叩き落とす。


「おお、ナイスキャッチ!」


 俺は駆け寄り、倒れた魚魔物を確認。【食材鑑定】を使う。


【青銀魚】

食用可。生食は鮮度次第。焼き物、揚げ物向き。


「よし、今日は刺身も作れるな」


 ポルは尻尾を振って喜び、まるで「俺の獲物だ!」と誇らしげだ。

 こうして狩り担当と調理担当の連携は、日々少しずつ完成度を増していく。



 市場の裏手に小さな空き家を見つけ、そこで調理を開始。

 火を起こし、海水で軽く魚を洗う。

 刺身用には鮮度を保つため軽く氷水に浸け、煮物用には墨イカと野草を加えて鍋へ。


「香り……やばい、飯テロレベルだな」


 スープを味見すると、イカの旨味と野草の香りが絶妙にマッチしている。

 刺身は口に入れると甘みと塩味が絡み合い、想像以上に美味い。


 ポルも箸代わりの小枝で魚をつつき、夢中で食べる。

 その様子を見て、思わず笑ってしまった。


「お前、本当に料理の才能に嫉妬しなくていいのか?」


 魔物が喜ぶ姿は、戦闘よりも料理で得られる達成感が大きい。

 俺にとって、異世界放浪の醍醐味はここにあるのだ。



 夕方になり、香ばしい匂いが町中に漂う。

 通りがかった漁師や商人たちが、思わず俺の家(空き家)の前に立ち止まった。


「おや、なんだその香りは」

「魚料理か……魔物肉じゃないのか?」


 俺は恥ずかしそうに笑いながら、少しずつ料理を振る舞う。

 刺身を口にした町人たちは驚きの表情を見せ、次々に声を上げる。


「う、うまい……! こんな魚、初めて食べた!」

「いや、これ魔物と一緒に作ったのか? 信じられん……」


 ポルはその様子を見て、誇らしげに胸を張る。

 俺も笑みを浮かべ、心の中で思う。


「やっぱり、料理って最強のコミュニケーション手段だな」


 異世界での生き方を模索する中で、少しずつだが確かな手応えを感じる瞬間だった。



 夜、港の波音を聞きながら、アキトはポルと並んで焚き火のそばに座る。

 空には、見たことのない星々が瞬き、潮風が心地よく頬をなでる。


「明日はどこに行くかな……?」


 ポルは小さく鳴き、尻尾を振った。

 海沿いの町で魚を手に入れた。次は森や山で獲物を狩り、さらなる料理に挑戦できる。


「よし、ポル。明日も放浪メシだ。いろんな土地で、いろんな食材で、最高の一皿を作ろう」


 ポルは「キュイッ」と鳴き、星空を見上げる俺の肩に寄り添った。

 こうして、異世界での放浪ごはん旅は、港町の魚料理から次なる冒険へとつながっていく。

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