第22話 みたことある存在

「いつまで経っても慣れないわ」


 駅に着き、新幹線の切符を取り終えた。

 あとは新幹線乗り場に行って、くるのを待つだけ。

 なのだが、先ほどから末っ子龍牙の様子がおかしい。

 あまり人に興味を持たない末っ子が行き交う人を見ている。


「龍牙。だめだからね」

「……わかってるよ」


 龍牙の興味がいっているものが何かわかる。行き交う人々についている霊だ。その中には生霊らしきものもいる。

 俺たちが目を合わせると、こっちに来るから合わせないようにしているが、龍牙はがっつり合わせようとしていた。が、その視界を手でふさぎ、俺とけいの間に入れる。

 

「どうする?」

「威圧して避けなきゃ力でどうにかすりゃいい」


 龍牙が目を合わせた霊が近づいてくる。慶が眉間にしわをよせ、追い払い続けている。

 何体かは逃げていったが、悪霊らしきものはまだ近づいてきていた。

 慶の睨みで逃げないならと、俺は静かに息を吐き出して、慶は指を鳴らしている。

 俺はバレることはないが、慶はさも背骨を伸ばしているかのように指を絡めて前に突き出している。

 いざ、退散させようかとなったところに俺たちの影がのび、下から黒い手が2本出てきて、2体を地面に引きずりこんだ。


「あ?」


 腕だけだったし、突然のことで反応が出来なかったが、俺は見たことある。不審者が現れた時、何かを食った後に出てきたやつだ。

 なぜここにいるんだ。


「なんだ今の」


 首を傾げながら地面を見る慶。さっきのやつと会ったことがあると慶に言おうか迷っている。


「みんな何か軽くたべる?」


 俺と父親と母親は軽いものでサンドイッチ。慶はおにぎり3個。兄さんはお菓子4種類。龍牙はと問い掛ければいらないと返ってくる。


「お腹空いてるんじゃなかったのか?」

大丈夫。時間が解決した」

「そうか」


 たまにそういう時もあるかと納得し、新幹線が来るホームで待つことになる。


「しっかし、さっきのなんだったんだ」

「慶、あのさ。俺さっきの見たことあるんだよ」

 

 兄が眠たそうだったから抱えながら座り、慶は自分の足元に出来ている影を蹴っている。

 

「あの黒い手をか?」

「そう。何かにつけられてたって言ったろ? そしてかなぐりに相談しようかってなったときに出てきたんだよ」

「んじゃ、俺と別れた後すぐ襲われたのか。よく無事だったな」


 本当、助けられた。

 しかし、いったい誰が? あの時とかだけだったらクラスメイトの誰かなんだろうが、今回もとなるとわからない。

 父親と母親は違うし、俺と慶も当然違う。兄さんも違う。となると残っているのは龍牙だけ。

 だが、龍牙は『霊を食べる』ことが対処法だから、さっきのとは……。


「なぁ、龍牙。正直に答えてほしいんだが、一度俺の前でさっきのやつ出したことあるか?」

「ない」

「そうか。変なこと聞いてすまなかったな」

「別に。気にしてない」


 たぶんだが、隠したな。

 感覚的なものではあるが、いつもは少し考えてから俺たちの質問に答えてくる。が、今回は食い気味に返答した。

 龍牙でもわかっていないところだ。これは常に俺が龍牙を見ているからだろう。


「来たわよ」

「あ、ちょ、慶。荷物持ってくれ」

「はいよ」


 兄さんがずっと引っ付いて寝てるから当然俺が抱えて新幹線の中に。

 180cm越えの人を抱えるのは大変すぎる。

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