第16話 相談

 登下校中や授業中、いつも気配は感じるが、どこにいるのかわからない。見えていたらまだしも、見えないのは困る。

 襲われたら反応が遅れてしまう。

 慶とおんなじクラスだったらよかったなと、今更思っても遅くて、あと3か月かで1学年が終わる。

 2年次のころにはこの問題はすでに解決しているだろうし。


 授業中は集中しないといけないけど、気が気じゃなくて集中できない。

 視線を感じて校庭をちらりとみれば、また学校の外にいる。学校内にいないだけましだが、安心はできない。

 どうやったらいなくなるのだろうか。対処法は知っていても、祓えるわけではない。

 あまりにも毎日こんな感じならば、 かなぐりに電話して、祓ってもらった方がいいかもしれない。

 

「迫田、大丈夫か?」

「すみません、大丈夫です」


 いかんな。心配されるほど、授業に集中できてない。

 集中しよう。


 昼休みになり、慶が俺のクラスに来てまた正面に座っている。


「なぁ、慶。かなぐりに相談しようかって思っているんだが」

「いいんじゃね? つか今日も出たのか」

「ああ。それで授業に全然集中出来なくてさ」

「そりゃ深刻だな。だったら早めがいい」

「帰ったら電話してみるわ」


 早く終わってくれ。不安なまま冬休みに入りたくない。

 昔から狙われることは多かったけど、これほど心配ごとになるのは初めてだ。

 これは下手に俺がどうにかするより、かなぐりにしてもらったほうがいい。確実に。


「大晦日ってじいさん家に行くよな」

「おう。毎年のことだな」

「それまでに我慢できそうにないかもしれない。今まで以上に不安が大きい」

「それほどか」


 すぐ来られる距離なら電話してすぐ来てもらうんだが、かなぐりが住んでいるところからこの街までは遠い。

 だからそれまでの間に対策を考えておかないといけない。


「あの人に聞いてみるのもいいかもしれねぇな」

「そんな暇ないよ。それにここからその場所は遠いし」

「確かにな」


 使者の主人と呼ばれる人がいる場所は京都にある。そしてじいさん家も京都。俺たちが住んでいる場所が東京。明らかに遠い。

 冬休みがあと少しで始まるとはいえ、子供だけでそうすぐ行ける距離ではない。


「なんとか耐えるしかない」

「無理だけはすんなよ、相棒」


 昼ご飯を食べ終わり、慶が俺から離れた瞬間に視線を感じた。昼休みまでは遠くに感じていた視線が、急に背後にまで近づいてきた。

 これは後ろを振り返っちゃだめだ。今までは遠くだったからまだ良かった。だが、これは俺の真後ろにいる。

 気配がなくなるまで、抵抗しないと。

 体の中に入られてしまう。

 すまん、クラスのみんな。寒くなるけど、風邪引かないでくれ。


「ふぅー」


 見えてないフリはもう出来ないだろう。

 最初見た時、俺は相手の顔を見ていないと思っていたが、相手はしっかりと見ている。

 だから、俺が標的になった。

 少しずつ息を吐き出して、後ろにいる何かを凍らせる。見えなくても気配でどうにかわかりはするが、ちゃんとは確認出来ない。


「な、なんか寒くね?」

「さ、さむーい」


 すまんみんな。もうしばらくこの状態が続く。

 クラスメイトがくしゃみをした。クラスメイトのためにも早くいなくなってくれ。

 そう願いながら息を吐き続けていると、もう一つ気配が現れた。

 敵意はないが、俺を狙っている何かと同じくらいの気配。敵か味方かはわからない。


 

 グチャリ


 

 背中に鳥肌が立つほど嫌な音。

 これが誰にも聞こえていないのが不思議なほど大きい音がしている。


 グチュグチュグチャリ


 早く終わってくれ。

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