第1章 白髪の少女

第1話 白髪の少女①



「いやぁー、面白かったね! やっぱりヒーロー物は映画館で観るに限るよ~」


 週末の日曜日。


 ショッピングモール内に併設された映画館から出てくると、ひかりちゃんは満足気な笑みを浮かべながら、先ほど観た映画の感想を開口一番に発する。


「ねえねえ、あげはの感想はどんな感じ? 面白かった?」


 そして、隣の席で一緒に観ていた僕にも感想を伺うような質問を投げかけてきたのだが……


「うっ……ううっ……!」


 肝心の僕はというと、先ほどから涙を堪えることに全集中力を費やしていて、それどころではなかった。


「もう、あげはってば……いつまで泣いてんの?」


「だっ、だって……っ!」


 腰に手を当てながらため息をついたひかりちゃんは、どこか呆れたような表情を浮かべながらも、その柔らかい笑みを崩さない。


「まぁ、大体予想はついてるけどさ。あげは、最後の終わり方が悲しかったんでしょ?」


 そして、彼女はどこか得意げに、僕の心の中の葛藤をピシャリと言い当てる。


「……ひかりちゃんは、平気だったの?」


「平気っていうか……まぁ、そういう終わり方もアリって感じ?」


 僕の質問に対して、彼女は特に考えるようなことはせずにさらっと答える。


「世界を救った代償に関わった人たちみんなが彼のことを忘れちゃうってオチは、ヒーロー物だとよくあるラストだからね」


「で、でもっ! 大事だった友達とか恋人とも他人になるんだよ? あんなに頑張って世界を救ったのに……」


「うーん、そうだけどさ。それがあの主人公が選んだ道なんだから、きっとそれが正しかったんだよ」


 そう感想を述べたひかりちゃんは、やはり僕とは違って最後の終わり方に納得のいっている様子だった。


「それに、また次回作も制作決定してるみたいだし、また一緒に観に行かなきゃ!」


「えっ? う、うん……。僕はいいけど……」


「あれ? その反応、もしかして嫌だった?」


「ち、違うよ! ただ……ひかりちゃんは、僕なんかと違って友達も多いし……別の人に誘われることがあるんじゃないかって思って……」


「はははっ! なにそれ! あー、もしかしてあげはってば、私が他の子に取られちゃうと思って心配してるんだなぁ~」


「い、いや! そ、そういうんじゃなくてっ!」


「大丈夫、確かに友達とかとたまに映画も行くけど、観るのは殆ど恋愛映画で趣味が合わないんだよねー。ちなみに、彼氏もいないから安心しなさい」


「そ、そっか……」


「うん、だから、私と映画館デートができるのは幼なじみのさかいあげはくんだけの特権なのです!」


 ふふんっ、とどこか得意げな顔を浮かべるひかりちゃん。


 彼女の名前は、倉木くらきひかり。


 彼女と僕、さかいあげはと幼なじみで、もう高校生になって一年以上経つというのに、今も昔と同じように接してくれる。


 そのことは嬉しいのだけれど、僕もそろそろ世間的な目を気にしなくてはならないような気もしていたりする。


 というのも、この4月からのクラス替えで一緒になった同級生から「お前って、倉木さんとどんな関係なの?」と聞かれたことは一度や二度ではない。


 1年生の頃から散々聞かれたことだけど、2年生になってもひかりちゃんとは同じクラスになった。


 彼女は周りの男子の視線などお構いなしに僕に毎日話しかけてくれるし、お互い他の予定がないときなどは一緒に登下校をしたりもする。


 だけど、僕みたいな平々凡々な一般生徒とは違い、ひかりちゃんは昔からみんなの中心にいるような女の子で、それこそ僕にとってはカッコイイヒーローみたいな女の子なのだ。


「ねえ、あげは。私、今日はパスタが食べたい気分なんだけど、どうかな?」


「うん、いいよ。僕もお腹空いてたし」


 ということで、そのままショッピングモール内のお店で遅めの昼食を二人で食べることにした。


 まぁ、僕がひかりちゃんと仲良くしていることで誰かに迷惑をかけることもないだろうし、今だって恋人同士というよりは、姉弟のように見られているかもしれない。


 実際、今日のひかりちゃんはブーツを履いているので僕よりも少し背が大きく、長く艶のある黒髪を揺らしながら歩く姿は、やはりどこかお姉さんっぽいところがある。


 きっと、僕たちの関係はこんな感じで続いていくのだと、この時の僕は漠然とそう思っていたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る