第55話 獅子神リコはフェチを満たすのである。

 ホワイトデーのお返しフェチ満たし、最後のひとり、リコ。

 フェチ満たし要望内容――ベッドで一緒に寝て布団被って臭いを嗅ぐ。


 ギリッギリだ……。

 あくまで匂いを嗅いでるだけだからセーフ理論で通せるギリッギリのラインだ……。

「ほらほら、桃香♡ 来て♡」

 部屋に入るなり、すぐにベッドに飛び込んで掛け布団を持ち上げ、私をおいでおいでするリコ。

 これ……行って本当に大丈夫かな……?

 ベッドに入った瞬間リコがオオカミ……いや、ライオンにならんかな……?

 しかし……警戒し過ぎてここで時間を食いすぎるのも……それはそれでリコに不公平になってしまう……。

 私は警戒しつつもベッドへ。

 近付いて来た私をリコがガバッ! と捕まえに来るかと思ったが……優しくベッドへ引き込まれた。

 リコは私たちの上に掛け布団を被せ、私を背後から抱きしめる形で腕を回す。

 そしてそのまま、私のうなじの辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

「んー……♡ んふー……♡」

 深い呼吸音。

 うなじ周辺にかかるリコの吐息。

 リコと一緒のベッドでこう……イチャイチャとかするの……結構回数多いな……。

 最初は……リコが桃黄子と仲直りした帰り、我が家に泊まった日か。

 あの時はまさかリコやみんなとこんな関係になるとは思わなかったかな……いや、リコのそういう感情の匂わせっぽいのはあったけど……。

「なんか懐かしいなぁ……前に桃香んち泊まった時、ベッドで匂い嗅がせて貰ったの思い出す」

 うおおリコも同じ思い出に浸っておられたッ!

 自分の思考読まれたみたいてちょいびっくり……。

 と思ってたら。

「そーいえばさ、あの時見つけた、『女の子同士 デート』のメモって、結局なんだったの?」

 ……。

 もっとびっくりすること言われたッ!!

 今それ掘り返す!?

 五分しかないホワイトデーのお返しタイム中に掘り返す!?

 あんなん私自身は記憶の彼方に放り込んでたよ!?

「あー……アレ……ですよね……」

 どうする……? 私は百合作品を嗜む趣味があるとは暴露したけど、自分で百合小説書いてるとはまだ誰にも言ってない!

 しかも二次創作物だから原作前提の知識と原作に無い妄想詰め込んだ……一般人は触れ行けない産物なんだよ!

 いや、言ってもいいのか? 百合作品趣味は受け入れて貰えたわけだし……とはいえ……どうなんだろう二次創作小説書いてるのはちょっとオタク度一気に増さないか!? 気持ち悪くないか!?

 それも私の偏見か!? 案外むしろすごいって言われるか!? いや……それはそれで楽観視し過ぎな気もする!

「……やっぱ、あの時点で誰かと付き合ってた?」

「え!?」

「もしかしてなんだけど、実はウチらの知らない彼女さんとかいる?」

 なんかリコが変な勘違いし始めた!?

 ホワイトデーに変な修羅場作んないで貰えます!? 私無実なんですけど!?

「ん゛――……」

 数秒唸った後、私は観念したように口を開く。

「……書いてます」

「え? 何?」

「小説……書いてます」

「……小説?」

 一応、『二次創作』の部分は省いた。

 二次創作の概念から話す必要があるかもしれないし。

「その……ネットで……ネット小説とかウェブ小説とか言うものを……」

「……ほほう」

「だから、その……小説で女の子同士のデートシーンを書きたくて、そのネタのために……デート先調べた時のメモです」

「……」

 ……それ何の沈黙!? 納得!? 疑い!? どっち!?

「えーと……え、小説でお金とか稼いでる?」

 いやとんでもねぇ勘違いの沈黙だった!

 んなわけないだろ!

「そこまではまだ大成してないです! 全ッ然!」

 私は慌てて否定したが……そうか……一般人からしたらネットで小説書いてるって言うとそういう反応になるのか……それは知らんかった……。

「読者も、結局そーゆー女の子同士のイチャイチャが好きなコアな層がメインなんで……そこまで色んな人には読まれてないというか……元々そういうコアな層向けに書いてるんで、私自身そこまで読まれることを求めてないというか……むしろあんまり読者増えるとそれはそれで恥ずかしいというか……」

 あああああダメだ、オタクの早口の言い訳が出てしまっている。

 半分嘘だよ私だっていっぱい読者欲しいよ応援コメントも閲覧数も山ほど欲しいよ全ネット小説家はそうだろッ!!

 でもここで言い訳しとかないと「読みたい」とか言われそうじゃんッ!

 恋人に自分の二次創作百合小説読まれてたまるかなんの拷問じゃ!

 というか自分のうさフェチメンバーとの実体験をちょいちょい参考にしてるから話によっちゃ「コレあの時のじゃん」ってバレるんだよッ!!

「へー……小説かぁ……それであのメモかぁ……」

 リコは、私の後ろでブツブツ言いながら、再び私のうなじの匂いを嗅ぐ。

「うん……なるほど……」

 スンスンと小刻みに、何かを確かめるように嗅ぐ。

「……文学少女の匂いがしてきた気がする」

「どういう匂いですか!?」

 ってかこの暴露に対するコメントが「匂い」かよ!

 読みたい読みたくないの感情通り越してやっぱり匂いなのかよリコは!

「そんで……ちょっと恥ずかしさを感じる匂い……小説書いてること、あんまり知られたくなかった感じかな」

 そうだけども!

 匂いで色々鑑定できるの本当にどういうスキルなん!?

「なんかゴメンね、無理やり聞いちゃった感じになっちゃって」

「い、いえ……私も、内緒にしててすみませんと言いますか……」

「いいよいいよ、みんな知られたくない事なんていっぱいあるでしょ」

 ぎゅ、と、私を優しく抱きしめるリコ。

「みんなには秘密にしとこっか」

「……またリコとだけの秘密ができちゃいましたね……」

「えへへ♡ いいじゃん、ウチそーゆーのドキドキするし♡」

 私を抱きしめる腕の力が、少しだけ強まる。

 密着したリコの体から、本当にドキドキしているリコの鼓動が伝わって来た。

「……ウチもひとつ、桃香にだけ秘密公開しとこっか」

「え……な、なんですか?」

 私が聞き返すと、リコは私の後頭部の髪に顔を埋めるようにし、匂いを嗅ぎながら語り始めた。

「桃香がみんなと恋人なのはいいし、ウチもみんなと一緒に桃香を愛せてる今の状態は好き」

 深く私の匂いを嗅ぎ、ゆっくりと息を吐く。

 甘い、アプリコットの匂いの吐息。

「でもね……たま~に……ちょっとだけ……桃香をひとりじめしたいな、って思っちゃう時あるの」

 ドクン。

 私の心臓が跳ねた。

 抱きしめるリコの腕を通して、それがリコにも伝わってしまったのかどうかは――定かではない。

「だからね、このホワイトデーのお返し、すっごく嬉しい」

 抱きしめていた腕を解き、リコは私の体を反転させた。

 暗くてよく見えない布団の中でも、リコの顔がすぐ目の前にあるのがわかる。

「……ありがと、桃香」

 そう言ってリコは、私に優しい――ちょっと深めのキスをした。

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