第47話 兎佐田桃香は贈られるのである。
「メリークリスマース!」
パンパン! とクラッカーを鳴らす。
イルミネーションイベントを楽しんだ後、私たちはロイヤルスイートルームへ行き、予約していたクリスマスディナーでクリスマスパーティを開いた。
様々な料理が並ぶテーブルのど真ん中に、ガチもんの七面鳥の丸焼きが置いてある……ローストチキンでもなけりゃフライドチキンでもない、七面鳥の丸焼き……。
私は切り分けられて皿に盛られた七面鳥の肉を、ナイフとフォークで小さく切り、ひと口。
……。
あれ……なんだろう? 思ったよりパサパサしてるというか……。
「あ、ちなみに七面鳥は意外と淡泊な味わいなので、お味が足りなければ横のグレイビーソースを使うのがオススメです」
「ソースつけて食べる料理だったんですかコレ!?」
薫衣から教わった七面鳥豆知識に、私は七面鳥ならぬ鳩が豆鉄砲を食らったような反応をしてしまった。
料理と一緒に出されていたのは、濃い目のブドウジュース。
ワイングラスのようなグラスに注がれており、ノンアルコールだが気分だけ赤ワイン。
うん、こんなもん出されたらさ。
「桃香さんよォ――……♡」
蜜羽がすぐ場酔いしちゃうんだよなぁ……。
ソファに座る私の隣に近寄り、私をぎゅっと抱きしめる。
「こんな指輪贈ってくれちゃったってことはよォ――……もう合意って事でいいよなァ――?♡」
「ピンキーリングですからね!? あと何ですか合意って!?」
「そりゃクリスマスの夜なんだからよォ~♡ 言わせんなよなァ~♡」
蜜羽の手が、私の手の甲の上に重なる……!
あたかも体が覆いかぶさるメタファーかのようにッ!
「こらこらー、豹堂さーん」
助け舟をくれたのはばにら!
「やるならあーしが先だぞー♡」
違った! 助け舟じゃない! 海賊船だ! 強奪しに来た!
「はいはい発情しないの」
「無理やりはダメだぞぅ」
リコと桃黄子が二人を引っ張って無事回収。
ふぅ、と安堵の溜息をついた所で、薫衣がそっと忍び寄り……。
「でもよろしいのですか? 今なら五人の女の子を好き放題できてしまいますよ♡」
「とんでもないことおっしゃらないでいただけますか!?」
小悪魔感のある薫衣しばらくぶりに来たな!?
薫衣も場酔いしてないよな!?
何これ全体的に空気がピンク色になってない!?
世界のガイドラインにちゃんと遵守しようねみんな!?
「あ、あの! ほら! 皆さんは私にプレゼントとか無いですか!?」
ピンク色な空気を断ち切るべく、クリスマスプレゼントの話にシフト!
……こういうの、自分から言うのもなんか欲しがってるみたいで嫌だけど……この流れを続けるよりはマシか……。
「あー、そうだったそうだった。部屋から持って来てたの忘れてた」
「あーしもー」
リコとばにらが部屋に持ち込んでいたポーチやバッグを漁り始める。
それに合わせ、蜜羽と薫衣と桃黄子も動き出した。
「じゃーん、あーしはこれー」
ばにらがくれたのは、可愛くラッピングされた箱。
開けてみると……。
「……耳用のケアローション……?」
「あ、フェチのネタじゃなくてー、冬になると乾燥するから保湿対策用にー」
「ハンドクリームとかが先に思いつきません!?」
「やー、誰かと被ったりー、ももちのお気に入りと違ったら微妙だと思ってー」
配慮はされているが……配慮した先が耳なのがばにららしいというかなんというか……。
「ありがとうございます……耳、保湿しますね」
「うんー、つやつやぷにぷにのえっちな耳を維持しといてねー」
「やっぱフェチ目的入ってませんコレ!?」
ばにらに続いて、まだ場酔いの抜けていない蜜羽。
「あたしはニット帽ォ――ッ! 熊さんの耳っぽいのがついた可愛い奴!」
普通に可愛いの来た!
色も熊さんの人形を思わせる明るめブラウンだ。
「被ってくれねーかなァ――? 今ここでよォ――ッ!」
「え、あ、か、構いませんが……」
包装を取り、値札……は、今手元にハサミとか無いから後で取ろう。
そのままきゅっと頭に被る。
「おー……サイズもぴったし……」
被った直後でもなんとなく暖かい。
いいなこれ……普通にいいニット帽だ。
「はわわわわわわわわ♡」
普通にいいニット帽なのに普通にフェチってる蜜羽。
「幼女じゃん……熊耳ニット帽がこんな似合うのはもうただの幼女じゃん……!」
「蜜羽。戻って来てください。私高校生です」
「わたくしは入浴剤です」
薫衣がくれたのは、可愛らしいハート型の固形入浴剤二個セット。
ピンクと紫の入浴剤だ。
パッケージの説明によると、それぞれ桃とラベンダーの香り。
きっちり密閉されているため、流石にパッケージの上からでは香りはわからない。
「まあ入浴剤だと開けるわけにもいかないですし、このロイヤルスイートルームのでっかい風呂場で使うってのはサイズ的に合わないんで、家に帰ってから使わせていただきますね」
「でしたら、桃香さん」
薫衣は私の耳元で、そっと囁く。
「この後、わたくしの個室にお越しになって、お風呂を楽しんでいただいてもいいのですよ♡」
「まださっきのノリ抜けてませんね!?」
「アタシからは香り付き&色付きリップ」
桃黄子から差し出されたのは、艶のあるワインレッドの綺麗な容器に入った、スティックタイプのリップクリーム。
「おー……」
「ちょっと付けてみてよー。あ、手鏡貸したげる」
桃黄子からリップと鏡を受け取り、早速リップを出してみる。
容器の色とは違い、中身は薄桃色。
香りはほんのり甘い、桃の香りだ。
鏡を見ながら唇に塗ってみると、僅かに唇がピンクを帯びる。
「わー……だ、大丈夫です? ケバくないです?」
「大丈夫大丈夫ー♡ 桃香めっちゃ可愛いよー♡ その唇で息吹かれたら私軽く昇天しちゃうよー?」
おっとー? フェチ満たし要素だったかー?
普通のアイテムすぎて予想できなかったな……。
そしてリコ。
「はい、桃香」
床に片膝をつき、ス、と出された……小さく、綺麗な箱。
リコ自身の手でパカ、と開かれたそこには……キラリと光る、指輪があった。
「ウチの気持ち、受け取って欲しいな」
「いや、あの、これピンキーリングですよね!? 滅茶苦茶エンゲージリングっぽい渡し方なんですけど!?」
「え~? ウチは別にそっちの意味で受け取って貰ってもいいけど~?♡」
「え、あ……それは……もうちょっとだけ準備期間が欲しいと言いますかっ……」
「あはは、冗談冗談♡ ウチからも指輪贈りたくて用意しただけ♡」
そう言って、リコは箱から指輪を取り出し、私の左手を取る。
「つけていい?」
「……お願いします」
私の左手の小指に、もう一つ指輪が……ん?
「薬指につけようとしてません!?」
「ちょっと大きさが無理か……」
「大きさ合うならつけるつもりでした!?」
一通り恋人たちからのプレゼントと想いを受け止め、ふう、と一息。
……。
まだ最初のピンク色な空気が立ち切れてない気がする……。
むしろ何人かピンク色を増強させてる気もする……。
……。
これ、私が受け入れちゃったらどうなるんだろう……。
いやいや! いやいやいやいやいや!
何を考えとるんじゃ兎佐田桃香!
何がピンクだお前の脳内が一番ピンクじゃ!
無責任にガチでアウトなこと妄想しようとするんじゃない!
せめて!
18歳過ぎてからッ!
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