第42話 兎佐田桃香は地伊田桃黄子とデートである。

 璧津宵女子高校と璧湯上女子高校の文化祭後、それぞれの学校ごとに後夜祭があった。

 そちらに時間を使っていたため、体育祭の時と違い、イベント後すぐに打ち上げということにはならなかった。

 ……璧津宵の文化祭の時は、後夜祭にまともに参加せず、ずっとキスしてただけだが……それは置いといて。

 そういった経緯から、打ち上げは日を改めて後日ということになった。

 また、せっかくならば時期が近いハロウィンも兼ねたパーティにしようという話になり、今日はそのパーティの計画の集まりで、いつものホテルのスイートルームへと全員で集まっていた。


「とりあえずお菓子だよねー、ハロウィンだしー」

 食事メニューの提案をメモする紙の一番上に、真っ先に「おかし!」と書く虎沢さん。

 まあハロウィンだし別に構わないが……食事メニューの一番上でお菓子でいいのか……?

「また太んぞォ――?」

「あー、へーきへーきー。もうお腹見せる可能性ある時期過ぎたしー、これから冬服の時期で体型誤魔化せるしー」

「そういう問題じゃあねーんだけどなァ――……」

 豹堂さんの警告が暖簾に腕押し状態の横で、リコが「ふむ」と考える。

「体育祭の打ち上げに続いて、また唐狩さんとこに用意して貰うのもちょっとアレだしさ、簡単なお菓子ならウチらで手作りしてみない?」

 ほほう……手作り。

 私視点彼女たちの手作りお菓子か……滅茶苦茶食いたいな……。

 このスイートルームにはキッチンスペースがあり、オーブンもあったからクッキーを焼くなどのお菓子作りは問題なくできる。

 レシピも今の時代ならネットで調べればすぐに簡単レシピが出て来る。

 私を含めそこまでお菓子作りに経験のあるメンバーではないが、バーベキューの時も特別手際の悪い人はいなかったし、変なアレンジとかレシピ改変とかしなければ大丈夫だろう。

 その後、お菓子をメインにするとして、サンドイッチ等の軽くて簡単に作れる軽食を考案。

 さらに忘れてはならないコスプレ衣装も、何を用意するかまとめる。

「お菓子と軽食の材料はこんなもんかな……一人当たりの予算組んで……みんなで買い物と」

「あ、じゃあはーい! アタシ買い物で意見あります!」

 ここで、地伊田さんが元気に手を挙げる。


「アタシ、兎佐田さんと買い物がてら二人っきりでハロウィンデートしたい!」


 ほほう……ハロウィンデート。

 ……。

 ハロウィンデート!? 地伊田さんと!?

「な、何か珍しい奴が堂々抜け駆け宣言したなァ――……」

 リコがこういうこと言い出したら真っ先に突っかかりそうな豹堂さんですら、この戸惑いである。

「いや! だってさ! やっぱアタシだけ兎佐田さんとの恋愛イベント少ないんだよ! アタシ視点みんなの方が全体的に抜け駆けなんだよ!」

 逆に突っかかる勢いで反論を始めたのは地伊田さんの方だった。

「アタシだけひとり学校違うし! 夏休みもそれっぽいイベントしてないし!」

「え……夏休みは宿題手伝いに行ったじゃないですか……」

「マジで宿題やって終わっただけじゃん! そこからドキドキしたシチュにもキャッキャウフフな展開にもならなかったじゃん!」

「それは……そうですね……」

 ちょっと可哀そうになってきた……。

 全員彼女なんだから全員平等に愛したいとは思っていたのだが……地伊田さんだけ確かに色々不都合が多いんだよな……。


 そんなわけで。

 日曜日にパーティを控え、その前日の土曜日の午前中。

 地伊田さんの普段の兎佐田桃香不足を補うという目的も含め、翌日の放課後、ハロウィンのお菓子の材料を私と地伊田さんで買いに行く事となった。

 ちなみにコスプレの類は豹堂さんが集めてくれる。

 普段から私に着せたい衣装を集めていたため、衣装関係の調達に詳しいらしい。

 ……私、何着せられるんだろう……。

 いや、今は豹堂さんの話は置いておこう。

 今日は地伊田さんとのデートなんだから。

 ちなみに今日の私のファッションはオレンジのシャツにオリーブグリーンのスカート!

 緑がかった黒いパーカーを着てカボチャ系ハロウィン仮装風ファッションだ!

 ……少しネタに走り気味だろうか……いや、がっつりコスプレよりマシなはず……。

「兎っ佐田さーん!」

 ファッションに悩みつつ待ち合わせの駅で待っていると、地伊田さんが元気な声と共に走って来た。

 地伊田さんのファッションは白いシャツにオレンジと黒のチェック柄のジャケットを羽織り、ショートデニムにニーハイソックスの組み合わせ。

 絶対領域が眩しい……。

「ごめんねー、待った?」

「いえいえ。じゃあ、とっとと買い物済ませて、余った時間でゆっくり遊びますか?」

「いや、買い物先にしちゃうと重い荷物持って遊ぶの大変だし、卵みたいなあんま長く持ち歩きたくない材料もあるっしょ?」

「あー……確かに……」

「先遊んじゃおうぜい。とりあえず駅前のデパート繰り出して雑貨屋で何に使うのかわかんない変なグッズ探そう」

「滅茶苦茶具体的なデートプランですけどやるのが変なグッズ探しでいいんですか!?」


 と、思わずツッコミを入れたものの。

 丁度この時期ということもあり、訪れた雑貨屋さんもハロウィン仕様。

 普段は用途不明のグッズの数々も、ハロウィン用インテリアとして見ればまあまあ実用性を感じなくもない……。

「おー、色々あるねー」

 雑貨屋さんに到着後、早速地伊田さんがゴソゴソと商品を漁る。

「暗闇で光るちっちゃい頭蓋骨、ゾンビのマスク、頭にナイフが刺さってるように見える玩具のナイフ付きヘアバンド、カボチャの煮物の食品サンプル」

「最後はギリギリハロウィン関係なくないですか!?」

「逆にハロウィン関係ない要素強めなら普段使いできるんじゃない?」

「カボチャの煮物のサンプルの普段使いとは!?」

 流石にカボチャは買わなかったが、せっかくだからとハロウィンっぽい柄のテーブルクロスを購入。

 テーブルクロスなら軽いので、鞄にいれておいても苦にならない。

 続いて隣のお店。

 こちらはお手軽価格のアクセサリーショップ。

 ハロウィン時期ということもあって多少ハロウィン感のあるものが前に出ているが、普通に可愛いのもたくさん並んでいる。

「どうするー? おそろのアクセ買っちゃうー?」

「また豹堂さんに抜け駆けって言われますよー?」

「普段学校違う分のリカバリーだもーん。あと文化祭で唐狩さんからおそろのヘアピン貰ってたじゃん」

「ふむ……逆に全員分おそろのアクセ揃えた方がいいかな……?」

「えー、やだー。アタシとだけ揃えてよー。唐狩さんのヘアピンは先に出されちゃったからしょーがないとしてさぁ」

「ええ……でも……」

「平等論言い出すとまたアタシだけ愛が薄まるんだよぅ」

「う……まあ……そもそもそういう話のデートでしたもんね……」

 そんな流れで、こちらではお揃いのハート型のバッグチャームを購入。

 私とお揃いのアイテムを手に入れてニッコニコの地伊田さん……うーん、可愛い。


 その後も色んなお店を見て回り、特に何も買わずに出て行ったり、気になったものを買ったりした。

 お昼が近付いて来た所で、フードコートでラーメンを啜る。

 私が注文したのは野菜たっぷりの塩タンメン。

 ああ……秋頃になると暖かい麺が美味しい……。

「あ、兎佐田さん、この後アタシとキスする予定ある?」

「急に凄いこと聞きますね!?」

「いや、だってアタシ豚骨醤油頼んじゃったから、この後のキス豚骨味になっちゃうし……」

「あー……じゃあ、後でお手洗いで口ゆすいでください」

「え!? マジでキスするご予定!? きゃー♡」

「未定ですけど! 未定ですけど念のため! もしそういうことになったら気になるでしょう!? 地伊田さんの方から言い出したんですから!」

「それはそう」


 ラーメンを食べ終え、お手洗いで念のため口をゆすいだ後、フードコートの開いている席で少し休憩。

 セルフサービスで飲める無料のお水をひと口飲んだ所で、地伊田さんは「うーむ」と悩んだ。

「ハロウィンデートでフードコートのラーメンと水はちょっとムードが無かったか……?」

「いや、私は全然よかったですよ! 暖かいラーメン美味しく感じる時期ですし!」

「そっかー、うーん……」

 私はフォローしたのだが、地伊田さんは未だ悩み顔。

「……どうしよう。足りない」

「え、まだ食べます?」

「いやお腹じゃなくて……デートだというのにイチャラブ感が足りない気がする」

「ほ、ほう……」

 言われてみると、少しずつ「普通に遊んでる友達」の空気ができてしまっていたのは否めない。

 どうしよう……キスでもするか。

 いや違うな……もうちょいムード作ってからのキスの方がいいな……。

 地伊田さんの顔はそんな感じの顔だ。

「こう……胸にキューンと来るような何かが欲しいよね、やっぱり」

「胸にキューン……」

「……いや、うん……ちょっと贅沢を言ってる自覚はある」

 贅沢、と地伊田さんは自己評価するが……果たして贅沢だろうか。

 平日、学校が別々な分、他のみんなと比べ、どうしても地伊田さんにだけ寂しい思いをさせてしまっている。

 その埋め合わせをして欲しいと言う意見は……贅沢ではない気がする。

 少なくとも私からすると、むしろ今までの寂しさを埋めるぐらい、今日のデートを楽しんで貰いたいというのが本音だ。

 デート……イチャラブ感……キスする前みたいなムード……キス……。

「……あ」

 私はひとつ思いついた。

「地伊田さん! お揃いのアクセ、もう一種類買いませんか?」

「え、まあ……お揃いが増えるのは嬉しいけど……別にアクセ増えても……」

 私は、不満げな地伊田さんの左手を、ぎゅっと握る。

「胸にキューンと来るようなもの、買ってあげますから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る