第15話 兎佐田桃香はフルアーマーである。
「海ですか? いいですわね、どこの国にいたします?」
「いえ、国内でお願いします」
夏休みの計画の話がようやく進み、どこか行きたい所はあるかという質問に、私は海と答えた。
唐狩さんはてっきり海外のどこかのビーチの話かと思ったようだが、そもそも私はパスポートを持っていない。
というか旅行に関しては海外はおろか中学の頃行った京都への修学旅行が一番遠い距離だ。
「海かァ――……いいんじゃあねーの? いかにも夏って感じだしよォ――」
「ウチもここ数年行ってない気がするから行きたいかも」
「アタシも去年はプールすら行かなかったなぁ、一応受験生だったし」
豹堂さん、獅子神さん、地伊田さんも乗り気のようだ。
が、ここで虎沢さんの手が上がる。
「あのー……あーしちょっと肌見せるのヤかもー……」
「日焼けしやすいタイプ?」
「いやー、そーじゃなくてー……」
獅子神さんの問いかけにも、虎沢さんはモゴモゴと言葉を濁す。
……なんとなく、お腹の辺りを腕や手で隠している気がする。
それに気づいたのは私だけではなかったようで――。
「虎沢よォ――、もしかしてオメー、太ったかァ~?」
「う゛ッ」
豹堂さんの鋭い指摘。
反応からして正解のようだ。
「コーラだのファーストフードだの好きだもんなァ~? そりゃ付くモン付くだろーがよォ~?」
「その分お菓子を控えたり努力はしたのにー……」
「コーラとファーストフードで糖分脂質炭水化物はしっかり摂取してんじゃあねーかよォ――」
「……それー……」
豹堂さんの呆れながらの追求に、どんよりと顔を暗くする虎沢さん。
「ひょ、豹堂さんその辺で……そ、それに見た感じそんな太ってる風に見えませんよ?」
「兎佐田さーん……制服ってねー……結構お腹周りカバーしてくれるから普段はわからないんだよー……」
私のフォローも、絶望の表情で返して来る。
元々ダウナー系だった虎沢さんが、今日は輪をかけてダウナー……いや、これはもはやダウナーを通り越してネガティブだ……。
「でしたら、お腹周りをカバーできる水着を着用されてはいかがでしょう?」
どんよりネガティブモードの虎沢さんを前にどうしようかと私がおろおろしていると、唐沢さんがタブレットを手に近づいて来た。
タブレットには、どこかのお店の水着のカタログが表示されている。
ふわっとしたワンピースタイプのもの、ビキニのトップスから大きなフリルが伸びておへそ辺りまで隠れるもの、ビキニではあるがパレオをおへその少し上から巻いたもの……。
確かに、こういう水着であればお腹周りを隠して着れる。
流石唐狩さん、こういう方向で虎沢さんのネガティブを攻略してきたか。
「うーん……でもこーゆーのって買うとお高いんでしょー?」
タブレットをスワイプして水着のカタログをチェックしつつ、唐沢さんは困ったような顔をする。
チラッと私も覗き込んだが、あらら……この布切れにこの金額……「じゃあ水着買うのやめて焼肉食べます」と言いたくなるようなお値段。
「あ、この水着売っているお店でしたら、このホテルのショッピングフロアにありますので、さっきの会員カード出しつつわたくしが話を通せば無料になりますわ」
……流石唐狩さん。
この人は水着も買って焼肉も食えてデザートまで付けられる人だ……。
ということで、私たちは夏休み中の海へのお出かけ向けて、ショッピングフロアにあったお店で水着を選ぶことにした。
ここもまた高校の制服で来ていいようなお店じゃなさそうな雰囲気を感じる……。
「ところで……まだどこの海に行くかも決まってないのに水着選んでいいんでしょうか……」
「まあいいじゃん、せっかくだし」
獅子神さんは、早速向日葵をデザインにあしらったビキニを手に取り「これいいなぁ」とか言っている。
……見ごたえありそうだな……そのビキニ着てる獅子神さん。
そこそこ胸あるもんな……獅子神さん。
「つーか、虎沢さんだけじゃなく全員分選んじゃっていいの? 特にアタシ……今日来たばっかりの新参者なんだけど」
地伊田さんが、少し離れた所で唐狩さんに確認を取っている。
「もちろんですわ、もう同じうさフェチメンバーですもの」
「そ、そっか……ありがと……」
「それにですね、後で……」
「ほほう……なるほど……」
……なんだろう?
何か話をしているようだが……小声でよく聞こえない。
まあいいか……私も水着を選ぼう。
「じゃーん、どうどうー?」
しばらく水着をチェックし、虎沢さんが選んだのは、カタログでも見た、ビキニに加えてパレオでお腹周りのカバーするタイプの水着。
早速試着してみたのを見せて貰ったが、全体的に黄色を基調としつつ黒を添えた色合いが、虎沢さんの髪ともマッチしていてとてもよく似合っている。
「いいじゃないですか!」
「うん、似合う似合う」
「えへへー」
私と獅子神さんに褒められ、虎沢さんはニコニコと笑う。
さっきまでのネガティブ感はどこかへ行ってしまったようだ。
「皆様もご試着をどうぞ」
と、唐狩さんから言われたので、ひとりずつ試着公開。
「はい、ウチはこんなの」
獅子神さんは、先程見ていた向日葵デザインのビキニ。
ザ・夏といった感じで、これで日焼けでもされたらさらにギャル度に拍車がかかるな……。
「あたしぁこれかなァ――……」
豹堂さんは体のラインにフィットした真っ黒なハイネックビキニ。
170cmの長身によく映える……背が高い分お腹が見える範囲も広い感じなのがまたセクシーだ。
「わたくし、水着はもう何着か持っておりますが……せっかくですし新しく選びましたの」
唐狩さんは紫色のオフショルダービキニ……の上にシースルーのラッシュガード!?
隠して見せることでなんか……逆にセンシティブだ! これがお嬢様か!
「アタシはこれ」
地伊田さんチーター柄のビキニ!?
素面の顔で選んでる辺りこういうのが趣味!? 独特のえっちさがある!
「で……私がこれです」
私が選んだのは薄ピンクのフリルつきワンピース水着。
元々この身長だと合う水着が少なかったのだが……かなり無難な所を選べたと思う。
「無難すぎない?」
「冒険心がないー」
「あたしぁリアルな女児感があっていいと思うがよォ――……」
「もっと自由に選んでいいんですのよ兎佐田さん」
「せっかくタダなんだしね」
全員からこの評価である。
……豹堂さんだけ評価良さげっぽいけど、逆に嫌だな。
「やはりわたくしたちで兎佐田さんの水着を選んだ方がよさそうですわね……!」
「それな……!」
唐狩さんと地伊田さんの目がキラリと光る。
……え?
「待ってください何の話です?」
「いえ、水着を買うという話の時から考えておりまして。兎佐田さんの水着をみんなで選ぼうと」
「なにゆえ!?」
私は抗議の声を上げようとしたが、既に私以外のうさフェチメンバーは全員同意のサムズアップ!
みんな自分の趣味の水着を私に着せようと目がギラギラしている!
肉食獣が獲物の兎を狙うが如く!
「……あんまり過激な奴はやめてくださいね?」
被食者の私は、せめてもの抵抗でそう言った。
というわけで突如始まった私の水着選び大会!
まず獅子神さんセレクト!
「ウチなら兎佐田さんに来て貰いたいのはコレ! 同じフリル系ではあるけどビキニ! そしてここに水泳用タオルを首にかける!」
「何故タオル……?」
「使った後で匂い嗅がせてほしくて……♡」
「たぶん海水めっちゃ吸って海の匂いするだけですよ!」
続いて虎沢さんセレクト!
「うさ耳フードパーカーがあったー、これ絶対似合うから着てー♡」
「耳ならそういうのもお好み!? というか水着選んで来てくださいよ!」
「一応海やプールで使えるアウターコーナーって所にあったー」
「じゃあ水着とセットで持って来てくださいよ!」
そして豹堂さんセレクト!
「実はあたしのいつものスーツケースにスクール水着と水泳キャップと浮き輪があるッ!」
「お店から選びましょうよ! あと嫌ですよ私だけスク水!」
「一回だけ! 一回だけ着てくれよォ――ッ! あっまず胸元の名札にひらがなで『うさだ』って……♡」
「ハイもう却下します却下で! 次!」
唐狩さんセレクト!
「少し大胆ですが、脚の付け根の露出が広めのワンピースタイプに……ビーチサンダルです」
「おお……ちょっと大胆すぎる気がしますけど可愛い……あとサンダルまで用意していただけるとは」
「申し訳ありませんが海に行った後、サンダルだけ回収させていただいても……♡」
「何に使う気でいらっしゃいますか!? 私の足で履いたサンダルを!」
地伊田さんセレクト!
「とりあえず……これ……シュノーケリングゴーグル」
「いや地伊田さんも水着選んで来てくださ――息ですか!? 息フェチ要素ですか!?」
「水着関連でアタシのフェチのネタできるのこれしか……」
「フェチ大喜利じゃないんですよ!?」
ツッコミの嵐を終え、私は獅子神さんが持ってきたフリル系ビキニを選んだ。
水着そのものは普通にまともだったから……!
あとまあ……一緒に持って来てくれてたタオル、アウターとして使える虎沢さんのパーカー、豹堂さんのご要望をギリギリ叶える浮き輪、唐狩さんの選んでくれたサンダル、地伊田さんの持ってきたシュノーケリングゴーグルも装備……はい、全部選びました。
いや、だって……一応みんなが選んでくれたものだし……。
このままだと獅子神さんだけ特別扱いしてるみたいで嫌だし……。
「すごい……夏のフルアーマー兎佐田さんだ」
「ソシャゲの夏限定ガチャで出て来そー」
「浮き輪だけでもありがとう兎佐田さん……♡」
「ちょっと写真撮りません?」
「やっぱりみんなフェチ使うのが上手いな……」
……。
だいぶ騒いじゃったけど……お店に迷惑じゃなかったかな……。
私はもう自分のことは諦め、そっちの心配をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます