サマーフェチ編
第14話 兎佐田桃香は勉強ができる方である。
あなたは勉強ができる方だろうか。
私、兎佐田桃香は、自慢ではないがそこそこ勉強ができる方である。
百合オタクであることを隠すべく、私は学業の成績も維持する努力を重ねてきた。
学年一位のような優秀な成績を残す必要はないが、酷い点数を出してしまえば悪目立ちするだけでなく、家で小説を書いている最中に勉強してるのかと様子見に来られてしまう危険性も高まる。
故に私は、日々いつものメンバーにフェチ満たしを提供しながらも、予習復習を欠かさず行い、二次創作小説もしっかり執筆するという、忙しい毎日を送っている。
夏休み前の定期試験。
結果はもちろん、理想通りの丁度いい点数。
そして定期試験が終われば――夏休み到来!
私たちは例の唐狩さんのホテルのスイートルームに集まり、全員でローテーブルを囲むようにしてソファに座って、夏休みの計画を立てることにした。
せっかくの夏休み、みんなで集まって遊ぼうという話である。
今日の紅茶はバタフライピー。
夏の海を思わせるような、鮮やかな青色の紅茶。
海か……正直インドア派な私だが、せっかくこうして集まれる友達がいるのだから、みんなで一緒に海に行ってみたいかもしれない。
夏休みに行きたい場所の話が出たら提案してみよう。
ただ、その前に。
「え、えーと……
新たにこのグループに、地伊田さんを迎え入れることとなった。
「あ、あの……言った通りアタシ、他校の生徒なんだけど……」
「これは一応学校外の集まりなので何も問題ありませんわ」
地伊田さんの疑問点は、唐狩さんが秒で解決する。
まさか学校外で集まることにしようという提案がこう繋がるとは……。
「いや、でも……なんでアタシもこのメンバーに加入?」
「獅子神さんから色々聞きましたが……なんやかんやあって、あなたも兎佐田さんフェチのひとりでしょう?」
「兎佐田さんフェチとは!?」
困惑に困惑が重なる地伊田さんに、今度は虎沢さんがスケッチブックを手に説明を始める。
「試験前の頃に定期試験の勉強しつつ、相談してあーしたちの集まりの正式名称を考えましたー。『兎佐田さんフェチの集い』ぃー、略して『うさフェチ』ぃー」
スケッチブックにデカデカと書かれた『うさフェチ』の文字。
太目のペンでゴテゴテと装飾された文字は、実にギャルっぽい。
……いや、試験の時期にこんなん作ってないで勉強してくださいよ。
「これはぁー、兎佐田さんの様々な要因にフェチを覚えー、兎佐田さんでフェチを満たす女の子たちの回でぇー」
「え、待って追いつけない。兎佐田さんで? フェチを?」
「あー、地伊田さん困ってるからひとりずつ自己紹介しよーか」
虎沢さんがソファから立ち上がる。
「虎沢ばにらでーす。耳フェチー。兎佐田さんの耳をえっちだと思ってまーす」
「耳を!?」
地伊田さんのリアクションは一旦置いておき、虎沢さんは座り、続いて豹堂さんが立ち上がる。
「あたしぁ豹堂蜜羽! 同年代低身長女子フェチ! 兎佐田さんの他そこにいる唐狩お嬢様もストライクゾーンだ!」
「同年代……何!? フェチ名長くない!?」
豹堂さんが座り、唐狩さんが立つ。
「わたくしは唐狩薫衣。足フェチですわ。あ、あとカラカルグループの社長の娘をしております」
「肩書の順番がおかしい! 足フェチの付属品みたいになってる!」
唐狩さんが座り、獅子神さんが立つ。
「獅子神リコ。匂いフェチ。改めてよろしく」
「あ、うん……リコは色々知ってる」
いやあ……。
地伊田さんがツッコミ入れてくれると私疲れなくていいなぁ……。
「ほら、桃黄子も自己紹介」
「お、おお……ええと……」
獅子神さんに促され、地伊田さんも立ち上がる。
「えー……地伊田桃黄子……フェチは……匂われフェチと匂取られフェチと息フェチです」
「多くねェ――ッ!?」
豹堂さんのごもっともなツッコミが炸裂し、最後に私が立つ。
「兎佐田桃香。ここにいる皆さんの……フェチを満たしてます」
……本当に。
酷い自己紹介の時間だった。
自己紹介を終え、唐狩さんがタブレット端末を取り出した。
画面に出ているのは、今時なら誰もが使うチャットアプリ。
そこに、『うさフェチ』というグループ名のチャットグループがあった。
「こちらが、チャットアプリに作っておいた『うさフェチ』のチャットグループですわ。今後の連絡の取り合いに使えればと思います。もしも、このグループ名を誰かに見られてしまったら、『うさフェチ』というグループ名なので『うさぎさんが好きな学校外サークル』として誤魔化していただければと思います」
うーむ、流石唐狩さん。
リスクマネジメントがしっかりしている。
なお、もしうさぎ好きの誰かが「自分も入りたい」と言って来た場合、定員制のサークルのため誰か抜けないと入れないと理由をつけて誤魔化し、断るようにと言われた。
「それと、こちらも皆さんにお渡ししておきます」
続けて唐狩さんが取り出したのは、『Karakaru Membership Card/U F group』と書かれた黒いカード。
私たちうさフェチメンバーに一枚ずつ渡してくれた。
「今、お渡ししましたのは、カラカルグループが一部の方にだけお渡ししている特別な会員カードです。このホテルの各サービスが無料で受けられたり、カラカルグループの関わっているお店での飲食・サービス・商品購入の際に料金が無料になるか、無料にならなくても割引料金でご利用できるようになります」
「え、何でこんなヤバいチートカードをいきなり?」
唐狩お嬢様のお嬢様ムーヴに耐性の無い地伊田さん、さっきから驚きっぱなしだ……。
いやぶっちゃけ私も驚いてるけどね!? 何このチートアイテム!?
「まあ、今後このホテルを利用する際に料金面で色々面倒にならないようにというのもありますが……最大の目的はこちらです」
唐狩さんは、カードの『U F group』という文字を指さす。
「これはわたくしたち、うさフェチメンバーのために印字した文字で、この文字が書かれたカードをホテルのフロントで提示すれば、わたくしがいなくてもこのスイートルームに入れるよう指示を通してあります。これによって、わたくしが体調不良や別件の用事でこの集まりを欠席するようなことがあっても、他の方々だけで問題なくこのお部屋をご利用できますわ」
は……配慮が行き届いている……!
「で……でもさぁ……例えばここのレストランとかでコレ出したら、ウチらの食事代どうなんの?」
「無料になります」
獅子神さんの問いに、唐狩さんは眩しい笑顔で即答する。
「ええ……いや……もしもだよ? この六人で好き放題飲み食いして……ここのレストランの食事って平均いくらだ……? よくわかんないけど……エグい値段として……仮にほぼ毎日食べたとして……損失エグくない?」
「いえ、六人分の飲食代程度でしたら何年分だろうと痛くも痒くもございませんが……」
ダメだ。
これは私たち庶民には想像できない領域の世界なんだ。
私たちにとってこのカードを好き放題使うという行為は、「小さな池にバケツを突っ込み、池の水をどんどん持って行けば、流石に水が枯渇しなくとも影響が出てしまうのではないか」という感覚。
でも唐狩さんにとっては、「大海原からティーカップ一杯の海水をくみ上げた程度の話」……なのかもしれない。
……実際のスケールはもっとデカい可能性すらある……。
「唐狩さーん、コレ駅前のハンバーガー屋さんとかでも使えるー?」
「虎沢さんコレクーポン券じゃないんですよッ!?」
「使えます」
「使えるんですかッ!?」
酷い自己紹介とすごいカードの登場で、夏休みの計画の話はまるで進まない。
一旦落ち着くため、私はカップに注がれたバタフライピーに口を付けた。
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