第5話 最初の光

深夜二時。

 眠れずに布団の中でスマホをいじっていた。

 ふと、大学時代に作った動画ファイルが目に止まった。


 ただの暇つぶしで編集した数分の短い映像。

 けれど画面の中の自分は、不器用に笑っていた。


 「……これ、出してみるか」


 衝動だった。

 誰も見ないとわかっていても、試しにXにアップロードボタンを押した。

 「どうせすぐに埋もれる」

 そう呟きながら、スマホを枕元に投げた。



翌朝


 スマホの通知音で目が覚めた。

 半分寝ぼけながら画面を開くと、数字が並んでいた。


 再生数――「1,200」

 「……え?」


 目を疑った。

 通知の欄にはコメントが並んでいる。

 《めっちゃ笑った!》

 《こういう発想好き》

 《次も楽しみにしてる》


 胸の奥から、言葉にならない声が漏れた。

 「マジかよ……」



広がる波


 夜になる頃には、再生数は一万を超えていた。

 フォロワーも少しずつ増えていく。

 スマホの光が、暗闇の部屋を照らしていた。


 「俺が作ったものを、誰かが見てくれてる」

 心臓が熱くなった。

 社会に居場所を見つけられなかった俺を、知らない誰かが必要としている。


 それだけで、息が少しだけ楽になった。

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