第6話 小さな居場所

 最初の動画が思った以上に伸びた。

 だが、それで人生が劇的に変わるわけじゃない。

 次の日もカーテンを閉めきった暗い部屋で目を覚ました。


 ただ一つ違ったのは――

 以前と違ってスマホを開くのが、怖くなくなっていたことだ。



二本目の挑戦


 「どうせすぐに飽きられる」

 そう思いながらも、もう一本動画を作ってみた。

 効果音を差し込み、無駄に派手な字幕を入れる。

 編集をしている間だけは、心が少し軽くなった。


 翌朝、再生数は三千を超えていた。

 コメントには《前より面白い!》《これシリーズ化してほしい》と並んでいた。


 胸の奥に小さな温もりが広がった。



数字に救われる夜


 三本目の動画を投稿した夜。

 布団に入っても気になって、スマホを何度も開いた。


 再生数は五百、千、二千……。

 数分ごとに数字が増えていく。


 通知の音が鳴るたびに、心臓が跳ねた。

 《フォローしました》《次も楽しみにしてます》


 暗い部屋の中で、スマホの光だけが眩しかった。

 「これ、俺がやったんだよな……」


 社会では「出来ない」と言われ続けた俺を、知らない誰かが「もっとやれ」と求めてくれている。

 その事実が、たまらなく嬉しかった。



決意


 気づけばノートに次のアイデアを書き出していた。

 「ここにBGMを入れたらどうだろう」

 「このテロップのタイミングを変えたら、もっと笑えるかも」


 ページがどんどん埋まっていく。

 そのノートを見て、思わず笑ってしまった。


 「俺、こんなに考えてたんだ」


 胸の奥で何かが弾けた。

 「……やってみよう。ちゃんと、動画を頑張ってみよう」


 ただの暇つぶしじゃない。

 ここからが、俺の新しい居場所になる。


 そんな気がしている

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