第20話 学び続ける心 ~エマ~

 翌朝、エマチームは再びアカデミアの中心部に向かった。

 今度は、完璧な理論ではなく、心を込めた浄化を目指す。

「みんな、準備はいい?」

 エマの声には、以前のような緊張ではなく、温かさがあった。

「はい!」

 オスカーとイリスが明るく答える。

 音響水晶が『学びの歌』を奏で始めると、近くにいた学生たちが興味深そうに集まってきた。

「あ、この歌......」

 一人の学生が嬉しそうに言う。

「私たちの歌じゃないですか!」


「一緒に歌ってくれませんか?」

 エマが学生たちに呼びかける。

「え、いいんですか?」

「もちろん。この歌は、皆さんの歌ですから」

 学生たちが楽器を持ち寄り、『学びの歌』を演奏し始めた。

 フルートの優しい音色、リュートの温かな響き、そして学生たちの歌声。

 それは理論的に完璧ではないかもしれないが、心がこもっていた。

 エマチームの3人が、その音楽に合わせてダンスを始める。

 今度のダンスは、以前よりも自由で、生き生きとしている。

 完璧な位置取りにこだわるのではなく、音楽の流れに身を任せる。


 すると、不思議なことが起きた。

 聖魔法の光が、これまでにない複雑な模様を描き始めたのだ。

「これは......」

 見守っていた教授たちが驚く。

「理論では説明できない現象だ」

 光は、学生たちの演奏と共鳴し、まるで生きているかのように動く。

 それは理論通りではないが、圧倒的に美しく、強力だった。

 瘴気が、光に包まれて消えていく。

 アカデミアの中心部が、完全に浄化された。

 学生たちが歓声を上げる。

「すごい! 私たちの音楽が、こんな力を持っていたなんて!」


 浄化の後、教授たちがエマチームの元に集まってきた。

「君たち......私たちが間違っていた」

 魔法理論の教授が頭を下げる。

「完璧な理論を押し付けて、君たちの可能性を狭めていたんだ」

 音楽理論の老教授が微笑む。

「学問の本質は、完璧を目指すことではない。常に学び続け、新しい可能性を探求することだ」

 別の教授が付け加える。

「君たちは今日、私たちに大切なことを教えてくれた。理論と心、両方が必要なんだと」

 エマが深く頭を下げる。

「いえ、私こそ学ばせていただきました」


 その日の夕方、大学の講堂でシンポジウムが開かれた。

 テーマは「聖魔法と音楽理論の融合」。

 エマチームと学者たちが、共同で研究を始めることになったのだ。

「チアダンスと聖魔法には、まだ解明されていない可能性が無限にあります」

 若い研究者が興奮気味に語る。

「私たちは、理論と実践、両方を学び続けなければなりません」

 イリスが音楽理論の観点から報告する。

「『学びの歌』には、人の心を癒す周波数が含まれています。これが聖魔法と共鳴することで......」

 オスカーも図書館で調べた古文書の知識を共有する。

 学者たちと若いチアダンサーたちが、対等に意見を交わす。

 そこには、完璧主義ではなく、共に学び成長する姿勢があった。


 シンポジウムの後、エマは老教授に感謝の言葉を伝えた。

「先生、ありがとうございました。私、学ぶことの本当の意味が分かりました」

「それは何かな?」

「学ぶことに終わりはない、ということです」

 エマが微笑む。

「完璧になろうとするのではなく、常に成長し続けること。失敗を恐れず、新しいことに挑戦すること」

「素晴らしい気づきだ」

 老教授が嬉しそうに頷く。

「君は、真の学者になったよ」


 その夜、魔法通信で他のチームに報告した。

「みんな、アカデミアの浄化に成功したわ」

 エマの声は明るい。

「おめでとう!」

 ミナが喜ぶ。

「それに、私、大切なことを学んだの」

 エマが続ける。

「完璧じゃなくてもいい。大切なのは、学び続ける心なのね」

 セレナの声が響く。

「素晴らしいですね。学術都市にふさわしい気づきです」

「ええ。そして、この街の『学びの歌』は、本当に美しかった」

 エマが感動を込めて語る。

「知識を追求する喜びが、音楽になっているの」


 通信を終えた後、3人は次の目標を見つめた。

 アカデミアにはまだ、浄化すべき場所がいくつか残っている。

「でも、もう怖くないわ」

 エマが自信を持って言う。

「完璧を目指すのではなく、最善を尽くす。そして、失敗からも学ぶ」

「それが、本当の強さですね」

 オスカーが頷く。

「私たちなら、できます」

 イリスも自信を持って言った。

 完璧主義の罠から抜け出したエマチームは、真の学者の精神を手に入れた。

 学び続ける心を持った彼らの前には、無限の可能性が広がっていた。

 そして、その姿勢こそが、学術都市アカデミアが最も大切にする価値観だったのだ――。

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