第13話🌸「お出迎え」
「はぁぁぁ……大丈夫かな……」
そわそわと落ち着かなげに、知里佳は部屋をちょこちょこ歩き回る。
部屋に誰かを呼ぶなんて、一体どれくらいぶりだろう。少なくとも大学に入ってからは、はじめてのことだ。そもそも、友人と呼べる存在自体がほとんどいないのだから当然だ。
とにかく出しっぱなしだった本や洗濯物を片付けて、寝室に通じる扉は締めきって、トイレも念の為ペーパーなどを補充して、あとそれから……と慌ただしくしている間に、ピンポンとインターホンが鳴った。
やってきたのは春待で、「入りますよー」とやけに身軽な動きでぴょんと部屋に入ってくる。手には、たこ焼きを焼くための鉄製プレートの入った紙袋があった。
「いらっしゃい、春待さん……あの、一応うちにあったガスコンロは出しておいたけど」
「なるほど、コレとアレとをドッキングするわけですね!」
言いながら、テーブル上のコンロに鉄のたこ焼きプレートを置くと、なんとか収まりよくのってくれた。ひとまずほっとして、用意しておいた材料を台所から持ってくる。
「これ、さっきのスーパーで買ったたこ焼きの素で作ったタネと具材……どうしよう、一回焼く練習とか、しておいた方がいいかな? どう思います?」
「青は、美味いものとイケメンが揃えばなんでもいいですよ」
そんなことを話していると、またもやピンポンと音が鳴る。
「ま、真壁さんかな。出てくるね」
「お! 合コンの先手必勝、気がきく女アピールですね? 青も一緒にお迎えしますよ」
「気がきくとか……ええっと、ただの家主だからで……」
女子である春待が先に来てくれたことでほっとしていた知里佳だったが、いかんせん話が噛み合わないことに困惑しつつ、次の来客を迎えに玄関へと向かう。
(合コン……合コンなのかな、これ。そんなのはじめてだし、どんなふうにしたらいいのかとか、ぜんぜん分からないけれど……)
それに、そもそも異性と会話をするのは得意ではない。最近まともに会話をした異性なんて、電話口で話す実家の弟と、気軽に声をかけてくれる真壁、それから夜道で会った「ジャスミンさん」こと柳楽凌くらいだ。
(真壁さん、どんな人連れてくるんだろう)
真壁の知り合いだとしたら、そんなに怖い人ではないだろうが――ああでも。全く知らない大学の人なんかより、せっかくなら……そこまで考えて、浮かんだ顔を慌てて打ち消す。
「おじゃましまーす」
扉を開けると、正面に笑顔の真壁がいた。手には、大きめのコンビニ袋を持っている。
そして、その後ろには二人の男がいた。一人は、マンション内で何度か見かけたことがある。白い髪にメッシュを入れて、目に左右違う色のカラコンを入れた、いかにも軽薄そうな男。
そして、もう一人。にこやかで小柄な真壁とは対照的に、まるで壁のように大きくて、そして神経質そうに眉を寄せている。その姿を見た瞬間、「あっ」と思わず小さな声を漏らしてしまった。
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