第7話 幸せはここに
俺が余命宣告されたあの日。父は俺を国の森まで連れて行った。
父の部下が先にいろいろ手配してくれたようで、森にある小さな家に俺と父は入った。
国境の森は広大で、隣国との境になっているが、あまりにも森が深いため、そこは人が住むことはなく、どちらの国も警備などはしていない。
さらに世界一の魔法の使い手である父が何重にも魔法の力を弱める結界を張っている。
これならば、俺が魔力の暴走を起こしたとしても、被害が最小限になるだろう。
父が見つけた最善。ただ――
「はああぁ」
「どうされました? ライルード様」
ため息を吐けば、感極まっていたメイドのシャオがまたあたふたと焦る。
俺はそのシャオをじっと見上げた。
――この子は俺が生きるために犠牲となった子である。
俺はこんなに自我がはっきりしているとはいえ赤子だ。一人で生きることはできない。
俺の世話をするためには魔法の結界の中に入り、ともに家に住む必要がある。しかし、それは俺が魔力暴走を起こした場合には命の危険があるということだ。
もちろん父は最初は自分がその役目を負おうとした。けれど、国の要職についている父がいなくなれば、捜索の手が伸びるだろう。国が俺が生きていることに気づかれてしまうかもしれない。
そうなれば、国は俺を殺せと命令するだろうし、父がそれを受け入れるかはわからないが、あまりいいことにはならないだろう。
父が日常を送りながら、こっそりと俺のもとを訪ねるには国境の森は遠すぎるし、赤子の俺は四六時中、手がかかるから無理があるのだ。
どうしても、命を賭して、俺の世話をするだれかが必要となる。
――それがシャオだ。
「シャオはあの日、ライルード様に出会った日を一生忘れません。そもそも孤児である私を奥様が拾ってくださった。身に余る幸せ。それを返せたら、そう思っていたのに……」
シャオが俺をあやすようにゆらゆらと揺らす。
まだ体力がないせいだろうか。これをされると、俺はどうしても、目がしょぼしょぼして、頭がぼんやりとなってしまう。
「公爵様に秘密裏に声をかけられたとき、シャオには迷いはありませんでした。必ずやり遂げる。奥様と公爵様に恩を返す。それが使命でした」
あったかい。シャオの手が背中に体温を映してくる。
目を開けられなくなった俺は、ふぁぁとあくびをするとムニャムニャと口を動かした。
「……ライルード様。私は今はあのときとは違う気持ちなのです」
シャオの優しい声を聞いていたいが、意識が遠のく。まさしく、これは、眠たい、だ。
「今はただライルード様との毎日が愛しくて仕方ありません。恩を返すだなんてとんでもないことでした。いつも、ライルード様からもらってばかりで……」
ゆらゆら、ぽかぽか、ふわふわ。
「ライルード様。……大好きです」
俺はそのまま意識を手放した。
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