第3話 父はかっこよく、母は美人だった

 俺がここは異世界だ! と認識したのは生まれてすぐ。おぎゃーと一般的な泣き声で生まれ、おぎゃーと言ってるうちに沐浴された。

 なんか豪奢な服を着せられ、連れていかれた先にいたのが、それはまあ大層美人な母の元だった。そして、その隣に寄り添う父もそれはまあ大層な美丈夫だった。

 母は産後の疲れはあっただろうが、目が覚めるような美人。金色の波立つ髪に、柔らかな碧色の目。思わずポカーンと見つめてしまった。

 そんな俺を見て、よかったよかったと渋い声で喜んでいた父。銀色のストレートの髪はサラサラで、氷のような水色の目が幸せそうに細まっていた。もちろん俺は同じくポカーンと見つめてしまった。

 こんなことある? と。生物学的にこの人たちが両親なことある? と。

 ゆえに理解したよね。


 ――なるほど、これは異世界転生! と。


 父や母のほかにも人がたくさんいたし、部屋や調度品が豪華。これはもう明らかにいいところのおこちゃん。勝ち組である。

 しかも、父も母も幸せそう。明らかに愛を感じる。みんながちやほやしてくれる感覚もあり、これは圧倒的にハッピーモード異世界転生! バンザイ!

 そんなわけで、普通はもっと混乱したかもしれないが、俺は割合すんなりと受け入れた。

 前世について、あまりなにもわからなかったのもよかったのかもしれない。

 ……あるいは、前世から割とこんな感じの能天気なタイプだった可能性はあるが。

 なんにしろ、俺は有頂天だった。

 が、そんな幸せな家族の姿はほんの一時に過ぎなかったのだ。

 まず、母に抱かれた。次に父に抱かれた。そして、そのあと、白いローブを来た不思議なじいさんに俺は預けられた。

 じいさんの首元には大粒の石がジャラジャラとぶら下がっていて、てのひらに水晶球を持っている。

 水晶球は透明なんだけど、よくわからない七色の光が反射していた。

 じいさんはその水晶球を俺のおでこにコツンと当てる。その途端、七色の光が部屋中に舞い踊った。

 キラキラと輝く部屋に、光で象ったたくさんの花が咲き乱れる。それはとても美しく幻想的で、俺は思わずキャハッと声を上げて笑っていた。

 幸せな家族ときれいな光景とそれを喜ぶ赤子。どこにも闇はなさそうだろ?

 が、じいさんは「ひぃっ!?」と悲鳴を上げ、水晶球を落とした。

 そして、水晶球は地面に落ちる前に砕け散り、床に欠片が降り注いだ。

 水晶球が壊れたことで光の洪水は収まり、部屋はシンと静まり返る。

 じいさんは俺を早く離したいようで、押し付けるように父に返した。

 そして、こう言ったのだ。


 ――この子は魔物だ、と。

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