第15話 あなたに届け、わたしの光
光莉は暗闇に包まれていた。
「わたしは、何をしているんだろう。暗闇で何も見えないけど、なぜか、心がとても軽くなっていて、とても落ち着く」
浮遊している感覚に包まれながら暗闇の中を漂っていた。何も見えない、聞こえない。だけどとても安心感なのは確かだ。そんな状態が続く中、突然、何かが落ちる乾いた音が頭の中に響き渡った。そして暗闇の先に小さい光が見え、次第に広がり周囲を明るく照らし出した。
光莉は暗闇の世界から戻ってきて、ゆっくりと目を開いた。・・・その瞬間、目の前の光景に息が止まり、言葉を失ってしまった。
つい先ほどまで公園のベンチに琴音と座って話をしていたのに、いつのまにかアスファルトの上で片手を前に伸ばして立っている。
しかも足元には落ちて割れた玉子のパックが・・・。
静かに横を見ると見覚えのあるスーパーマーケットの建物が見えた。
視線を前に移すと・・・。
わたしが手を伸ばすすぐ目の前に、見覚えのある後姿が立っていた。
その後ろ姿は一歩踏み出してわたしから去っていこうとしている、まさにその瞬間。
心臓が激しく鼓動する。
わたしが望んでいたこの光景を前に、涙を流しながら叫んだ。
「・・・谷崎さん、待って!」
状況は理解できない。
どうなっているのかもわからない。
だけど今、「絶対にやるべきこと」だけは理解している。
光莉は一歩前に踏み出し谷崎の腕を強く握りしめた。
振り向いた彼の目を見つめ、言葉に想いを乗せて伝えていく。
「わたしは谷崎さんの事、英雄だと思っています。それはこれからも変わりません。」
一呼吸置き、決意を宿した輝く瞳で話し続けた。
「わたしは、谷崎さんが好きです。ずっとこれからも、わたしは谷崎さんの側にいたい、歩んでいきたい、楽しい未来を一緒に見続けたい!」
光莉の叫び声に驚き、店内へと向かった琴音も二人の元へ戻ってきた。
琴音は二人の状況が理解できなかった。しかし光莉の瞳の輝きと言葉からおおよそ検討がつく。そして、小さく微笑みを作って二人を見守った。
一方、腕を握られた谷崎は驚きで言葉が出ない。たった今、本当にたった今、光莉に対してあんな酷いことを言って突き離したのに。
その時の光莉の瞳は暗闇だった。だけど、このほんの数秒の間に何があったのか?
目の前にいる彼女の瞳には、これまで見たことのない輝きで満ち溢れている。
まるで辛い試練を乗り越え、目指すべき本当の未来を見つけた時のような希望の輝きだ。
動けない。
声が出ない。
掴まれている腕を振りほどき、こんな僕の事は忘れて欲しいと無理矢理にでも伝えたいのだが・・・。けれど、心のどこかでは掴んだ腕を離して欲しくない、そんな気持ちがある。今まで彼女の瞳だけを見て話をしていたが、腕を掴まれて触れられると、違う感情も生まれてきた。理屈だけで会話をしているのでない、生身の人間同士が気持ちを伝えあっている。僕の心は激しく揺さぶられている。
とにかく今の僕には正常な判断が出来ない。僕は言葉を慎重に選んで彼女に伝えた。
「明日の午後、例のカフェに来てください。僕も気持ちを整理してきます」
その言葉を聞いた光莉は、静かに手を放した。
けれど首は横に振った。
「谷崎さんへお見せしたいものがあります。カフェでなく、わたしのアパートへ来てください。」
谷崎は驚き光莉を見つめた。
「光莉さんのアパートですか?」
二人の会話に琴音が割り込んできた。
「明日は、光莉にとっても谷崎さんにとっても重要な日になるかと思います。二人には申し訳ないけど私も一緒に同席します。三人でお話をしたいです」
谷崎も、同席してもらった方が都合いいと思っていた。いくら何でも女子大生のアパートに二人きりとなると気が引けてしまうし、要らぬ誤解を招くかもしれない。
一方で光莉も、そのほうが安心して谷崎さんへ思いを伝えられるような気がしていた。
谷崎は二人に向かって静かに言った。
「わかりました。明日、アパートへ伺います」
光莉から住所が書かれたメモを受け取ると、谷崎はゆっくりと背を向け、その場を後にした。光莉も琴音と目を合わせ、小さくうなずくと、並んで帰路についた。
二人と谷崎は、それぞれふと空を見上げた。
闇夜だったはずの夜空には、いつの間にか瞬く無数の星が広がっていた。
今ならその輝いている星に手が届きそうな気がした。
星空の下を歩きながら、光莉は琴音の肩をたたく。光莉は琴音に笑顔で話した。
「琴音、ありがとう。アドバイスのおかげで、ちゃんと谷崎さんに気持ちを伝えられそう。わたしも気づかなかった気持ちや、谷崎さんの思いをよく分かっていたね!」
琴音はその光莉の言葉に首をかしげながら言った。
「何?私なにもアドバイスなんかしてないよ。ただ、谷崎さんに光莉と話をしてくださいと、言っただけだよ」
「だって、あの時琴音は・・・・。」
光莉は気が付いた。
何も覚えていない事を。
大変な出来事があって辛い気持ちになり、もがき苦しみ乗り越えようとした事を。
それはいつの事か?
そんな出来事最近なかった。
でも確かに覚えているのは谷崎さんへの想いだけだ。
ちゃんと伝えないと後悔するであろうという思い。
それだけだ。
「・・・いや、なんでもない」
一体これは何だったんだろうか。
不思議な感覚に包まれながら、光莉は琴音に尋ねた。
「わたしの想い、谷崎さんへ届いたかな?」
琴音は微笑みながら答えた。
「想いね。それはわからない。でも光莉から出ている光は届いたと思うよ」
「えっ?光莉の光?! オジサンみたいな洒落を言うね!」
星が輝く夜空の下を二人は笑いながら家路へ歩いていく。
「なんか、光莉変わった?急に輝きだした気がするけど」
「うん、どうだろうな。たぶん・・・変わったかもしれない。・・・琴音のおかげで」
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