第12話

それからというもの、一度飛び始めた鳥と同じに様に澪車は空へと飛び出す感覚をもう既につかんでいた。幾度かふらつくものの確実に飛距離とその速さというものは伸びていった。

 二週間もすると澪車は緑富野山の中で町二つ分はあろうかという距離を安定して飛べるようになった。


 やっぱり、これは言いモノね。


 彼女は深緑を見下ろしながら噛み締めるように風と、そして言われもしない解放感を感じていた。太陽の光が強くとも山の上の方で、そしてそこそこの早さを出す速度での巡行。それによる風を感じる。飛行するという事は高等な技術を要する。しかし彼女の身体感覚が目の良さがその高等な飛行を可能としていた。すこし飛んでいると緑色が深い色から若々しさを感じるものとなっていく。そしてその若い色の草原へと目を向けるとアリステイルと皓伝屋夜名子が並んでいる。

おそらくアリステイルに何かを教えているのね。さすがね、もうこっちの言葉で、意思疎通まででしょうけど少し話しているわ。


 そうして二人が近くなるとあちらもこちらに気づいた のか手を振ってくる。そして彼らのもとへと近づく。

 いつも通りというかのように、慣れた様相で澪車は受け身をとる。いつも背中と腕を使っておりなければいけなかったが、最近になってようやく転がらない着地も増えてきた。


 グワンッと彼女の腕や上半身が揺さぶられるが地面にたたきつけられることもなく、そして今日も使用人にこっそりと汚れた服を渡さなくてよい感動と安堵を感じながら二人のもとへと寄っていく。


 「すごいねぇ、照ちゃん!何回みても信じられないよ、空を飛んでるなんて。それにその、空を飛ぶ杖?みたいな棒みたいなの作ってるアリステイルさんも!」

 朗らかな表情をしながら皓伝屋はこちらを向く。その目線は澪車の手に握られているモノではなく、澪車自身、そしてアリステイルに向いている。そしてアリステイルと澪車にある間のような空気感だろうか、ともかくとしておそらく澪車の顔を見た後彼女は満足したのか、やっとのことで澪車の手に握られているモノに視線が向けられた。

 「ちょっとみてもいい?照ちゃん」


 少し上がった呼気も落ち着いてきたのか、彼女はゆっくりといつもの様相で、そしてすこし軽やかに「いいよ、夜名子ちゃん」っと彼女に手渡す。


 皓伝屋が筆で追うかのように視線を泳がすと「ひゃー、いいものつかってるねー。漆っぽいけどちょっと違うのかなー」っと無邪気に聞いてくる。


 「そうね、気、魔力というものを通しやすくするために他のものも混ぜているのよ」


 「へー、前も見たけどやっぱりこれ、すごいや。それに綺麗にこの文字かな? 模様かな? が彫り込まれてるのもすごい細かくてきれいに彫れてるね」

 指先でその方陣を確かめていると隣から澪車が「ああ、それはアリステイルがやってくれたのよ」っと目配せをする。

 「アア、ソレハコナ、ヲツカウンダ」

 そうして三人はしばしの間歓談を楽しんだ

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