第9話

 共同生活初日

 

 アリステイル・リリエンタールと澪車照の日常には少しの変化が訪れた。学び舎での一日が終わってから、慶知の杜から半刻ほど歩くと着く里山、緑富野山まで来ていた。多くの緑が生い茂っているその山は昼下がりに風に揺られながら歌を奏でているのだろうか、こすれあうような音とともにその身を風にゆだねている。

 この場所まで来たのはこれから行う場所への下見、そして人の目が届かないところへと移行としての事である。学び舎のどこかにいてもよいのだが、アリステイルの提案で下見へと行くことにしたのだ。


 そんな涼しそうな緑とは対照的に、照とアリステイル二人の額には光るものが流れてゆく。

 「説明はわかったけど、人を乗せることが大前提なんですよね?その材料の調達のことは考えてますか」鋭く現実的な質問が照の口から飛び出てくる。


 何かを飲み込もうとするときのような苦しそうな表情がアリステイルの顔と雰囲気のようなものが彼全体から出てくる。しばし褐色の地面との無言の対話をしたかと思えば彼は口を開いた。

 「それをいうと恥ずかしながらあまり具体的なものは考えていない。しかし、まず最初に君たちの国で言う気の様なものを操るための素材自体は多く持ってきた。おそらくこれ自体は何をしても切れないものと思ってくれて構わない。しかし、だ。そう道具を何で作るのかが問題なんだ。」


 澪車は顔色をあまり変えずに続けて言う。

 「と、するとどうするのですか?」

 するとアリステイルはまた一つの紙を広げて彼女のもとへと差しだす。その様子はどこか盾や木陰に身を隠す者のようだった。

 「加工の出来る素材、軽量性、そして魔力、或いは気を流しやすいものだとよい。ここらでよく見かけるものはやはり」

 「「竹ね」だと思う」

 予期せぬ形で二人の推論の影が重なり合った。


 譲るようにアリステイルが澪車のもとへと視線を送ると、その旨を感じ取ったのか彼女が喋りだす。

 「そうね、多く生えていますし、それに軽くて頑丈。加工もおそらくしやすいはず」

 そうしてしばしの歓談をした後、再び元の目的である下見へと二人は意識を手繰り寄せまた緑富野山の奥の方へと足を進めてゆくのだった

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