安価物件

αβーアルファベーター

第1話 格安の理由

◇◆◇


就職を機に引っ越しを決めた「僕」は、

不動産屋で信じられないほどに、

安い物件を紹介された。


2LDK、駅から徒歩5分、リフォーム済み。

それでいて家賃は相場の半額以下だ。


「何か訳ありですか?」と尋ねると、

担当者は笑って「いえいえ」と答えた。

そうだろうな、そんなわけ無いなと

契約を済ませ、入居した夜。


静かで住みやすいはずの部屋なのに、

妙な感覚に襲われた。


――僕一人なのに、

誰かに見られている気がする。


翌日、大家に挨拶すると、

彼は不自然に目を逸らしながら言った。


「……よく借りましたね、この部屋を」


騙されたのか……。

でも、とにかく早く出て行けば大丈夫だろう。


◇◆◇


「一体、あの物件は何なんだ」


会社に行くため電車に乗った僕は、混雑するホームで思わず立ち止まってしまった。


その瞬間、スーツ姿の男性と肩がぶつかり、舌打ちされる。


「すみません……」


謝りながらそのまま会社へ向かった。


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