第18話 推しのためなら、国賊にでもなる
似たような展開はゲーム本編にもあった。
ウララが関わってはいなかったが、王子に婚約破棄されたノルネが、殺されかける話だ。
だが、そのタイミングは確実に今じゃない。
やっぱりゲーム本編とは、ストーリーが異なってきているらしい。
だとすれば、なおのこと、急がなくてはならない。
俺はすぐに剣を抜いて、正段に構える。
本来は間合いを図るべき場面だが、時間もない。
『魔力圧縮』のスキルも使って、俺は距離を一気に詰めにかかり……
「ぐあぁっ!!」
食らわせたのは、剣道でいうところの『面』だ。
不意をつくには、ぴったりだった。
峰で打ったものの、鈍い音がして、その警備の者は後ろへと倒れ込む。
そんななか俺はそれを後ろ目に確認しながら扉の外へと出るのだが、
「なっ!?」
死角となっていた扉の影から飛び出てくる奴らがいた。
俺は避けようとするものの、押し倒されてしまう。
どうやらなりふり構わないようで、多人数から羽交い締めにされる。
「逆賊を捕らえました!!」
逃れようとしても簡単にはいかない。
が、こんなときのためだけのとっておきのスキルが俺にはあった。
俺はそれを発動して、俺を取り押さえようとする連中の腕に噛み付く。
「ぐあぁっ!!!? こいつ噛みやがった!?」
使ったのはサーパントから貰ってきた『毒牙』のスキルだ。
まさか実際に使う時が来るとは思わなかった。
ちなみに普通に不快だ。
知らんおっさんの腕の塩っぽい味に、ヘビの毒が混じった味は、普通に最低である。
が、すぐに腕を抱えて屈み込むあたり、毒はかなり強く効いているらしい。
俺はさらに何人かに噛みついて、彼らからの拘束を逃れる。
それから全力で走って向かうのは、ノルネの控え室だ。
が、その中にはすでに彼女の姿はない。
どこかに連れ去られてしまったのかもしれない。
それで俺が慌てて部屋を出たところ、
「やめるんだ、トーラス」
そこにはトーラスの両親が待ち受けていた。
なるほど、親を使っての泣き落とし作戦まで使ってきたらしい。
「戻ってきても構わない。これからも研究を続けて構わないし、自由にして構わない。だから、こんなことはやめるんだ」
飛び出したのは、追放の撤回と、引きこもり容認宣言だ。
そりゃあまぁ、ありがたい話ではある。
現世でのクソみたいな労働の日々では、そうした生活に憧れたことだってあった。
が、しかし。
俺はそれを無視することにして、廊下を走り出す。
「待つんだ、お前はどれだけうちの家に迷惑をかければーー」
などと後ろから声がかかるが、それはスルーさせてもらう。
なにと天秤にかけたって、ノルネを諦められるわけがないのだ。
それがたとえ命のかかることだとしても、構わない。
前世でのクソみたいな日々を支えてくれていたノルネを守れたなら、他にはなにもいらない。
というか、だ。
俺にとっては実質、追放を言い渡してきただけの他人だしね。
俺は扉を開け去り、外へと出る。
そこには、あろうことかあのバカ王子本人が待ち受けている。
犯人だと名乗り出ているようなものだった。
その周りには、たくさんの衛兵が控えており、ウララも見守っている。
どうやら、愛しの『彼女』に勇姿を見せるつもりのようだ。
「行かせないよ。僕を倒せるものなら倒してみるといい!」
剣を抜いて、高らかにこうのたまう。
もしかすると、自分は攻撃されない。
そう思っているのかもしれない。
たしかに、王子に剣を向けたら、完全なる国家への反逆行為だ。
会社の経営者にいきなり殴りかかるようなものである。
だが、推しの危機がそこに迫っている以上、俺に躊躇はなかった。
ノルネを救えるのなら、喜んで国賊になってやりたい。
バカ王子は、まだなにか喋り続けようとしていた。
正直、隙だらけだ。
剣は構えているだけで、まともに俺の動きに注意を払えていない。
俺は何度も練習をしてきたとおり、瞬時にその背後をとる。
そしてその首裏を強く打ち付けてやった。
「あがぁっ……!!」
なんてことない実力だ。
もしかしなくても、あのゴロツキ二人組の方がまだ骨があった。
王子が悲鳴とともに崩れ去る。
「アウレリオ王子っ! あぁなんてことを!」
そこにウララが駆けつける茶番が繰り広げられるのを横目に、俺は先を急ごうとするのだが、取り巻きたちは簡単には通してくれない。
「よくも王子を!!」
「ひっ捕えて、牢獄行きだ!」
などと襲いかかってくるから、俺はそれを次々に組み伏せていく。
たまに噛みつきもする。
そうして俺は次々に敵を薙ぎ倒して、人気のないところまで駆け抜けたら、そこでこの間獲得したスキル『姿隠し』を使った。
そしてどうにか、王城の外へと出る。
ノルネが連れて行かれた場所はどこか。
その候補として思いついていたのは、一箇所だけだった。
ゲームの本編で彼女が捨てられることとなった、『暗がりの森』である。
ウララと王子の件と言い、俺が見てきたゲームのストーリーとは、少しずつ違う部分もあった。
イベント発生が早まってしまうことがあってもおかしくはない。
俺はその仮定のもと、『魔力圧縮』を足元に使って、全力で王都の中を駆け抜ける。
道はすでに把握済みだったから、最短距離を行くこととした。
いない場合はすぐに引き返すつもりだった。
が、しかし。
ノルネは本当にそこにいた。
手足を木に縛られた状態で、まさにサーパントのに襲われんとしている。
俺は一足飛びにそこへ近づくと、高く跳び上がって、その首を刎ねる。
そしてノルネの前で着地をして、すぐに次なる敵に備えるため、彼女に背を向けた。
「…………あなた。どうして」
後ろから聞こえてくる声に、俺は少しだけ後ろを振り返る。
「ノルネ様のことなら、分かりますよ」
と、それだけ答えて、続けて襲ってきたサーパントの退治に移るのだった。
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