人類を滅ぼしかけた魔王の転生体とバレてしまった第四王子、はるか僻地へと飛ばされてしまう ~1から始める魔王の領地経営奮闘記~
福留あきら
0.プロローグ
――なぜこのようになってしまったのか。私自身もこの時点ではまだ理解が追い付いていない部分が多かった。
最近歯も生え変わり、代わりに伸びた犬歯がちょっと尖っていてかっこいいなーなんて思っていたりしていた七歳の子供である私が、何故周囲から槍を突きつけられなければならないのか。
「きっ、貴様のその
ああ、そうだった。今朝方起きて鏡を見るまでは、私はごく普通の七歳の子供だった。ネロ=ファルベという名を授けられた、このレンクラングにおける王位継承権第四位という、末端の小さな王子でしかなかった。
しかし額の右から、この生え変わった歯と同じように顔を出して生えてきた漆黒の角を目にした途端、私は全てを思い出した。
――私はもう少しでこの世界から人間を滅ぼすことができたはずの、最強最悪の魔王だったのだ。例え輪廻転生をいくら重ねたとしても、この角を見ればすべてを思い出すことができるだろう。それほどまでに、私は自身の角を気に入っていたのだ。
それがこの国の人間達にとっての記念日――魔王討伐から十年という節目を祝う日になってこの大きな不都合が起きてしまったとは、何の因果があってのことやら。
「ぼっ、僕が何をしたというのですか!? お父様!!」
「ええい、貴様のような悪童を息子に持った記憶などないわ!!」
今更
「まさか、あの魔王セフィードの生まれ変わりか……!?」
「魔王だなんて、僕は……僕は……!」
今までの記憶を頼りに、突然の出来事に困惑するネロ=ファルベを演じてみる。しかし国王はよほどこの角に深い恐怖を刻みつけられているのか、一向にこの
「今すぐこいつを殺せ!! 殺せぇっ!!」
錯乱するように叫ぶ国王の指示の下、四方八方からの槍で突き殺されようとなったその時だった。
「お待ちください!」
そこに響いたとある男の声。私はこの忌々しい声の主を知っている。
「魔王の疑いがあるとはいえ、我が末弟が殺されるのをむざむざと目にするつもりはありません!」
そうして兵との間に割って立ち、わざとらしく両手を広げて槍を阻む男が一人。
――ミルベ=ファルベ。王位継承権第一位の長男が、ここぞとばかりに偽善を尽くしている。
「おお、ミルベ! お前の慈悲深さには誇りすら感じるが、今はそれを発揮する時ではない! 魔王が、魔王セフィードが――」
「分かっております父上。ですが弟はまだ七歳になったばかりの幼い身。魔王と決めつけて殺すのは如何なものかと!」
見え透いた嘘を吐く。これまでの記憶をたどれば、この男の腹の内を知るなど容易いことだ。
(弟が魔王……面白い、あれだけ
――とまあ、この程度の子とは考えているのだろう。それにしても、よくもこんな幼い心身でこの男の前で気丈さを保ったものだ。ネロという人格がまだ私の中にあるのであれば、褒めてやりたいところだ。
「ぐっ……しかし……!」
「納得が行かないのであれば、このミルベに一つ考えがあります。父上の前から魔王の疑いのある弟を遠くへと追いやり、そして尚且つ、弟にもこの疑いを晴らすチャンスを与えるという、一挙両得の妙案が」
といったところでようやくこのミルベという男は本題に入るようで、まだ魔王かどうか半信半疑の弟の処分について、考えうる中で丁度いいといった苦行を課すことを提案した。
「――この子を辺境の地、ラインヴァントへと追放するのです!」
「なっ、らっ、ラインヴァントだと!?」
「はい! 父上も知っての通り、あの地であればご納得いただけるでしょう!」
――ラインヴァント。私にとっては記憶に新しい地名であり、ネロにとっては知識の一端としてその名は脳裏に刻まれている。
そこはかつての魔王城があった土地。やせ細った土地にはまともな作物など生えるはずもなく、かつて私を封じようとした勇者との激戦を示す魔法の残滓がまともな動物を寄せ付けない。
まさにレンクラング最果ての不浄の地であり、流刑地。噂だがグールが
「その地ならば、仮に本当に魔王が復活していたとしてもすぐに派兵して鎮圧させることも可能です! そして彼が本当にただの愛すべき我が弟だったとしても、持ち前の逞しさで生きていけるはずです!」
随分と、ふざけた考えを持っているようだ、この男は。丁度いい、貴様に相応しい死に方を思いついた。
――私が本格的に魔王として返り咲いた際には、お前自身が私に望んでいるであろう、数多のグールに貪り食われるという無様な死にざまを与えてやる。
「し、しかしだな……」
「大丈夫です父上! 私に任せてください!!」
そうして輝かしい表情に押し負けた国王は、ミルベに提案された通りの判決を私に下す。
「……第四王子、ネロ=ファルベ! 魔王の生まれ変わりの疑いにより、ラインヴァントの地への追放を言い渡す!!」
「……残念です、お父様」
沈んだ表情で顔を伏せ、私はその沙汰を受け入れた。
――腹の奥で、魔王としての復活の算段を立てながら。
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