第11話 改稿

【現地報告書 No.11】


提出者:笠原悠人

同行者:斎宮梢



報告書が未来を先取りする――その事実を前に、梢は震える手で筆を握った。


「なら……私たちが“違う未来”を書けばいい」


「できるのか?」

「やるしかない。死を記す札なら、生を記す札に上書きできるはず」


俺たちは祠の中心に腰を下ろし、墨壺を前に置いた。

壁の札は絶えず新しい死を吐き出している。

次は“斎宮梢、死亡(09:40)”――。


時計を見ると、09:37。残り三分。



【映像記録 抜粋】


09:38

・梢が報告書に“斎宮梢、生存”と記す。

・同時に、札に刻まれた“死亡”の文字がかすれ、半分だけ消える。

・しかし新たに“笠原悠人、死亡(09:41)”が浮かび上がる。



「やっぱり代償が必要か……」

俺は息を呑んだ。

梢が生き残る未来を選べば、次に消されるのは俺。


「悠人、やめて」

梢が顔を上げた。

「二人とも生きる方法を探しましょう」


その言葉に頷き、俺は墨を手に取る。

報告書に殴り書いた。

――笠原悠人、生存。斎宮梢、生存。怪異、消失。


祠全体が震動し、壁の札が一斉に剥がれ落ちた。

黒い紙片の嵐が舞い上がり、視界が暗転する。



【補足メモ】


・報告書への“改稿”が部分的に現実へ影響。

・怪異の札は一時的に消失。

・しかし祠内部で新たに巨大な札が出現。記されていたのは――

「改稿者、死亡」。



未来を書き換えることはできる。

だが、その行為そのものが“死の宣告”を呼ぶ。

……次は俺たち自身が、報告書の“改稿”に耐えられるかどうかだ。

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