第3話 第三の帰還者

【現地報告書 No.03】


提出者:笠原悠人

同行者:斎宮梢、新規合流者(識別コード:K-07)



祠の奥へ進もうとしたとき、突然、背後から声がした。


「――待て。お前ら、ここから先は危険だ」


霧の中から現れたのは、一人の男だった。

短髪に迷彩服。右肩には自衛隊の徽章。だが、その顔に見覚えがあった。


「……高梨? お前も帰還したのか」

「そうだ。三年前、アルドラクシアで行方不明になった高梨翔平。今は“調査隊K-07”だ」


彼は笑みを浮かべたが、その瞳は濁っていた。



【映像記録 抜粋】


時間:8:12

内容:祠前で三名が会話。

・高梨と名乗る男が自己紹介。

・だが映像には、悠人と梢の二人しか映っていない。

・音声のみ「俺は高梨だ」という男の声が収録。

通信解析班は「幻聴の可能性」と結論付け。



「なあ悠人、お前、祠の札を見たんだろ? 名前が書かれてたはずだ」

高梨が低く囁く。

「どうして知ってる……?」

「俺にも出たんだよ。二年前の札に、“高梨翔平、死亡”ってな」


梢が身を硬くした。

「つまり、あなたはすでに――」

「黙れ。俺はまだ生きてる。俺は死んでなんかいない!」


その声は、祠の奥からも重なって響いた。



【補足メモ】


・新規合流者“高梨翔平”を確認。だが映像記録には存在せず。

・本人は「二年前の札に自分の死が記されていた」と証言。

・帰還者が〈ヒギリ〉に留まり続けると、“記録”と“存在”の乖離が発生する可能性。



俺は本当に彼と会ったのか。

それとも、報告書を書いている“俺”がすでに偽物なのか。

この記録を読む者は、どうか冷静に判断してくれ。

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