第2話 山の女神にご挨拶
サービスエリアを出てから、ひたすら走った。流れる景色、変わる空気が都会を離れる距離に比例して、良くなって行くのを感じる。エンジン音と自分の心音が同調して、日常の疲れを癒してくれる。特にBMWのエンジン音は低音で、腹に響く。高速道路で回転数が上がると、まるでセスナ機か旧日本軍の零戦のようなのエンジン音に変わるのが、特に気に入っている音でもある。そして、この音に重ねてお気に入りの音楽を聴く。ヘルメットに仕込んだインカムのスピーカーからはBluetoothで繋げたたスマホの音楽を流せる。気分を上げる時には、Led Zeppelin 10代からずっと聴いて居る音楽は、特に気分を上げてくれる。心がお気に入りの音で満たされ、切り裂く空気がさらに全身を包む。こんな稀有な状況なら、いつまでも、どこまでも走れる。
普通車の数も増えて来たので、再度休憩することにした。次に入れるサービスは上里SAだ。ゆっくり導入路を進み、バイク用駐輪スペースに向かう。頭からスペースに突っ込み、エンジンを切る。サイドスタンド出し、バイクの荷重を預ける。ヘルメットを脱ぎ、インカムの電源を切る。少し疲れを感じるのは、年齢のせいだろうか?ゆっくりとバイクから降り、ヘルメットをホルダーに固定して、トイレに向かう。用を足し終えてから、敷地内にあるスターバックスコーヒーに向かう。レジ前で注文を済ませる。「トリプルエスプレッソラテ」一択。と言う言い方はカッコ良いが、それしか注文出来ない。何故ななら、このメニューはいちいちサイズを指定しなくても良いからだ。年配者には耳馴染みのない4種類のサイズは何時になっても覚えられない。偶然注文した「トリプルエスプレッソラテ」は1サイズであることに気を良くして、こればかりを注文する様なった。店内で飲むので、マグカップで提供して頂き、椅子に腰かけてゆっくりする。暖かな飲み物を暖房を弱くかけた店内で飲むと、全身の筋肉が緩んで行くのが判った。このメリハリが心地良い要因でもある。
バイカー専用のマップルを開いて、今後の予定を立てる。いつもそうだが、出発してから行き先を決める。出掛けるまでは、行きたい方向と出発の日時のみを決め、走り出してSAなどで立ち寄ってから目的地を決める。理由の一つにはその日の天候や道路状況などが深く関係し、なるべく混まずに、他のバイカーたちとバッティングしない様にすることが主な目的だ。個人プレーが好きと言うよりは、自分のストレス解消の為に走るので、なおさら他人と関わりたくないと言うのが正直な所だ。それ故この前のSAで若くて素敵な女性に声を掛けられたが、逃げる様にして出発してしまった。ちょっと悪かったかな?と思ったが、やはり譲れない何かが有った。自分だけの時間を大切にしたい。ただそれが1番だった。
マップルを見ていると、流石にバイク乗り専用だけあって、細かな情報がたくさん乗って居る。最近はバイクでもナビが付いているし、場合によってはスマホのナビでも十分に機能するが、昔の人間は地図を頼りに全て行動をしていたので、やはりバイクを止めた時には地図がしっくりくる。ページを捲り、関越道を降っていく。次に目指すのは群馬県渋川市、時間が遅ければ伊香保温泉に浸かるのだけれど、今日は早朝から出ているので、赤城山、榛名山?のどちらかを走ろうと考えている。赤城の道路は榛名に比べると傾斜はキツくない感じがする。榛名は言わずと知れた走り屋の聖地。アニメの舞台に成った所だ。今回は、秋の紅葉には少し早いが、赤城を選択。赤城神社にお参りをして、周辺で昼食。その後、新潟方面に走り今夜の宿を確保する。
予定が決まった所で、残りのコーヒーを飲み干し、出発。駐輪場の愛車のところに戻り、同じルーティーンでバイクを発進させた。しばらく走っていると右手に赤城山が見え始める。山裾を右に回り込む様に近づき、だんだんとその姿が眼の前に迫ってくる。この山の素晴らしさは、山裾が向かって右側に長く伸びている姿が好きで、富士山の裾野のようなシンメトリーでは無いところがとても気に入っている。日本の山は富士山のように長い山裾が美しいと、海外でも人気だが、僕の偏屈なところは、片側だけが長い赤城山がとても良いと思う。差し詰めそれは、百人一首の挿絵の小野小町の後ろ姿に似ていると思いながら何時も眺めている。長い髪と十二単の裾が流れている感じに似ていると、ずっとそう思ってきた。
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